救世主
教会を出て、冒険者ギルドに向かおうと思ったが、時間がそんなに経っておらず、まだ混んでると思ったので少し街を見てから冒険者ギルドに到着した。
まだ数人並んでいたいたが、これくらいならいいかと思い、列に並んだ。
「お前、見ない顔だな?」
列に並んでいると前にいた男に声を掛けられた。
「はい、昨日街に入ったばかりで冒険者登録をしに来ました。」
「冒険者登録は向こうだぞ、ってか、なんだその喋りは?お前貴族か?遊びで冒険者なんてやると怪我じゃあすまないぜ。」
少しムスッとした表情で教えてくれた。ツンデレか?
「ありがとうございます。」
お礼を言い、ペコと頭を下げて奥のカウンターに向う。
「男がペコペコしやがって。簡単に頭を下げるんじゃねぇ!」
何故か完全に不機嫌になる。文化の違いか、俺が丁寧な態度を取ったつもりが怒らせたらしい。逃げるようにカウンターに駆け込んだ。カウンターにいたのはキャリアウーマンって感じの30歳手前くらいの女性であった。
「すいません、冒険者登録をしたいのですが」
「はい、コチラに記入とステータスの表示、それから手数料として1,000ピザ掛かりますが、よろしいですか?」
この流れはマキノから聞いていた。お金を支払い、冒険者についての説明と心構え、クエストの受け方などを教えてもらった。
「ちなみに、戦闘経験はありますか?」
「ありません。クエストを通して学べたらなと、考えておりました。」
「でしたら、当ギルドで行われております、格闘訓練を受けることをおすすめ致します。毎日昼後から地下の訓練所にて引退した冒険者の方に指導を行ってもらってるので、Eランク冒険者は無料で受けれますよ。」
冒険者ランクはEか最下位でD、C、B、A、Sと、順に上がっていくらしい。
「いつでも受けれるんですよね?」
「はい、ただ、遅刻したり、途中で帰るのは厳禁となります。」
「わかりました、とりあえず、クエストを見てから判断したいと思います。正直お金がなくて不安なので。」
「わかりました。よろしければコチラでクエストを見繕いましょうか?」
「本当ですか?助かりますが時間は大丈夫なんですか?」
「うふふ、はい、大丈夫ですよ。今資料と冒険者カードをお持ちしますので少々お待ち下さい。」
受付のお姉さんには、俺の態度は好感度が良いみたいで安心した。先程の冒険者のように不機嫌になったらどうしようか少しドキドキしていた。冒険者相手には余り下手に出る態度は受けないのだろうか?それに、戦闘訓練があるのは嬉しい!前世では喧嘩すらしたことがないのでガッツリ利用しようと決めた。
「おまたせいたしました。コチラが冒険者カードになります。それと、キッドさんだとどこかお店の手伝いなど良いかと思いますが、計算は出来ますか?」
「はい、問題はないと思います」
受け取った冒険者カードを見ながら答える。ブロンズ色で柔らかく、名前といつの間に撮ったのか、顔写真がついていた。初めて自分の顔を見たが…可もなく不可もなくって感じの黒髪黒目の二十歳くらい日本人顔であった。
「わかりました。クエストを絞りたいのでコチラの問題を解いてもらってもよろしいですか?」
「はい、わかりました。」
出てきた問題は4桁までの足し算と引き算であった。何の問題もなく解けたので、クエスト用紙を分けているお姉さんを待つことにした。
「うふふ、難しいですか?手が止まってますよ。」
「いいえ、もう終わっているのですか?」
「えっ?」
「えっ?」
「終わったのですか?」
「はい」
「失礼します」
「……全部正解ですね。天才か!」
「いや、お姉さんも確認出来てるじゃないですか」
「コチラには答えが書いてある別の用紙があるので確認するだけですので、時間を掛ければ解けなくもありませんが、キッドさんのようにそんなに早くは解けません!」
そろばんを習っていたのでそれくらいの問題は楽勝である。ちなみに問題の内容は3桁の足し算が20問、4桁の足し算が20問、引き算も同様に20問ずつであった。時間にして5分強といったところか?
「キッドさん!」
「はい?」
お姉さんが前のめりにやってきた。
「今日は当ギルドで働きませんか?」
「ここですか?」
「はい、今日の朝、少しトラブルがありまして事務処理が遅れているんですよ。私がギルドマスターに話をつけるので少々お待ちいただけますか?」
「はい、僕は構いませんが。」
お姉さんの勢いに押される感じにはなったが、俺としてはお金が貰えればいいので流れに任せた。
「マスター、救世主が現れました!」
「なんの?」
「数字に強い冒険者がいます。今朝のトラブルで昨日の買取価格やらギルドの支出費などの更新がされていません。彼に任せませんか?」
「いや、ウチのギルドに数字に強いヤツはいないだろ?」
「先程、登録に来たばかりの新人です」
「新人?大丈夫なのか?」
「はい、私よりも出来ます!」
「本当か!?」
「はい!」
「金額はどうする!」
「12,000ピザが妥当かと」
「少し高くはないか?」
「私は残業したくはありません!」
「俺だってそうだよ!」
「それに、ここのみんなが残業してやっと終わる仕事量を彼なら定時内で終わらせれるかもしれません!」
「天才か!」
「天才です!」
「わかったよ!お願いしてみてくれ!」
「やったわ!みんな!今日は定時上がりよ!」
ギルドの奥から歓声が聞こえたと思ったらニコニコ顔のお姉さんが戻ってきた。
「ギルドマスターの許可が降りたわ!中にきて!」
「おっと、ちょっ!そんなに強く引っ張らないでくださいよ!」
キャリアウーマン風の女性に引っ張られながらも悪い気はしない俺であった。