やっててよかった公文式
仕事を始める前に、職員達と軽く自己紹介をした。ギルドマスターのハマーさん。伝説の元Sランク冒険者とかではなく、普通の地方公務員のようなおじさん、歳は30代半ばといったところか、俺をスカウトした、受付のお姉さんはミランダさんだ。その他に数名の職員がいた。
仕事内容は入力作業だった。パソコンのような魔道具で、ディスプレイの代わりに半球体の水晶のようなもので、キーボードは完全に、キーボードであった。正直、まんまパソコンなのであまり感動はしなかった。
「使い方は覚えた?大丈夫?」
「はい、大丈夫だと思います。」
ミランダさんに入力魔道具の使い方を習い、さっそく仕事を始める。この手の通信用の魔道具は一括りで入力魔道具と呼ばれているらしい。あると便利かなと思って、購入出来るか聞いてみた所、
「無理ね、製造、所持は国の管理で行われていて、扱っているのは王族や、軍、冒険者ギルドや商売人ギルドなど限定されいるわ」とのこと。多分、軍事利用やスパイ行為に悪用されないような対応だと思う。
仕事を始めようと、パソコンに向かい手元の資料に目線を向ける。そのまま入力をしていく。所謂ブラインドタッチである。
「先輩!あれ見てください!」
「凄いわね。初日から手元を見ないで入力するなんて…」
「私…あれ出来るようになるまで結構時間が掛かったのに…」
「お前ら、お喋りがすぎるぞ!仕事しろ!」
後方から、賛辞とギルドマスターの激が飛ぶ。気にせずに集中していく。このパソコンは入力などはできるが、自動計算機能はついてないらし。各集計などは入力している人が、自分で計算をして入力するようだ。計算も、そこまで大きな数字でもなく、足し算と引き算のみなので問題なく仕事を終えた。
「ミランダさん!渡された分は終わりましたが、まだ仕事はありますか?」
「えっ!もう終わったの!?」
「はい、確認もしっかりしたので計算ミスもないと思います」
スキルのインターネットを使い時間を確認すると16時半頃であった。俺達のやり取りを聞いて、周りが少しザワザワとしたが、他の人達もほぼ仕事をこなしたようで、本日の業務は終わりらしい。
「キッド!お前さん凄いな!どうだ、ウチのギルドで働かねぇか?」
仕事を終えたのか、ハマーが会話に加わる。
「すいません、冒険者をしながら世界を旅するのが俺の夢なのでお断りします。」
もちろん嘘である。多分、冒険者ギルドは地方公務員的な位置にある。収入や仕事は安定し、悪くない生活が遅れるであろう。が、しかし、俺に神に認められた転売がある。100%そちらのほうが儲かるであろうと確信しているのでやんわりと断った。
「そうか、残業だが仕方あるまい。これが今日の報酬だ!受け取ってくれ!」
支払いトレーのような板の上に載せられた12,000ピザを受け取る。
「今日は久々の定時だ!気分がいい!飲みたいやつは付いて来い!奢るぞ!」
「やったー!」
と何名か喜びと名乗りを上げた。
「では、俺はこれで失礼します。お疲れ様でした。」
俺は逃げるよう帰ろうとした。タダ酒は嬉しいが、クレアの食堂以外で食事をする気がしない。多分あそこを超える食堂はこの辺にはないと思う。
「おいおい、釣れねぇな、ある意味今日の主役はお前だぞ!少し顔を出してくれよ!」
「すいませんが、今泊まってる宿の食事が気に入ってて、なるべく食事は宿でとりたいんですよ。」
「どこの宿に泊ってるんだ?」
「満腹亭です。」
「クレアの店か!これはツイてる!おい、お前ら!今日は満腹亭に連れて行ってやるぞ!」
ハマーが終業作業をしてる職員に伝えると、何名か付いてくる人が増えた。満腹亭はなかなか有名らしい。
「クレアさんとは知り合いなんですか?」
「あぁ、俺もあいつもこの街で生まれてこの街で育った。腐れ縁ってヤツだよ。」
