プロローグ
「……ついに、クヒッ、ついに……完成だ……!」
時は西暦28XX年、とある海岸沿いに位置する研究施設、その地下2階。
「ヒ、ヒヒッ……これで、こいつで、全てを破壊し尽くしてくれる……!」
旧世代における、スーツ姿と呼ばれる服装の上に白衣を着込んだその男は、地下に作られた研究施設の中で、様々な配線がうねる設置物の中で静かに佇む無機質な人型のナニカの前で、完全に気狂いな呟きを響かせていた。
施設の外では彼の言動を全く祝福しないが如く、大雨が降り続け、海は時化っている。
「さぁ、起動せよ……私の造りし破壊機兵『Avenger-Ⅳⅸ』よッ! そしてッ! この世界の全てをッ! 私達を見捨てた全てをッ! 塵に還すのだッッ!!」
白銀の装甲を持つ機人が佇む設置物の前にある操作パネルのようなモノの中にある起動ボタンを、男は勢い良く叩いた。
「───……な……何故、だ……何故動かん? 何故動かんのだッ!? 起動に必要なエネルギーも、それに伴い強烈に磨耗する箇所も、内部AIの設定も、不具合動作の確認も、全て、全て全て全て 全 て 完ッ璧 な筈だッ! 何故だ『Avenger-Ⅳⅸ』!! ───何故動かんのだッッ!!」
男が何度起動ボタンを叩こうが、周りの装置が稼動している様子はあるものの、機人は微動だにしなかった。
狂ったように男が叫び続けようとも、機人は何の反応も示さない。
「クソックソッ…………!! この、この私が、失敗など、犯す筈もッッ!! どうして動かんのだッッ! クソォォォオォォォォォォオオォオォーーーーーーーーーーーーーッッ!!」
男がひとしきり呪詛の叫びを吐き出した際に───それは起こった。
ゴッガァァアァアアァァァンッッッ!!
「ッッ!? な、なん、なんだっ!? 銀河統括組織かッ!?」
凄まじい、まるで何かを破壊するような音が地下まで伝わってきた。
それは、外で荒れ狂う雨雲が発生させた、旧世代におけるメインエネルギーだった「電気」が太く強く纏まったモノ───『雷』だった。
施設を貫く避雷針に、落雷し───なおかつ施設を建築した際に想定していた雷の威力を遥かに超える電力が、施設に落ちたのだ
そして旧世代のメインエネルギーとはいえ、瞬間的には膨大な威力を有していた落雷は、地下の研究施設における様々な機械仕掛けの装置に悉く侵食し、装置は次々と爆発、破裂していった。
「な、なんだ、と……?! これは──電、気? ……ッ、落雷かッッ!! ここまで来て、ここまで来てッ!! 私は、天にッッ!! 認められぬというのかッッ!!」
既に機械に『電気』などという非効率なエネルギーを使う時代ではなく、もちろんそれらは『ハイエーテル』と呼ばれる違うエネルギー源で動いていたのだが、そのエネルギーラインに『電気』が無理やり混ざったのだ。
爆発により科学化合物が燃え、地下の空気が濁りだし、人体に影響を与える有毒な気体が生み出されて行く中で───
「……? ッ! 起動、しかけている……!? 起きろ『Avenger-Ⅳⅸ』!! 起動せよ『Avenger-Ⅳⅸ』!!」
その落雷がもたらしたエネルギーが上手く働いたのか、動く気配がなかった機人の周りでは、エネルギーが更に濃密に動いている様であり、男は起動ボタンをひたすら叩き続けた。
そしてその渦中にある機人は、一定のリズムで微かに震えており、周りを取り巻くケーブルが徐々に外れていったのだ。
「ハ、ハハハハ……良いのだ、お前さえ動けば全て壊れようが問題無いのだ……!! さぁ、立ち上がれ『Avenger-Ⅳⅸ』……私の望みを叶える為にィィィィイイイイイイィィィィッッッ!!」
甲高い叫び声と共に、男は機人の前で両手を目一杯に広げた。
作り上げた主として、まるで我が子の訪れを歓迎するかのように。
『───起動システム、問題無し。体内エネルギー残量99.85%。周囲危険物── ……? 微弱に炎上、破損による無機片確認、警戒モードに移行。各部稼動部位、問題無し。Avenger-Ⅳⅸ、起動致します 』
「お、おぉ…………おおぉぉ…………!!」
『前方の生物の脳波PHASE、機内データ照合───製作者と確認。警戒解除、お会い出来て光栄です "MASTER" 』
───そして、この世界にとって絶望の象徴となるであろう殺戮機人『Avenger-Ⅳⅸ』は、周りの機器が次々に暴発、破裂していく中でこの世に産声をあげ、製作者である男は狂喜が張り付いた笑顔でその誕生を祝福した。
「そうだ、私がお前の製作者、オディオ=アーヴィングだ……!」
『サー、"MASTER"オディオ』
「キヒ、ヒヒヒヒヒャヒャヒャヒャッ!! これで、これで私の悲願は達成されるッッ!」
『如何様にも御命令下さい、"MASTER"オディオ』
「さぁ、ここからが絶望の始まりだッッ!! 『Avenger-Ⅳⅸ』よ! この世界の全てをッッ!! モノと言うモノをッッ!! 人という人、漏れる事無く全てをッッッ───」
───ここで、研究施設は閃光に包まれた。
閃光だけではない、爆発による熱も、物理的な破片の屑にも包まれた。
そう、破損による耐久度減少により施設自体が耐え切れなくなったのだ。
そして施設の中で収まっていた、膨大なエネルギーは化学現象により暴発し、その衝撃波は地下を吹き飛ばす破壊力を有するに至った。