馴染みの店
「あ、ちょ! 女将さん!」
「あ、あら。常連さんの……」
「どうも……」
「どうも……」
「店、閉店するんですってね……」
「ええ、まあ。理由、あなたも知ってるわよね……?」
「……俺、許せないっすよ! 鳥の生つくねだって言っても女将さん、いっつも丁寧に下処理して、食中毒だって出したことないじゃないですか! それをSNSで見ただけの店に来たこともない奴らがあれこれ言って……」
「そんなに怒ってくれるのねぇ、ふふ、ただの小料理屋なのに……」
「当たり前っすよ! 上京したてで右も左もわからない俺を優しく受け入れてくれた店っすよ!
何年経とうが引っ越そうがずっと通うつもりだったのにこんな終わり方……クソッ!」
「……そうね、あなたは随分、通ってくれたものね。うちの味が染みついて、あ、そうだわ。良かったら食べてく?」
「え! いいんすか!?」
「ふふふっ特別よ」
「ありがとうございます! いやったぁ!」
「いやー、まさかまた食べられるなんてなぁ。閉店の張り紙見てからも俺、この辺うろついてたんすよ。
女将さんに会えるんじゃないかなぁって」
「ふふふっお上手ね。はい、これ鶏の唐揚げ。好きよね?」
「あざまっーす! うま、美味い! 最高っすよ! うわー!
でもこれが食えなくなるなんてなぁ……。その、レシピとか教えて貰えたりとか、まあ、多分作れないですけど」
「ふふふっ別に、よその店と大した違いはないわよ」
「そんなこと言ってぇ、実は秘伝の何かがあるんでしょ?」
「そうねぇ……強いて言うならケシの粉末を練りこんでいるくらいかしらね」
「ケシ……?」
「そ、麻薬の原料の。まあ、それほど効果はなさそうだけどね。はい、これ。ポテトサラダね」
「え、あ、どうも……あ! 冗談か! ふふふっ上手いなぁ女将さん。うん! サラダも美味い美味い!」
「あ、それね、芋にモルヒネを注射しているの。はい、次はスープね」
「ふふふっ、これも美味いんすよねぇ」
「それはハブの血とイモリの目玉にカエルの足先、コウモリの毛と犬の舌
蠍の毒針にフクロウの羽根をよく混ぜて煮たものよ。
はい、それからこれ塩ホルモンね」
「お! これも好きなんですよへへへへへへ」
「実は人肉だけどね。次の白子もこれ、実は人間の脳みそなの」
「ははははっ! もういいっすよ女将さん。
でもそう言われても食欲落ちないんすよねぇ。やっぱ女将さんの料理は最高だ!」
「うふふ、ありがとう。はい密造酒をもう一杯どうぞ」
「あざっす! こうなったら全メニュー、今夜行っちゃおうかなぁ。もつ煮込みにメンチカツにハムに……」
「あら、腕が鳴るわね。いいわよぉ。移転前に残った材料を使い切りたかったし」
「移転!? なんだ、どっか他でまたやるんすね!
安心したー! 俺絶対通いますよ! ああ、美味い美味いうまうまうまままままままままま」
「ふふふっ。さ、いっぱい飲んで食べてね。それで美味しくなってね。あなたがお客様への第一号になるんだから」