気がかり。Ⅱ
翌朝は、いつもより早めに目が覚めた。
「散歩でもするかー」
分厚いコート、マスク、手袋。
おまけに音楽プレーヤー。
万全万全!!
ある程度の準備体操をして、外を出る。
寒くね?!
散歩にも気温の限度があるよー
ぶつくさ文句をいいながら自宅周辺をうろつく。
この寒いのに、掃除をしている人がいる。
あの化粧品店の入り口付近、窓ガラスなどを濡れふきんやらなにやらでふいたり掃いたりしていた。
誰だか聞かなくても、コンタクトが入ってなくてボヤけていてもシルエットや容姿ですぐにわかった。
小さい身長、ゆるいパーマのショートカット。
「沢本…さん?」
「あっ!早いですね。おはようございます」
後先考えずになんとなく話しかけてしまった。
「おはようございます、あ、いや別に用はないんです(笑)」
「ですよね(笑)そんな気がしました」
苦笑い。
自分わかりやすいんだよなー。
だからいつも愛想つかされるんだよな。
友達も少ない僕。
`俺´なんて自信なくて言えない。
心も細くてよわっちいから、曖昧な雰囲気に耐えられない。
もちろん、この場もすぐに逃げる。
自分から声かけておいて逃げる。
最低。
「と、とりあえず、これ使ってください。僕はこ、これで!」
役に立つかなと思って持ってきた手袋を、強引に手渡し、逃げるように歩いた。
えっ、ちょっと!
そんな声が去った僕の後ろから聞こえる。
手が汗でびっちょりだ。
顔が熱い。
自宅に戻り、水道水をがぶ飲み。
息切れをしている。
そっと窓の外を再びのぞいてみる。
その後も続けて彼女は掃除をしていた。
僕は気づいた。
「なんで、こんな心臓がなってんだ」
好きなんて、そんなことない。
昨日会ったばかりだ。
一目惚れなんて、したこともなければ信じてもいなかった。
だからこのときは、ただの緊張だと思っていたんだ。
心の奥で、これで惚れてしまっていたらまた自分が情けなく弱い人になってしまいそうで
怖かった。
なんとなく。
不思議な戸惑いが消えないまま、いつもの流れで出勤した。