元素な彼女は記号な俺と
秋の短編祭り第一弾！！
詳しくは作者ページの活動報告を見て欲しいです。
第一弾は真正面な青年と、ちょっと変わった少女の科学系コメディー！！
「今日から君はＯだ！」
「……は？」
……これが俺、黒鉄徹哉が彼女に初めて掛けられた言葉である。
「あの、Ｏって……何？」
俺は当然の質問を返す。
「Ｏは酸素に決まっているだろ！」
彼女は胸を張って答える。
……酸素？
もしかして、元素記号？
季節は４月……
ここは私立石鉄高等学校。
俺、黒鉄徹哉の通う、ごく普通の高校だ。
ちなみに俺は一年生。
今年から入学してきた新入生だ。
「いいか？ ウチの学校は全員何等かの部活に所属しなければならない」
ホームルームの時間。
担任の中澤が黒板にでっかく“部活”の二文字を書いた。
「部活かぁ……」
正直、俺は運動が苦手。
出来れば文化部がいいなぁ〜。
「今日から新入生は一週間、体験入部の期間だから、各自色んな部活を回ってみてはどうだ？」
体験入部……
う〜ん、とりあえず今日はどこへ行こうか？
放課後……
俺はまだ体験する部活を決めておらず、ただただ校内をぶらぶら歩いていた。
「う〜ん、文化部か……音楽や美術、写真や華道……どれも難しそうだな」
かと言って、俺に野球やバスケの才能はないし……
そうこうしているウチに、いつの間にか学校の北側、特別教室棟の二階、化学室の前に来ていた。
「ここ……化学室？」
化学室って確か……科学部ってのがあったような。
「理科か……俺、あまり理科得意じゃないし……」
どうせ特別教室棟に来たならば、音楽室とか回ってみようかな。
まぁ、どちらにせよ科学部はナシの方向で。
うん、理科苦手だし。
「えっと、音楽室は確か３階……」
そして、俺が３階への階段を登ろうとした
その時！！
ガラガラッ！！
「今日から君はＯだ！」
……え？
何？
今突然、化学室のドアが開いて……
女子生徒出て来た！？
「……君はＯだ。この科学部にとってのＯ。なくてはならない存在」
「……はい？」
その女子生徒を一言で表すなら「可愛い」。
セミロングの黒髪、大きな瞳、見事なスタイル。
しかし……
「あ、あの……Ｏって何？」
アルファベット１５番目
Ｏはローマ字読みで「お」だよな？
って何？
「Ｏとは酸素の事だろうが！！」
「さ、酸素！？」
え、まさか元素記号？
あの理科とかで使う、元素記号！？
「酸素とは、この地球にとって、なくてはならない気体元素だ！！」
「は、はぁ……」
「そして君は、この科学部にとって、なくてはならない存在なのだ！！」
「え……？」
な、いきなり何なのこの人！？
「つまり、君は科学部にとっての酸素的存在、すなわちＯだ！！」
い、意味わからない？
「ようこそ、科学部へ！！」
はい〜！！？
「私は科学部部長の杵島はがね。よろしくなＯ！！」
「……何この展開」
今、俺は化学室の中にいます。
さっき出会ったこの人に、半ば強制的に化学室内へ連行され、現在に至る。
「あの〜」
「何だＯ？」
Ｏの件のツッコミは置いといて、
「俺、そろそろ体験入部の時間なんで、音楽室へ行かないと……」
マジ時間だし。
「む？ 何を言っているんだＯ？」
「いやだから、体験入部の時間が……」
「君は既に科学部の一員ではないか」
え？
「え？ 今なんて？」
「だから、もう君は科学部の一員だ！！」
「はい！！？」
え！？ 何で！？
「今、科学部員は私一人しかいないんだ。だから、部活の最低人数である五人を目指し、部員勧誘中なのだ」
「だから何なんですか！？」
「君、部室（化学室）の前で立ち止まっていただろ？ 新入生は緊張して中々部室へ入れないと顧問から聞いていたので、こちらから迎えてやったんだ」
「…………」
えー……
まさかの勘違いですか。
「現在廃部の危機に面している科学部にとって、まさに君は必要な存在、すなわちＯ！！」
「要は人数合わせか！」
ってか、それ以前に
「俺、科学部なんて入る気全く無いんですけど！」
Go to 音楽室。
「……何を言っているんだＯ！！ もしかしてＨの方が良かったのか？」
「活字注意！！」
活字だと水素以外の捉え方が……
「ってか、水素酸素関係ありません！！ 俺は音楽室へ行くんです！！」
「そうか……やはりここは間を取ってＣａに……」
「人の話を聞いて下さい」
石鉄高校科学部
去年までは三年生四人と一年生一人（杵島）の五人で活動していたらしい。
しかし、この春三年生四人が卒業してしまい……
「私は先輩方の意思を継ぎ、この科学部を継続させてみせる！！」
杵島はがね、二年生。
科学大好きっ子。
「…………」
何だか……音楽室へ行きづらい感じになってきてしまった……。
「あの〜……き、杵島先輩？」
「何だＨ？」
「……結局水素……じゃなくて、先輩はなんで科学部に？」
こんな人数ぎりぎりの部活、どうして……
「私は科学が好きだからだ！！」
単純明確。
「……ＨとＯでＨ2Ｏ、すなわち水素と酸素で水が出来る。これ、凄いと思わないか？」
「凄いと言われても……」
正直わからない。
「全く違う原子やイオンが集まって、私達の身の回りの物になるんだぞ！！」
「…………」
「炭素と酸素で二酸化炭素、水素とナトリウムで水酸化ナトリウム。色々な物から色々な物が生まれるんだ、科学はな」
