禁酒の誓い
第28話 禁酒の誓い
約束どおり、ヤマタニはドクターの部屋を訪れた。
机の上には、いつものように酒瓶――が、
ない。
「どうした?」
主人公が尋ねると、ドクターは椅子に深く腰掛けたまま言った。
「わしは、酒をやめる」
思わず聞き返す。
「それは何故です?」
ドクターは真面目な顔をしていた。酔いの赤みはない。
「実はな。酒を飲んでも、本当は楽しくもなんともない」
ぽつりと落ちる声。
「嫌なことを忘れようとして、逃げていただけなんだ」
主人公は黙って頷く。
「お前さん、よく死にそうな子供を連れて帰るだろう?」
「……はい」
「ほとんど虫の息だ。正直、手の施しようもない」
事実だった。
だが。ふ
「わしは最初から諦めていた。助からんと、心のどこかで線を引いていた」
拳が、わずかに震えている。
「だがな。お前さんは諦めなかった」
静かな視線が向けられる。
「わしが見捨てかけた命を、お前さんは最後まで握っていた」
あの少年の、冷えかけた手。
「昔のわしもな、そうだったんだ。最後まで看取る医者だった」
苦笑が浮かぶ。
「いつの間にか、守るために心を鈍らせたつもりが、ただ逃げていただけだった」
ヤマタニはゆっくりと言う。
「……感動なんて大袈裟です」
「いや」
ドクターは首を振った。
「見習いたいと思った。少しでもな」
その目は、もう逃げていなかった。
ヤマタニは棚に手を伸ばしかけ、止める。
酒を出すわけにはいかない。
「なら、今日はこれで」
湯気の立つ茶を二つ用意した。
二人は向かい合い、静かに湯呑みを持つ。
酒の代わりに、苦みのある茶。
不思議と、悪くない。
「医療を整えましょう」
主人公が切り出す。
「隔離室、清潔な寝具、薬草の備蓄。見習いも正式に育てたい」
「衛生の徹底も必要だな」
ドクターが頷く。
「井戸水の管理、手洗いの習慣、器具の煮沸」
「医療棟を、孤児院の隣に建てるのはどうでしょう」
「いい。早期発見ができる」
酒ではなく、言葉が進む。
夜は更けるが、二人の目は冴えていた。
救えなかった命は戻らない。
だが、次を救うことはできる。
少年の死は、無駄にしない。
湯呑みを置いたドクターが、小さく笑う。
「久しぶりだな。医者らしい話をしているのは」
ヤマタニも、わずかに笑った。
「一緒に、やりましょう」
酒を断った夜。
それは敗北ではなく、再出発だった。
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話には酒飲みがよくでますが、自分はサッパリ飲みません。
親兄弟も家族で飲まないです。
飲めたらいいなぁ。と思って何度も買ってきては練習しましたね。




