リアルの推しは刺激が強すぎる!
額に小さい感触。
私の視界はエドの首元、ヒラヒラとしたフリルが見える。
「う、うぉ……? お、ぉ、お?」
これは、唇だ。
え。なんで、額にキッスを?
「ぅ、お? お……ぉ?」
「変な声。顔真っ赤。ははは」
唇を離したエドが私の反応を見て、クスクス笑い出した。その笑い方はとてつもなく可愛い。イタズラが成功したような笑い方だ、……あ、イタズラ。なるほどと少し冷静になった。
「ソフィア」
「はい!?」
「私は自分のやるべきことに気が付いた。忙しくなるだろうから会う時間が取れなくなるけど、待っていてくれるだろうか?」
待つ? エドの言っていることがよく分からない。曖昧な言い方をするのは詳しく伝えるつもりはないこと現れだと思い、疑問を口に出さなかった。
ただ、推しが待てと言うなら、何年でも待ちましょう。
このBL小説も二巻が出るまで、三年待った。待ち遠しかった。しかし待った! それが腐女子だから。
「えぇ、いつまでもお待ちしております!」
それを伝えると、エドが極上の笑顔を見せてくれる。あまりの綺麗さにドキリと胸が弾んでしまう。
────リアルの推しは破壊力あり過ぎるでしょう。
お茶会が終わって、彼が馬車に乗ってもこのドキドキは止まらなくて困った。
◇
「ソフィア~、エドワルド王子がめっきり来なくなったじゃないか。何か失礼でもあったんじゃないか」
エドが屋敷に来なくなって早二か月。
父は心配げに彼の様子を聞きに来るけれど、文通も続いていることだし関係が悪化したとは思っていなかった。
「いいえ、エド様はお忙しいお方。休学していた頃のようにいきませんわよ」
「容姿に恵まれた王子だとは思っていたが、学園で物凄い人気だと聞いたぞ!? 婚約と言っても口約束だけなのだから、こまめな連絡をしなさい!」
エドの人気は衰えることを知らず、学園内で彼の姿を見ることは叶わない。けれど、ファンクラブに入っていて良かった。
エドとオーガスティンの情報は姿は見えずともファンクラブから入手している。
昼食はエビフライを頬張っていた素敵とか、蝶が肩にとまった妖精かとか、鼻が日焼けしていた太陽コロスとか、事細かい情報が偏っていて楽しい。
情報員の彼女たちにかかれば、学園内でいつどこで誰と話したとか一気に分かる。どうやって情報を入手しているのか分からないけど、かなり正確だ。
情報では、エドとオーガスティンの接点は未だにない。
早くその来たる時になりたいなぁなんて思いながら、父には「萌まで待つのです」と伝えておいた。
そうは言っても、楽しみを我慢するのは地味に辛い。更新されていない小説をまだかまだかと待つようなもの。
でも、その楽しみが急に目の前に現れた────。
その日は馬小屋に来ていた。
父が仕事先で客から馬を頂戴したのだが、運動神経が悪い一家で馬乗りはいないため、学園に馬を提供したのだ。そう言うと父が善人みたいに思われるが、あれはあれでタヌキ親父。
未来の優秀な騎士と顔見知りになっておきたい、派遣に登録させたい、その他にも目的がある。
「娘がお世話になっておりますので」
その娘として、父に同席していたのだ。先に帰った父の後、馬小屋から出た。
そしたら漫画でよくある、曲がり門でゴツンと男女がぶつかるやつ。
あれをやった。
こちらはしっかり前を向いて歩いていたけれど、激突してくるものを避けるほど運動神経はよくない。
ドスンと尻餅をついた私に、激突してきた少年が振り向いたのだが、その人物に驚いた。
「悪い」
「────ぁ……え?」
木刀を片手に持ったオーガスティンだった。