雨の日
今日、あいつを見かけた。
新しいブランド物のバッグを持って、
うれしそうに街を歩いているあいつを見た。
あの晩、見せたあいつの涙を今でも覚えている。
霧のような雨が少し強くなってきて、
二人の肩をぬらし、それでも傘もささずに立っていた。
「どっか、店に入ろう」
俺の言葉に、あいつは黙って首を振った。
そして、頬に一筋の涙。
やばいよ、俺、このままどこかに消えてしまいたいよ。
俺がいたたまれずにそわそわすると、
あいつは急に俺の身体を抱きしめてきた。
ふわっとした甘いシャンプーの匂い。
巻き毛のあいつの髪が俺の胸の上に広がる。
あいつの熱い頬を心臓の上に感じながら、
俺は思わず、あいつを抱きしめた。
ただ、ぎゅっと。
「わかってた。あなたが、そう言うの」
あいつは顔を俺の胸に埋めたまま、そっとつぶやいた。
俺のバクバクと言う心臓の音はあいつには絶対、聞こえていたと思う。
だから、あいつはあの時、顔を上げ、
俺の頬をその細い手で包み込んだ。
柔らかな手のぬくもりを感じ、俺は思わず目を閉じた。
あいつ、キスは上手かったな。
優しく俺を引き寄せると、そのふくよかな唇で俺の唇をゆっくりと吸う。
まるで、俺の心まで吸い取っていくようだった。
ああ、俺はこれに弱いんだ。
雨がしとしとと、さらに降り出した。
俺達はそのままずっと抱き合ったままだった。
あいつ、かわいかったよな。
俺はふっと口元に笑みを浮かべた。
仕事が終わって車に乗り込むと、俺はタバコを一本吸った。
いつもと同じように。
部屋には灯りがついていた。
「おかえり〜、今日、デパート行ってたの、
ねぇ、ねぇ!これ、買っちゃった、見て、見て!」
ホント、プロポーズした、あの時のお前は今よりずっとかわいかったよっ!




