あのときの子供
第36話 あのときの子供
ヤマタニが休みの日、屋敷の前に見知らぬ貴族の馬車が止まった。
馬車から降りてきたのは、一人の少女。彼女は真っ直ぐヤマタニの方を見つめ、静かに歩み寄った。
応接間で向かい合ったが、ヤマタニは思い出せずに眉をひそめる。
「私はアリーシャと申します。」
「私を覚えていますか?」
「う〜ん…。はっきりとは…。」
「何処かでお会いしましたよね?」
記憶の糸をたぐろうとしたが、ヤマタニにはどうしても浮かばない。
そんな様子を見て、少女は小さく息をついた。
「あのとき、私がお腹を空かせていたときに、銀貨をくださったんですよね?」
「え、あ…でも…。」
「なんで、こんなに立派なお嬢様になっているんですか?」
「あはは…。」
「実はいろいろあって、ある方の養子になったんです。」
ああ、そういうことだったのか——と、ヤマタニの胸に納得が落ちる。
「でも、すっかり見違えましたね。」
その言葉に、心の奥で暖かいものがふわりと広がる。
まるで、あのとき渡した銀貨が、時を超えて返ってきたかのようだった。
「そのときのお礼がしたくて、ずっと探していました。」
「助けてくださって、本当にありがとうございます。」
少女は深く頭を下げ、丁寧にお辞儀をした。
その姿に、ヤマタニは何とも言えない誇らしさと感動を覚えた。
二人はお茶を飲みながら、あの日のことを語り合った。
両親を失い、天涯孤独になったこと。
孤児狩りに遭い、施設に送られたこと。
そして、施設から養子として迎えられたこと。
「今はモンブス伯爵家にいるんです。子供はいません。」
少女の瞳は穏やかで、しかしどこか芯の強さを秘めていた。
「また、会いましょう。」
少女は微笑み、馬車へと歩いていく。
ヤマタニは見送りながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。
あの銀貨一枚が生んだ奇跡に、静かに感謝を噛み締めた。
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「多重人格ボクサー」の話を作ったのですが、何処かの漫画のキャラがいたのでやめました。




