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推し、少しずつ本気を出してきた

 ────……あれ? 

 なんでだろう。小説どおりの展開じゃないわ。


 15歳のある日、ふとそう思った。



 ◇


 ファンクラブの一会員として出過ぎたことをせず、二人のことを見守っていた。

 直接エドと話したい気分になることもあるけど、私は単なるモブ女。学園内での人目も気にしていたので、故意に近づいたりしない。

 “親同士が決めた婚約者”だというのを周りの生徒に思わせる必要があるからだ。

 大人になり婚約解消して、万が一にもエドが責められないようにしておきたい。



 どうしても萌を供給したい時は、だ。遠くからこそっと眺める。わざわざ二人を見る為に双眼鏡を特注した。モブ女にだってこれくらいは……え、ストーカーじゃないわ。見守り隊よ。


 学園二階、カフェテラス席で日傘をさしながら(日光もあるけれど、人目を遮るために日傘便利なの)グラウンドを見た。


 昼休みは長く、男子はグランドで剣術の稽古をしている。その中で同級生に混じって一際体格の良いオーガスティンを見つけた。


 木刀を真っすぐに振り下ろすオーガスティン、盛り上がった胸筋、上腕二頭筋はセクシーで益々雄々しく成長している。

 ぶれない体幹、一心不乱に木刀を振る姿は静寂で、そこだけ切りとられた別空間のようだ。


「む? っ、むむむ!?」


 オーガスティンが剣を下ろした。額の汗を拭っている。

 汗でシャツが纏わりついて鬱陶しそう────……ひぎゃ、あああああっ! なんてこと、シャツを脱ぎだしたわ! 雄っぱいが見えとるだろうが、何をしとるんか! 服を、服をきなさいよ!?


 双眼鏡越しにしてもその肉体美の破壊力は精神を壊そうとかかってくる。そのため、一度に見つめられる時間は限られている。


「ふぅ……良きかな」


 双眼鏡を外し深呼吸をした後、次はオーガスティンの反対側のグラウンドを見た。

 エドも同時間帯にグランドで剣術の鍛錬をしている。


 剣術……、突然、周囲の心配を押し切ってエドは剣術を習い始めた。

 少しずつ身体を鍛え始めていた彼は、剣術を習えるほど健康状態がよくなった。そのことを知ったのは未だ定期的に届く彼からの手紙だ。


 小説の設定じゃ、成人しても何度か貧血で倒れるシーンがあるのだ。正直、双眼鏡はそんな彼が心配で様子見するために買ったものでもあった。


 でも、自分の心配など杞憂に過ぎなかった。

 学園では決して汗臭い様子を見せないけれど、日に日に変わっていく彼を見れば、どれほど陰で努力を積んでいるか分かる。


 今では、彼の剣術を眺めるファンも多い。

 彼の持つ剣は剣先が細く、王族剣術で使われる。美しい型の武術だ。エドは流れるような身のこなしで剣を扱う。



 そんなある日、私はいつものように見守り隊をしようと二階テラスに座っていた。

 だが、この日は、何故かグラウンドに人だかりが出来ていない。


「あら? ん~、どうしてかしら。エドがいないわ」


「ごきげんよう、ソフィア」


 馴染みある美声が、すぐ背後から聞こえた。

 さらに、すぐ傍でぎぃっと椅子が引く音がする。


 私はぎくりとしながら双眼鏡を下げて振り向いた。


「エド様……」

「私を探していたの?」


 ストーカー行為をちゃっかり見られているではないか!

 エドのニコニコとした表情が強いというか、圧がある。もしかしなくても不機嫌だ。怒っている。


「ごめんなさい!」

「ん。双眼鏡なんかで(そんなもので)楽しんでいないで。目の前にいる私をたっぷり見て」


 どうぞと席を近づけ顔を近づけてくる。直射日光! 

 真っすぐに見つめてくるその目を直視出来なくて目がぐるぐると回る。


「お、お、お、お戯れを!?」


 ねぇっと完全に声代わりした低い声が耳元で囁いた。


「私を探す前は、一体、誰を見て興奮していたの?」


「ぎゃっ!? 耳っ!? ぎゃぎゃぎゃ……、ぉぉ、お、オーガスティン様ですわ!?」

「へぇ? まだ、アイツのこと見てるんだね」


 にこやかな笑顔に青筋が見える。前から思っていたけれど、私がオーガスティンのことを話す度に機嫌が悪くなるのだ。あからさまな態度じゃないけれど、彼の見守り隊だから些細な変化が分かるのだ。

 その視線にゾクリと背筋に悪寒が走った……ん、悪寒って?


「あ、ブローチずれているよ? 分かりやすい所に付けておいてね」


 胸元に付けているのは、彼からもらったサファイアのブローチだ。毎日付けてとお願いされたので付けている。

 長くてキレイな指が私の胸元のブローチを付け直した。

 綺麗な手だったのに、……今も綺麗なんだけど、綺麗な指は女性とは違って、骨ばってゴツゴツしている。それが何とも男らしさを感じた。


 まるで、攻……


「ソフィアって柔らかくていい匂いがするね。凄く甘い……」


 ブローチと同じ瞳の色でキラキラして吸い寄せられる。その美しさに息が出来ない。


 ドサリ。

 うわ、きゃ、しぃ、と人の声がして、そちらを見る。

 見た時には誰もいないように見えるが────ここはカフェ席。昼休憩だから当然生徒も大勢いる。

 今まで大勢の前でエドとの接触を最小限に抑えていたのに、割と仲がいいことがバレてしまった!


「まずい、人目がっ! エド様、失礼致します!」

「では私も同行しよう」

「え……」


 それから教室までエドに送られた。人目、人目……視線が集中している。エドと私が婚約者だって知らない人もいたんじゃないかしら、それなのに、あぁ、みんなから視線が集まっている。


「人目ね……、道理で会わないと思った。私は避けられていたのか」


「あ……あ~、えっと」


 良い言葉が浮かばなくて言葉を濁していると、じゃぁまたねとエドが私の頭を撫でてさって行った。


 何故か、おかしな噂が立った。

 ────エドワルド王子、婚約者のソフィア令嬢を溺愛している。



「まずいわぁああ!? なんで、そんな噂が!? 私はただのモブ女なのよぉぉおおお!!!」


 溺愛!? 二人で話しているところをちょっと見られただけで、どうしてそんな噂が立ってしまったのか。

 小説にそんな展開は一切ない! 


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