どうやらギルドマスターとクレアは幼馴染みらしい。事は急げと、皆で満腹亭に向かった。やや、大所帯となったが問題無く入れた。基本的に宿の食堂は宿泊者しか利用出来ないらしい、もしくは、宿泊者と同伴なら利用出来るようだ。
「久しぶりだなクレア!」
「ハマーかい!今日は仕事に埋もれてないようだね!ハハハ!」
「あぁ、キッドに手伝ってもらっても久々の定時上がりだ!」
普段はマッシュがホールに出るが、知り合いということでクレアが料理を運んできた。軽く挨拶代わりのようだ。
「クエストじゃなくてギルドで働いたのかい??」
「はい、トラブルがあったみたいで、少し計算が出来るって事お手伝いしました。」
「少しってもんじゃねえよ!お前がやった仕事量は2、3人分だぞ」
「へぇ~、キッドは計算が得意なのかい?じゃあ、お駄賃も2、3人分なんだろ?」
「うっ!」
「まぁ、そこそこ良い報酬はもらいましたので…」
ハマーと何故か俺もタジタジとなる。普通に当人を目の前にお金の話や不満は気まずい。
「んん?なんだいハマー?あんたケチケチしてんるんじゃないだろうね?」
「2人分には少し足りんがこうして酒を奢ってるだろが!勘弁してくれよ!」
「かぁ〜、ギルドマスターとあろうものが!これだから今だに嫁がいないんだよ!アンタは!」
「それは関係ないだろうがぁ!おーいマッシュ!エールお替りだ!」
「はっ、お酒逃げてるんじゃないよ!」
鼻で笑いながら厨房に向うクレアであった。
「仲がいいんですね笑」
「けっ!どこがだよ!会えばいつも憎まれ口さ!」
運ばれてきたエールと料理を楽しみ、皆で談話していると、ハマーが口を開いた
「キッドはこれからどうするんだ?」
「この食事をしたら後は寝るだけですよ?」
「いや、そうじゃなくて!」
お酒が入り、雑な質問をぶつけてきたハマーに天然回答をするキッド、周りはそれが可笑しくて笑う。少し気恥ずかしさを覚えたキッドであった。
「これからどう生活していくんだ?」
「あぁ、そういう意味ですか。そうですね、街中のクエストを中心に時間があれば戦闘訓練に参加して、ある程度実力がついたら街周辺の採取クエストとかに移る感じですね」
「慎重だな、だがいい心掛けだど思うぞ。採取クエストとはいえ、いきなり外でのクエストは危ないからな、この辺は天使様の加護の影響で魔物が出にくいが、草原と反対側の北門から向こうは、弱いとはいえ、魔物が出るからな。そうだな、ゴブリンかレッサーウルフくらいは倒せる実力は欲しいな。」
「ゴブリンが出るんですか?」
狼やイノシシといった危険な野生動物はいると思っていたが、街の近くで魔物のゴブリンがいると聞いて驚いた。
「出ると言っても多くて2、3匹のグループだからそこまで脅威ではないから安心しろ。まぁ駆け出し冒険者や普通の平民には十分脅威だがな」
どの物語でもゴブリンの怖さは個体の強さではなく数と繁殖力だ。稀に上位種が現れるが、それでも数の脅威のほうが恐ろしいようだ。しかし、しっかりと間引きをすれば新人冒険者にとってはいい戦闘経験と小遣い稼ぎになるらしい。
ゴブリンは雑食で何でも食べるようで人はもちろん、農作物や家畜などにも手を出すので魔物というより害獣のような存在で、ギルドからは常に討伐クエストが出されている。
ゴブリンの話から俺の戦闘経験についての話になり、喧嘩すらしたことがないと告げるとハマーから一つ提案があった
「午前中はギルドで働き、午後からは戦闘経験というのばどうだ?お前さんの仕事の速さなら午前中で十分1人分の仕事はこなせるとおもう。どうだ?やらねえか?」
「はい、是非お願いします!」
俺に取っては物凄く都合が良かったらので即答で返事をしたら。しかしマキノとの石鹸の話があるので3日後からの出勤をお願いした。
「おぉ、助かるぞ!街に来たばっかりだし何かと入り用だな!3日後から頼むぞ!何かあればギルドを頼ってくれ!手伝いぞ!」
ガッチリと握手を交わしてその日は解散となった。部屋に戻り石鹸やこれからことを考え、眠りにつくキッドであった。