マルペン商会・祝福とざわめき
3000pv突破記念投稿です。
第48話 『マルペン商会・祝福とざわめき』
社長が二人を正式に妻に迎えると発表した日、
マルペン商会はまるで蜂の巣をつついたように騒然となった。
「やっぱりな」
「おめでとうございます!」
「え、二人とも!?」
祝福もあれば、驚愕もある。
工房では槌を打つ手が止まり、
販売所では客より噂話の方が忙しくなった。
元浮浪者の若い娘たちは頬をふくらませる。
「大きくなったら社長と結婚するって言ったのに……」
「ほら見なさい、やっぱりあの二人、最初から狙ってたのよ」
羨望、嫉妬、諦め。
様々な感情が交じり合い、商会は妙な熱を帯びていた。
当の社長はというと——
「わ、私は嫌がってなどいないぞ。だがその、勢いというものがあってだな……」
口では取り繕いながらも、
両腕に抱きつく二人を振り払う様子はない。
二人の花嫁は本当に幸せそうだった。
秘書は堂々と腕を絡め、経理課長は静かに微笑みながらも、指先はしっかりと社長の袖を掴んで離さない。
「気が変わらないうちに式を挙げましょう」
「そうですね、式場は早めに押さえないと」
即断即決。
貸衣装店で純白のドレスを試着する姿は、
商会中の噂をさらに加速させた。
式は《ルミナス教会》で行われることになった。
教会の高い天井に光が差し込む様子を思い浮かべると、社長の胸もわずかに高鳴る。
——悪い話ではない。
協会長の娘を娶ることで、協会との結びつきは強まる。
商会の信用は一段と上がるだろう。
そして経理課長という優秀な財務の番人が、
家も会社も、そして社長の財布も管理する。
「……旦那様のお小遣いは月ごとに定額制です」
「な、なんだと?」
安定。
盤石。
誰もがそう思った。
商会は結婚を祝福し、市場は信用を買い、教会は後ろ盾となる。
社長はついに家庭を持った。
——これで全てがうまく回るはずだった。
だが。
祝福の裏で、販売課長は酒を煽りながら呟く。
「安定、ねぇ……」
噂は祝福よりも速く広がる。
「縁故経営」
「色仕掛け」
「協会と癒着」
静かに、静かに、火種は炭の下で赤く燻り始めていた。
幸せの絶頂は、物語において最も危うい瞬間だ。
マルペン商会は安定した。
——そう“思われた”だけだった。
「だから言ったでしょう。フリでよかったんですよ」
「この地方は、全部飲む必要ないんです」
にこにこしながら二人が見下ろしている。
「……先に言ってくれ……」
社長は天井を見つめた。
鐘の音が、まだ頭の中で鳴っている。
幸せと引き換えに、ひどい代償だった。
だが――
隣で笑う二人の姿を見て、社長は思う。
(悪くないな)
地獄の二日酔いすら、少しだけ甘い。
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「追放された、異世界中年勇者」とよくあるお話をべースに捻った作品にしました。よき読んでもらっているものは、これは変わっていて面白いと言ってくれました。




