気がかり。
「おはようございます。」
勤め先の自動ドアを抜けながら、すれ違う先輩社員に挨拶をする。
奥へ、奥へ進み、自分の机に座ってパソコンを開く。
「はぁ。」
「柏木、疲れてんなぁー」
やっべ、ため息聞かれた…
「すいません。アンケート集計で徹夜が続いてるもんですから」
「残業しない派だもんなあ柏木は。夜やっても寝れなかったらいい結果出せねーぞー」
あははは…なんて愛想笑い。
イスでぐるぐる回ってる暇あるなら仕事を全うしてくださいよ!!
言えたもんじゃないな。
ー3時ー
「柏木、ちょっと頼みが」
「はい。」
「注文のアクセサリーが届いたから、お前のマンションの前の化粧品店に持ってってくれ」
「わ、わかりました」
会社の車のカギを握って、大きな段ボールを抱えて走った。
化粧品店なんて入ったことねーよ。
女性ばっかだろーどんな顔するんだ?
店に入ったときの挨拶をすこし練習してる間に、ファンタジーと大きく英語で書かれた看板に近づいた。
車を止めて、また荷物を抱えて入り口に入る。
「すいません!☆☆社です。お届け物を…」
「あっ、はいっ」
明らかに先輩から行ってこいと言われたような女の子が走ってきた。
「寒いなか、お疲れ様です。」
「いえ…」
少し舌ったらずだけど、満面の笑みで応じてくれた彼女に、なぜか見とれてしまった。
軽くお互い会釈をして、彼女は奥へ戻っていった。
そのとき、僕は彼女が元の仕事に戻ることが悲しいことかのように名残惜しそうな表情を浮かべたように思えた。
久しぶりに女の子と話した。
だからちょっと気にしすぎたんだな。
荷物を届けたことが、いい気晴らしになった僕は会社に急いで戻った。
その後は普通に仕事をし、全員がちょうど帰宅できる時間夜7時に荷物をまとめ、家路につくことにした。
朝と同じ道を行き、昼間に訪ねたあの化粧品店の前に差し掛かろうとした。
目の前に、風の強く寒い夜の道で必死に草むしりをする少女を目にした。
「あのー…」
無意識のままにうっかり話しかけた僕を、その少女は不思議そうに見つめ、ひらめいたように口を開けた。
「あぁ、お届け物の方ですね」
そう、彼女は荷物を届けた店で引き取りにきたあの女の子だった。
「風邪ひきません?こんなとこで草むしり」
「これが私の仕事ですから」
「そう、ですか。」
「さっき、訪ねて来られたとき名札を見ました。たしか、…柏木さんでしたね?」
「よく覚えてましたね、」
「記憶力はいいんです。あ、私は沢本です。沢本 ゆず。」
やんわりとした笑顔を浮かべながら、一つ一つ話に答えてくれた。
話し終え、続いて草むしりをする彼女は手にはーっと息を吹きかけた。
そのとき、見えた彼女の両手は真っ赤に腫れて霜焼けがひどくてつい目を反らしてしまった。
着けていた自分の手袋も、渡す勇気もでないまま冷たく僕は去った。