暖炉の前の攻防戦
第47話 暖炉の前の攻防戦
その夜も、三人は屋敷へ戻った。
長い食卓。
湯気の立つスープ。
焼きたてのパン。
社長はいつものように真面目だった。
「北区の支出は来月圧縮だな。医療費が想定より――」
「社長。」
秘書がにっこり笑う。
「今日はお仕事の話は禁止です。」
経理課長も紅茶を注ぎながら頷く。
「そうです。今日は大事な議題があります。」
「議題?」
社長は嫌な予感がした。
食事が終わり、三人は居間へ移動する。
暖炉の火がぱちりと爆ぜた。
赤い炎が揺れる。
しばらく沈黙。
そして。
二人が同時に立ち上がった。
「今日こそお嫁さんを決めて下さいね!社長。」
「優柔不断はやめて、私に決めて下さいな。」
社長、固まる。
「ま、またその話か。」
二人は詰め寄る。
目が本気だ。
商談のときより怖い。
「私は明日休みですから、帰りませんよ。」
「私も今日は一緒に寝ます。」
「こらこらこら! 君たち、もう遅い! 馬車を――」
立ち上がった瞬間。
二人に腕を掴まれる。
三人でよろける。
どさり。
床に倒れ込む。
社長が下敷き。
上に二人。
暖炉の火が、ばちんと鳴る。
「……重い。」
「失礼ですね。」
「乙女に向かって。」
顔が近い。
近すぎる。
窓の外で、何かが物音を立てた。
だが今はそれどころではない。
社長は必死に二人をどかし、立ち上がる。
息を整える。
「そんなに、この中年がいいのか?」
二人、ぴたりと息を合わせて。
「はい。」
声が揃う。
普段はいがみ合うのに、こういうときだけ一致団結する。
社長は腕を組み、考える。
(ここでスケベ中年を演じれば引くだろうか?)
名案だ。
たぶん。
「じゃあ……二人まとめて襲うぞ! いいか!」
覚悟を決めて言った。
二人、にっこり。
「はい。」
「望むところです。」
社長、動揺。
「……え?」
秘書が小首をかしげる。
「この地方で“襲う”は求婚の言葉ですよ?」
経理課長が補足する。
「“襲いたいほど愛している”という意味です。」
「嬉しいですね。」
社長、青ざめる。
「いやいやいや! 違う! 違うから!」
二人、手を取り合う。
「では、二人まとめてですね。」
「承知しました。」
「いや待て! 話が飛躍している!」
だが。
経理課長は即座に計算を始める。
「協会長への報告、財産分割、商会への影響……問題ありません。」
秘書は笑う。
「では正式に受理いたします。」
社長、天を仰ぐ。
「……なんでこうなる。」
暖炉が、ぱちりと鳴る。
こうして。
マルペン商会の社長は、
二人まとめて婚約成立となった。
翌朝。
その事実がどう広がるか、
まだ誰も知らない。
そして昨夜の窓の外の物音。
それを見ていた影の存在にも、
社長はまだ気づいていなかった。
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今の時代はすぐ買えてすぐ届くのは良いけど、ついつい無駄使いしそうで怖いですね。




