推しは貴方のことがかなり気になっているようです
「きゃぁあー!! エド様ぁ!」
「こっち向いて王子様〜!」
エドが学園に復学すると、たちまち人気者になった。
長く休学していたから、エドの容姿が非凡だということを皆すっかり忘れていたようだ。彼が登校したその日から黄色い声が飛び交う。
うんうん、分かるわ! キュンするその気持ち!
エドの物腰柔らかな態度と優しいボーイソプラノは老若男女問わず魅了する。
あっという間にエドのファンクラブが出来てしまった。
なるほど、ファンクラブ。
そういうものがあるのなら、私も入っておこうとファンクラブの会長に伝えると、婚約者という立場だからか酷く恐縮される。
前世の記憶が戻るまでのソフィアは悪女まではいかないけれど、強気な物言いをしていたのだ。
BL小説の女性キャラなので、ソフィアの容姿は可愛い方だけれど目立つところはない。モカブラウンの髪の毛、瞳も同じ色。凡人だ。
「私などに気を使わないで。一緒にエド様を推していきませんこと?」
「はっ、はい! では私の会員ナンバーを!」
え……と思っている内に会長のNo.1を自分に授けようとするので、丁重に断った。あまりしゃしゃり出たくないので、通常の入会No,198を授かった。
復学して一週間で198人もファンが出来たということか。
この人気だと彼の周辺では騒ぎになっているだろうから、暫くは学園内で彼と会うことは出来ないだろう。
◇
月末、エドが私の家へ来た。お茶を飲みながら学園生活について話を聞いた。かなり疲れているようなので、紅茶は香りが良く癒し効果があるハーブティーを用意させた。
ファンクラブなんて出来て疲れる、と彼が愚痴を吐く。いたたまれなくなり、自分もその会員になったと伝えた。
「え? 君が私のファンクラブ会員になったって?」
「はい。──あ、エド様を疲れさせるつもりはございませんわ! ただ、好きなものを推したいという気持ちだけですの」
机の引き出しから会員ナンバープレートを見せると、エドが口元を押さえた。
「そう……なんだ。君がいるなら……、別にいい」
「ちなみにこういうのも買ってしまいましたの」
見せたのはエドの似顔絵だ。あまりに上手だったので購入したのだ。
「エド様そっくりで。麗しくて素敵でつい手元に置いておきたくなったのです。いつもはベッド横に置いておくのですが……こういうのが気持ち悪いのなら、以後気を付けて買うのはやめておきますわ」
「何それ……、恥ずかしい」
口元を押さえた顔が怒りで真っ赤になっている。その後、無言になってしまった。
ドン引きさせてしまった。重くて気持ち悪くて反応に困っているのだわ。
「あ……あっ、そう、ファンクラブに入ったのはエド様だけじゃありませんの。オーガスティン様のファンクラブにもなりましたわ!」
エドのファンクラブに入った時、オーガスティンにもファンクラブがあることを知った。彼等の恋の行方を応援する使者としては同時に入っておかなければと同時入会したのだ。
「──は? オーガスティン? 誰?」
「オーガスティン様をまだご存知ではなくて? 同学年F組にいる生徒ですわ。伯爵家の次男、オーガスティン・クレバード。馬術・剣術に優れていて、子供ながらに大人顔負けの腕前の持ち主。充分強いのにさらに高みを求め努力を続ける姿は心打たれます。頼りになり男女共に支持を集めていますのよ」
とは言っても、現実のオーガスティンのことは遠目でしか見たことがない。
近くで見たいものだと思っていると、エドの表情が出会った時のように感情を押し込めたような無表情になった。
「……あぁ、アイツか。見たことがある」
「まぁ! まぁまぁ、そうでしたか! オーガスティン様はこの上ない素敵な方ですわね! もっとお聞かせください!」
第一印象は? 小説エピソードにだってない実際を聞けるなんてファンとしてこの上ない幸せ。思わず息を荒げて席をズズイと彼の近くに寄せ聞いてみる。
「…………君、あぁいうのが好きなの?」
「えぇ! 大好きです!」
「は?」
自分の事より、エドの話を聞かせて欲しい! 早く早くと興奮していると、彼が私の手をぎゅっと力強く握った。
あ? と口を開けたマヌケ面していると、彼が鋭い瞳で私を見ていた。イラついて怒っているような瞳。
あまりの鋭さにたじろぐと、エドがふっと息を吐くように元の穏やかな表情に戻した。
「馬鹿」
ちゅっと私の額に小さい可愛い感触が押し当てられた。