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12.コドモガ イマシタ


 ゴブリン達は恐怖していた。

 小さな小さな違和感ではあるが、細かい振動が立て続けに彼らの住処へと響いてきたのだ。

 自分達の部族全員、見張りを除いて安らかに睡眠をしていたところに、謎の振動。


 当然見張り役のゴブリンは周囲をきちんと確認しており、その違和感に関しては割とすぐに気付けた。


 森が、徐々に消えていってるのだ。

 もともとゴブリン達は夜間に特化した生物でもなく、夜中のうちに光を使わない、程度の習性である。

 そして特化された夜目ではないからこそ、この現象は殊更不気味に映った。


 更に見張り役のゴブリンは考える、一体この現象を住処にいる皆にどう伝えれば良いのか。

 敵が来た? 違う、敵対心も感じないこの現象は敵ではない。災厄が来た? 違う、現時点で自分達には害が無い。


 なんだ、なんなのだ。未知の恐怖と戦い続ける見張り役のゴブリン。

 しばらくの間戸惑っていたが、結局見張り役のゴブリンは住処の中へと入って全員に異常を知らせる。

 しかし知らせる前に住処の中に居る部族は、子供も含めて全員目を覚ましていた。

 異常が発生したと、何かが起こっていると本能で理解していたのだ。


 ゴブリン達は万全を期す為に、自分達が出来る準備を次々と整えていく。

 戦える者達は、数少ない武器を持ち、女子供と老人は夜の眠気も気にせず、すぐに住処から逃げられる様に。

 そんな用意をしているうち───ふと、振動が停止した。


 ゴブリン達はそれを訝しむ、振動が突然ピタリと止まったのだ。

 だが、野生に生き抜く彼らにはそれはむしろ焦燥を一層増すものだった。

 とにかく訳が分からない、少しでも情報を……もしかして森が全て消えてしまったのか?

 そんな緊張感が張り詰めている中で、一番情報を持っている見張り役のゴブリンはもう一度外に出て周囲を確認しよう、と心に決めた。


 しかしその直後。


 ──……キッ、……──ジャ……ジャキ……ジャキッ……─



 聞こえる。


 聞こえた。


 なんだ、この音は。


 金属が擦れるような、この音はなんだ!


 遠くからどんどん近付いてくるこの音は一体なんなのだ!!



 住処の中は、緊張した空気が今にでも爆発してしまう寸前まで高まった。

 夜の暗闇から、森が消えて行き、今まであった振動も止まり、謎の音がこちらに来ている!


 森が消えているという情報を持っているのは見張り役のゴブリンだけだったが、それひとつが欠落していたとしても未曾有の恐怖な事には変わりが無い。


 ──ジャキッ、ジャキッ、ジャキッ、ジャキッ



 来た。


 居る。


 もう、そこに。


 何かが、そこに、居る!!



 状況は、もう待ってくれない。

 見張り役のゴブリンは、気付いた時には自分の意思でも無く住処の外へと駆け出していた。


 絶対に、やらせるものか。

 皆を、家族を、守る。例え我が身が屠られようとも。


 戦った人間から奪い取った武器を引っ下げ、彼は外へと飛び出した。


 同じ心を持った、戦えるゴブリン達と両隣で、共に叫びながら。







 そして叫ばれながら対峙した『Avenger-Ⅳⅸ』は、行動がフリーズしていた。


『緑色の幼児達───推察状況 敵対?

 相手精神状態 恐慌 焦燥 不安と予測 雄叫びの音声情報 登録無し

 最適行動検証中───検証中───検証中───…………』


 完全に停止した様に見せて、一応そのAI内ではひっきりなしに状況推察と考察が展開されていたが……どうにもこうにも、彼は産まれたて故にこの手の状況の経験がとても薄い。

 目的を持たない対峙に、慣れていないのである。


 オオカミの時は治療を目的として近付き、門番の時は話を聴く事が目的であった訳であり、そしてなおかつ彼等は勝手に敵対を解除していた。


 ───つまり目の前に居る緑の幼児達も、時が過ぎれば敵対行動を解除してくれるのだろうか?


