ぼく。
平凡で、面白みなんてものがないように思えた僕の生活。
君に出会って、僕ははじめて誰かを本気で
「守る」
っていうことを知ったんだ。
小さくて、今にも壊れそうな手をめいっぱい僕に振りながら顔をくしゃくしゃにして笑う君を、ずっとずっと愛していたい。
小さな幸せ、大きな幸せ。
なんでもいい。
君がいつまでも幸せでいられますように。
君と僕が、もしも何かに引き離されそうになっても絶対に離さない。
だから、ずっとその笑顔でいろよ。
雪がちらつく12月。
この寒い中、排気ガスで汚れた街を行き交う毎日、普通に過ごす人々。
僕もそのなかの一人だ。
冷えきったポケットのなかで音が鳴る。
プルルル……プルルル…
「はいもしもし。…はい…わかりました。」
上司の命令で足早になる。
少しうつむきながら、急いで会社に向かう。
柏木 信(かしわぎ まこと)25歳。
ピカピカの新人で、ピカピカのスーツを全身にまとったまったくつまらない男だ。
朝から友達とはしゃぐ元気なギャルがうらやましく思う。
毎日、誰かの言いなりで行動して誰かの機嫌を取りながら過ごす。
休日は、用事もなければ仕事もない。
宅配ピザを片手に雑誌や広告を見たりする。
もしここで倒れたって誰も気づかない。
死んだってわかりゃしないんだ。
こんな自分にも、何か起こるのだろうか。
誰かが僕に、だぁーーいすきっ
……なんて、言ってくるような日が来るのだろうか。
ロマンチックでドラマチックなそんな夢物語みたいな生活、僕には遠い存在だ。
働いた成果を褒めてくれるような人なんていない。
親でさえ、早く恩を返せだの仕送りまだかだの言っていつまでも応援なんてしてはくれない。
「ふっ………」
ため息混じりの鼻笑いしか出ない。
取り柄のない僕は、
信号待ちで聴こえる隣に立つ人のイヤホンからもれた微かなバラードに浸った。