第7話 障害試験
気温が上がってきた。
前世はどうしていたんだっけ?
涼しい牧場で草をはみながら過ごしていた記憶が蘇る。
他の馬も障害コースに入ってくる。
もしかして一緒に走るのかな?
「スーやん、今日はボーイと一緒に走るよ。」
ノブさんがボーイを紹介してくれる。ボーイは顎をそらしながら
「坊主、しっかりついてこいよ。ジャンプとは何か見せてやるから」
なんか頼もしい。
「よろしくお願いします」
頭をさげる俺にボーイは満足げだった。
ボーイに続いて、障害のコースに入っていく。
障害に向かっていくボーイに続いて俺は走り出した。
グリーンウォールを飛び越える。これは余裕。
ボーイは後ろを気にしながら俺がちゃんとついていけるように走ってくれた。
ついていくのに一杯一杯の俺に気を使ってくれている。
「坊主、よく見ておけ!!」
水濠障害に向かってボーイは頭をあげて、飛んだ。
水しぶきは飛ばない。
続けて飛んだ俺は盛大に水しぶきをあげた。
ボーイは次の竹柵に向かう。
俺は枝が当たらないようにできるだけ高く飛んでいた。
ボーイは低いジャンプで枝が当たっても抜けていく。
着地後に大分差を開けられてしまった。
ボーイはスピードを緩めて俺が追いつくのを待ってくれた。
「坊主、枝は痛くない。こわがるな。ちょっと強めのブラッシングと一緒だ」
そんなもん???
「前をしっかり見ろ!障害に合わせたジャンプをするんだ」
同じ飛び方じゃだめなのか。
「飛んだら終わりじゃない!飛んだあとの次の走り出しを意識しろ!!」
飛んだあとにもボーイの叱責が飛んでくる。
すでに俺はへとへとだった。
「そろそろ時間だね。今日はありがとうございました。」
ノブさんがボーイの騎手に挨拶をしている。
ボーイが話しかけてくる。俺と違ってボーイは余裕があるようだ。
「障害は、正確に飛べるようになれ。」
「ありがとうございました!!!」
頭を下げる俺に向かってボーイは
「誰かの失敗は人も馬も危険にさらす、いつかレースで一緒になるかもな」
と鼻を鳴らしながら言った。かっこいい。俺もこうなりたい。
「障害試験がんばれよ。次はレースで会えるのを待っているぞ。」
ボーイは帰っていった。
だけど、翌日もボーイと一緒に練習だった。
えーと、次に会うのは試験の後じゃなかったんだね。
そんな日々を過ごして、俺はついに障害試験に挑むことになった。
ボーイも「マシになったな」って言ってくれた。
緊張しながら試験の会場のコースに入る。
ノブさんが頭をなでてくれる。ノブさんは俺ができることしかさせない。
きっと大丈夫だ。やれる気がしてくる。ノブさんすごい。
コースには俺のほかに3頭の馬がいた。うち1頭は落ち着かない感じだった。
ゲートに入って静かに待つ。今日は話しかけない。
がしゃん。ゲートから飛び出す。
今日は試験でレースじゃない。
最初のグリーンウォールに向かう。ここは真っすぐ飛ぶこと。
踏切の三歩前から、きっちり加速する。
踏切の位置が大事、低いジャンプじゃだめ、そして飛んだあとに体がブレちゃいけない。
一緒に走っている馬もみんな飛越を決めていく。
続けて次は生垣だ。威圧感があるけど、ボーイがいうには上のほうの葉っぱはやわらかブラシだって。
グリーンウォールと一緒の要領で越えていく。
そして向こう正面にまわって生垣をふたつ飛んだら、次は水濠障害だ。
ここの踏切は超重要!!はやかったら水にドボンとなる。俺が思うぎりぎりで踏み切る。
ちょっとだけ水しぶきがあがった。ボーイみたいにはいかないな。
他の2頭は水しぶきをあげていない。もしかして俺失格なる???!
って考えてる暇はない。すぐに狭いコーナーに突入していく。
そしてボーイのいう固めのブラシ、竹柵はコーナーの途中にある。
頭をあげちゃいけない低い姿勢のまま突っ込むように飛ぶ。
おなかにブラシ当たってる――。
あとは直線だけ、俺の前に2頭いる。すごい減速してないんだ。
最初に緊張していた1頭は俺の後ろ。同じような仲間がいる安心感と落ちたのかなという不安をかかえながら俺はゴールを駆け抜けた。
「スーやん。大丈夫だよ。」
ノブさんが優しく声をかけてくれる。
俺はへとへとだった。俺と、俺の後ろを走っていた馬は、しゃべる気力もないぐらいに疲れていた。
眠くなってきた俺に、ノブさんが伝えてくる。
「合格だよ。スーやん。2頭とも合格だって」
????
4頭で走ってたよね?あれ?
俺の前を走っていた2頭は悠々とコースをでていく。
「頑張れよ。ひよっこ」と言い残して。
俺、試験受かったんだ。
出口にあんちゃんがいた。
あんちゃん俺受かったよ!!
俺はそっとあんちゃんの袖に鼻水をつけてやった。
ボーイ
本名:オーシャンボーイ
所属:美浦
備考:障害の先輩馬