 AI内ではそんな謎の思考が産まれ掛けていた。


 一方のゴブリン達はたまったものではない。

 一体何なのかもわからぬ巨大な人型が目の前に立っており、こちらをジロジロと無遠慮に見ているようにしか感じられない。

 彼が目の前に現れた理由もわからないし、襲ってこない理由もわからない。


 しかし事態が一触即発であるのは間違いない。

 ゴブリン達は震えながらも『Avenger-Ⅳⅸ』に対して武器を構えているし、彼も彼で武装解除の傾向が一切見られない故にAI内で試行錯誤を繰り返す。

 住処の中では、他のゴブリン達が震え上がりながら様子を見守っていた。


 そうして、事態はついに動き出す。

 『Avenger-Ⅳⅸ』は、ゆらりと一歩、二歩と前へ出た。

 その反応にゴブリン達は各々の武器を握り締め、彼に殴り掛かる力を溜める。


 ゴブリンが力を溜めたその瞬間、『Avenger-Ⅳⅸ』の膝から上は勢い良くゴブリンに近付く!


 ついに緊張感が爆発したゴブリン三人は、震える体を無理矢理動かし、叫びながら殴り掛かり───


【グギャァァァァーーーーーーーーーッッ!! ───……ァ?】


 武器を振りかぶったところで、彼等の動きは停止した。

 正体不明の何かは───突然動いたかと思いきや、いきなり地面に膝を付いたのだった。

 攻撃をされると思い動いたら、膝立ちになった。


 彼等が困惑の中、立ち止まってしまっている中で『Avenger-Ⅳⅸ』は更なる行動へと移った。


 腕を前に出して地面に手を付き、ゆっくりと上半身を寝そべらせる。

 静かに横になった『Avenger-Ⅳⅸ』は、うつぶせの状態でゴブリンの前に体を投げ出している。


 その行動一つ一つにゴブリン達がビクッとしながらも、あまりにも謎めいたその動きに対し、思考と行動が停止していた。


【ギャ、ギャグ……?】

【ギ、グギ……?】

【ギャ、ギャッグギ……】


 力尽きて倒れる等なら彼等もまだ理解出来るのだが、動きを見る限りこの正体不明の何かは、自ら地面に体を寝かせている。

 もちろんゴブリン達もこんな行動見た事もないし、対応策も思い浮かばない。


 そして───ふと『Avenger-Ⅳⅸ』の頭部だけが、ギュイっと上に向けられた。


 ゴブリン達は頭部だけがこちらを向いた事に驚くが、やはり何がしたいのか全くわからない。

 しかも何か言いたげにこちらを見ているようにすら感じられる。


『……こちらに敵対の意思はありません 武装の解除を要請、後に会話を要求致します 』


 更にはどこかから謎の音が漏れ聞こえてきた。

 なんなんだろう、これは一体何が起こっているんだ。


 試しに、勇気ある見張り役のゴブリンは『Avenger-Ⅳⅸ』にそ~っと近付き、ボロボロの剣で頭部をツンツンしてみた。

 恐る恐る、疑念の意思を持ちながら、及び腰で。


 つんつん つんつん


 『Avenger-Ⅳⅸ』は、メインカメラに彼等の姿を捉えており、現在進行系でその表情を検証に掛けている。

 表情筋の形と動きに、発汗状況からして、敵対というより戸惑いであると理解していた。

 故に無抵抗に突っ付かれ続ける。


【ギャ……ギャ……】

【グ、ギ…………?】

【ギャー……】


 彼は一体何を考え、ゴブリン達の前でうつぶせになっているのか……。

 それは、AI内で照らし合わせていたデータにこんなものを発見したからであった。


 はるか昔に存在したとある国では、土下座という文化があったと彼のAIには登録されていた。

 それは相手への敵対意思の無さをアピールするものであり、その行為には更なる上位の行動が存在していたらしいのだ。


 それこそが、彼が今やっている、『土下寝』である。


 実はそんな言葉は存在していないのだが、とある書類にその言葉が出てきており

なおかつ何故かそんなものがAI内に登録されていて、『Avenger-Ⅳⅸ』はこの場を鎮める有力手として採用してしまったのだ。


 が、不思議な事にそのような文化もないゴブリン達にも「敵対意思の無さ」は伝わったのか、一触即発という空気は霧散していた。

 だが、『Avenger-Ⅳⅸ』のAI内では更なる難題が押し寄せていたりする。


『──起床のタイミング 不明 要望を要請致します 』

【【【………………。】】】


 いつ起き上がればよいのか、わからなくなっていた。




相変わらずノリがよくわからない。

とりあえず彼は平和です。


7/23 行の初めに空欄がなかったため調整と字の訂正

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