第2話 2走目
「スーやん、ファンからの差し入れだよー」
リンゴ!? おっさんは食べやすいサイズにカットされたリンゴを手のひらにのせて差し出してきた。
手の上に直接なのは俺が馬だからだ。
前世からの好物だったリンゴをかじり、俺は恍惚となった。
俺にファンだっておかしいだろうって思うよね。
新馬戦で俺は、将来G1級の有望馬――親友エースに、勝利した。
力を使い切った俺は、次のレースまでかなり間隔が空いてしまったのだが……。
俺と違って余力たっぷりのエースは、その間に未勝利、オープンと駆け上がっていった。
エースが勝つってことは、そのエースに勝った俺の人気が出るってこと。
リンゴうまい。エースありがとう。
そんな充填期間も終わり、俺は2戦目のレースに出走する。
パドックで確認したけどエースより強いと思える馬はいない。だが、1勝してきた奴らだ。
前走みたいに勝利は厳しいだろう。
あんちゃんが駆け寄ってくる。俺とのコンビで初勝利をあげてから、力みが抜けたのか今回は固さがない。
ゲートに入り周りの奴に話しかける。話題は何でもいい。
「さっき地下馬道にリンゴが……」(10、9、8…)
横目でまわりの馬が聞き耳を立てているのを確認。まだ、経験の浅い2歳馬たちだから集中が乱れやすいのだ。
「運びこまれたのを見たんだ……しかも」(6、5、4…)
話しながらも、俺は前だけを見ている。
「箱から落ちたのが…」(3、2…)
ガシャン…!!ゲートが開いた瞬間、俺は一気に飛び出した。
聞き耳を立てていた奴の反応が遅れた。エースの大声がなかったせいか、前より効果が薄いけど、かろうじてロケットスタートを決めることができた。
あんちゃんの重心も以前と比べて少し安定してきたので合わせやすい。助かる。
だけど今回のコースはとことん俺に向いていない。直線が長いのだ。
まず600メートル以上あるこの直線を逃げなくてはいけない。
ここでまず、日夜馬房でこっそり練習している掛かった演技!口を開けて舌を出して目を見開く。俺が折り合いを欠いて失速すると思ってくれるはずだ。
演技の才能、前世の最強馬カイザーにこれは勝るかもしれないな。
それでも俺のスピードが遅いため、後ろから迫ってくる。こっちは全力なんだけどなー。
かなり近づかれたな。
俺はわざと砂を巻き上げるように走った。砂がかかるのを嫌がる気配がする。
カイザーの時は考えもしなかった小技だ。だが俺が少しでも着順を上げるためには泥臭いことでも積み上げていかなければならないんだ。砂だけどね。
主に演技の効果で、コーナーをまわるまで先頭を走ることができた。
だがここからは500メートル以上ある直線と上り坂だ。最初から全力で走り続ける俺の心臓が悲鳴をあげる。
俺の最高スピードは上がらないが、スタミナだけは鍛えることができる。
あとは粘るだけだ。馬群に飲まれながら必死に走る、走る、走る。
シンガリじゃ、ないなー。よかった。
疲れ果てて厩舎に戻って爆睡した翌朝のお散歩で、周りの話がなんとなしに耳に入ってくる。
「昨日、地下馬道で馬たちがみんな立ち止まって何か探していて渋滞してたんだって」
「崩れる予兆だったりして」「それだったら探すんじゃなくて逃げるだろう」
……俺、やらかした?
ゲートでの話もっと影響ない奴考えなきゃいけないかな。
このレースでは、スーやんは8着でした。




