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最終話 イケヤ王国の闇

 イケヤ王国ーー、

 王宮内の一室にて――。



 暗い室内で、男は親指の爪を噛む。

 無表情だが、その感情には微かに喜悦があった。


「ジーク様……」


 男に、声がかけられた。

 側に控えている若い女だ。


「……」


 無言で、視線だけを動かした。

 男はアインホルンの兄、ジークフリードであった。

 声をかけた女は、ナビス公国の王女エリーゼ。

 ジークフリードは爪から口を離す。

 エリーゼは妖艶な雰囲気を漂わせている。


「始末いたしますか? 弟君(おとうとぎみ)を……」


 エリーゼが、更に声をかける。


「いや、やめておこう。今後、どう動くか楽しみだ」

「ホホ、本当に楽しそうに……」


 笑うエリーゼの目付きには、頽廃的な光が宿っている。


「お前は、不確定要素を排除する方針だったな。アインホルンが、あのように覚醒するとは思わなかった。つまらない男だったのに」


 ジークフリードは溜め息をつく。


「……フフ。それにしても、お二人共、暑苦しいこと。決闘だなんて」


 エリーゼが艶然と微笑む。


「まあ、お遊びさ。最後だけは本気で殺そうとしたんだが……。防がれるとは」


 ジークフリードは恍惚とした表情を一瞬浮かべた。


「確かに。しかし、あの演出はどうかと思いますが……。黄金色に輝くなど」


 エリーゼが静かな声で言い添えた。


「わからないか……? 馬鹿な弟に付き合うのは楽しいものだ」


 ジークフリードが苦笑する。



 ーージークフリードは普段、真面目な熱血漢を演じていた。

 扱いやすい王子を王にした方が、首脳部は国を運営しやすいからだ。そんな王子が残酷な王となり、大陸を戦火の渦に叩き込んだら面白くないだろうかーー、と考えを巡らす。

 その時が来るまで、ジークフリードは本性をひた隠すつもりだった。

 ジークフリードは『乱』と『興』を求めていたーー。



 また、今回の決闘騒ぎではアインホルンを殺し、闘技場にいたオーザガを捕らえ所属する国を調べ上げ、アインホルンを唆したことを理由に国際紛争を起こす予定であった。

 ――しかし、アインホルンが覚醒した。

 人格が変わったかのような変化があり、裏があるのかと勘ぐったが、不審点はなかった。『興』が疼き、ジークフリードは計画を変更したのだった。ーー最後の一撃をアインホルンが防ぎきれば、という条件があったが。



「ホホホ。私も楽しめました」

「演技はイモだったが」

「まあ……!」


 エリーゼがジークフリードを睨む。

 エリーゼの目的もおかしい。ジークフリードかアインホルンと結婚し、王妃となる。次第に国を混乱させ、イケヤ王国とナビス公国を壊滅状態に陥れたいという願望のため動いている。

 ジークフリードはそれを面白い、とエリーゼに近侍を許していた。

 巧妙に秘められたエリーゼの願望を見抜いたのはジークフリードが持つ、特異能力ーースキル【審美眼】であった。


「ところで、オーザガとかいう魔術師はロイス帝国の所属と名乗ったようですが、おそらく【小国シーン】の【黒法師衆】だと思います」

「うん、そうだったね。気にかけておこう。他に、ブクマ王国や実は本当にロイス帝国だった、という線も面白いんだが」


 エリーゼの言葉に、ジークフリードは身を乗り出す。

 どこの国と相手をするのが面白いのか、ジークフリードは考える。

 間者が『ロイス帝国』を名乗るのであれば、ロイス帝国と事を構えても良いが。


「アインをブクマ王国に留学させるのは、我ながら妙案だったかな?」

「ええ。あそこの国は、王族に得体の知れない能力を持つ者が時々います。アイン様が行って、そのうちの誰かと刺し違えるように仕向けていただければ、それも上々、かと」

「……」

 

 ジークフリードはその状況を想像し、興奮を覚えた。

 

「ーーまあ、俺としては、留学を終えたアインホルンが俺の正体を見破り、拳で熱く語って、俺の目を覚まさせる、とかでも面白くていいが」

「ーーご冗談を」

「いや、それが面白ければ、俺は良王を演じてもいいよ」

「であれば、私とは袂を分かつ、ということですね。淋しいこと……」


 エリーゼは唇を尖らせる。


「それも楽しみだ。俺は、面白い方を選ぶーー」


 ジークフリードは笑み、親指の爪を噛んだ。

 瞳は恍惚の色を湛えていたーー。


◇◆◇


 イケヤ王国には、大きな危険因子があった。第一王子ーーいや、王になるジークフリードと、その妃に内定しているエリーゼである。

 二人が内包している闇は深い。

 イケヤ王国のみならず、ナロー大陸の平和はアインホルンが握っているのかもしれないーー。


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