「…………」
先輩はにこやかな笑顔を見せた。
無邪気な笑顔。
「発見と驚き、そして不思議。どれも科学の楽しさの一部だと思わないか、Ｚｎよ」
「だから何故人を元素記号で例えるんだ？」
しかもＺｎて……
「と、言う訳でようこそ、科学部へ！！」
「……やっぱりそうなるのか」
でもなぁ〜
「あの、そもそも俺、理科とか科学とかは苦手で……」
「大丈夫だＰ！！」
まーた変わったよ、呼び名。
「わからない事があったら、“石鉄高のＭｇ”こと、この杵島はがねが１から教えてやる！！」
「石鉄高のマグネシウムっすか……」
あ、何気に俺、科学得意かも。
「違うぞ、石鉄高のマッドサイエンティストガールの略だ！！」
「あ、そこは元素記号じゃないんだ！！」
逆にむず痒い！！
で、翌日。
まだ今日は体験入部期間なので、またしてもぶーらぶら中。
「……に、しても」
昨日の科学部は凄かったなぁ〜（色んな意味で）。
「……よし」
今日こそは音楽室へ行こう！！
科学部へは行かない！！
でもね、音楽室へ行くには化学室の前を通らなければならないのであって、
バリ〜〜ンッ！！
「うおっ！？」
案の定、化学室の前を通った時にとてつもない爆音が！！
しかも爆音は化学室の中から！！
「……何だ？」
その時
ガラガラッ！！
「おお、君か！！」
化学室のドアが開き、中から杵島先輩が現れた。
しかも白衣。
「あの……今の音は……一体？」
「ああ、今、ニトログリセリンをハンマーで叩いていたんだ！！」
「なっ！！！」
あ、危ない！！
「あとは……酢酸と蔗糖水溶液を混ぜたり、スチールウールを燃やしたり、蜜柑に電流流したり……」
「ニトロ以外は小学生レベルの実験ばっかり！？」
ってか、科学部って日頃何してたの！？
「あ、リトマス紙余ってるから、良かったら使ってみる？」
「いや結構です」
小学生の時にやりました。
「そうか？ まぁとりあえず今日も寄っていってくれＡｌ！！」
「今日はアルミニウムですか俺！！」
で、今日も来てしまった……。
杵島先輩は笑顔で俺を化学室へ引っ張り込むからな……抵抗が出来ない。
「良かったら、さっき電流流した蜜柑でも……」
「いりません」
何を食わす気だ！！
「そういえばＢｅ、液体窒素って知ってるか？」
ベリリウム……
「液体窒素ですか？ まぁ名前程度なら……」
確か−１９６度の液体だっけ？
バナナで釘が打てます。
「良かったら、手ぇ入れてみる？」
「はあ！？」
ちょ、え〜！？
「確か準備室に……あ、あった！！ 液体窒素」
「ちょ、ちょっと待って下さい！！」
一旦落ち着こう！！
「どうしたＨｅ？」
「ヘリウム……じゃなくて、それ手ぇ凍るでしょ！！」
−１９６度だよ？
軽く手が腐るよ！？
「一瞬なら大丈夫。液体窒素にとって、人間の体温はまさに灼熱。何しろ−１９６度と３６度だから、軽く１６０度の差だからね」
「……つまり？」
「液体窒素に人間の手を入れた瞬間、液体窒素は蒸発する！！ 熱々の鉄板に水滴を落としたみたいに！！」
「……そ、それ、本当ですか？」
な、なんか……
「大丈夫！！ でも本当一瞬だけだよ？ じゃないと体温が低下して、それこそ本当に手が腐っちゃうから」
「……やっぱり遠慮しておきます」
まだ手を失いたくない。
「そう？ ……じゃあせめて、グミとかマシュマロとか凍らせてみるから、是非食べてみてくれ！！」
「グミですか……」
あ、ちょっと食べてみたいかも。
「……あ、そういえばグミ切らしてた」
「……期待させといてそれですか」
何だかな〜……
……でも
「じゃあまた明日来てくれ！！ 明日にはグミとマシュマロとワカメを用意しておくらかな！！」
「ワカメって……もしかして増えるの！？」
「……秘密だ」
「なっ……秘密って、教えて下さいよ！！」
「明日来てくれれば分かるかも〜」
「うむむ〜……」
でも、何か
「フフっ、是非来てくれよな、Ｏ！！」
「俺は元素記号じゃなくて、黒鉄徹哉です！！」
何か、楽しいかも。
科学！！
「俺、か、科学部に入部しようかな〜？」
体験入部最終日。
昨日は音楽室で音楽部の体験をしたが……
つまんなかった。
「入部って……お前はもう科学部員だろＬｉ？」
「…………」
何事も直感が大事。
「部活保持にはあと三人の部員が必要か……」
「……杵島先輩」
「なんだＮｅ？」
……元素記号なら元素記号で、呼び名は一つに統一して欲しい。
「俺、科学部のビラとか広告とか作ってみます！」
「そうか！！」
科学部か……
「……そうだ先輩、この部活の目標とかってあるんですか？」
ビラに書く材料になる。
「む、目標か……う〜ん、そうだな……」
そして先輩は、ガバッと立ち上がった。
「よし、科学部目標は“みんなに科学の楽しさを知ってもらう”！！」
「……先輩が言える程の事ですか、それ？」
……でも、まぁいいか。
「いいかＯ、いつしかこの科学部を石鉄高校で１番有名な部活にしてみせようではないか！！」
「……先輩、さっき言ってた目標と違うんですが……」
……でも、とりあえず、これより……
科学部始動だな！！
いかがでしたでしょうか？
感想等がありましたら、よろしくお願いします！！
次回、秋の短編祭り第二弾は、星を越えた宇宙ＳＦラブコメディー「冥王星をよろしく！」です！！
良かったらそちらの方もよろしくお願いします！
