王子の環境を整えるのも、推し活ですわ。
一週間後、エドから手紙が届いた。
そろそろ彼から連絡があるのではないかと思っていた。小説の設定を知っている私は、エドの母親メイジアの状況が如何に悲惨かを知っている。
この手紙が来るということは、おおよそ、メイジアは毒でも盛られたのではないだろうか。
致死量ではないが、彼女への攻撃の手は強まる一方だ。
彼女が亡くなるのはエドが15歳になってから。しかも暗殺。────でも、正直言ってこの設定、要らないわよね。
メイジアが死ぬことは私が楽しみたい萌とはまーったく関係ないし、エドが可哀想なので全力で阻止してあげたい。
母思いのエドはまだ10歳の子供。頼れる相手はいないから、殆ど知らない私なんぞの声にも乗ってくれるんじゃないかと賭けていた。
エドからの連絡を喜ぶ父の前でわざと声を出して手紙の必要部分を読み、すぐにメイドを手配させた。
そして、メイドには想定される嫌がらせを阻止するように事細かに伝える。お給料は倍出せとちゃっかり言い返されたので、ここは私がコツコツ貯めているポケットマネーでボーナスを出すことを伝えた。
私のポケットマネーはほぼゼロになりそうだけど、将来の推したちの萌が近くで味わえるのなら全額だって払う。それが私の腐女子道!
あとはメイドに任せる他なかったが、手配したメイドは私が想像した以上に良い働きをしたようだ。
それが分かったのは、エドが礼を言いたいと直接私の家に来たからだ。王宮御用達の馬車が停まり、私は彼を出迎えようと外で待機していたけれど、ハラハラしていた。
10歳のエドと言えば、病弱すぎて王宮の外は出れないって感じじゃなかったかしら。
前回会った時もお茶を飲んだのはほんの僅かな時間だ。前世の記憶が戻ったばかりで自分のことばかりだったと反省しているのだ。
「あぁ、やっぱり。ご無理をなさっているではありませんか!? 美しいお顔が真っ青ですわ!」
「ごきげんよう────君は突然何を?」
馬車からふらふらと出て来たエドは、血色がよくない。きっと無理してきたに違いないと従者に彼を背負わせて強引に私の部屋のベッドに寝かせた。
有無を言わさずあっという間に運んだので、真っ青だった顔色は怒りと羞恥で赤くなっている。
「な、何を!? 君という人は信じられない」
「失礼しますわ」
エドの額に自分の額をあてて熱がないかと確認する。体温が自分より高い。
「……なっ⁉」
「やっぱり……お身体の具合がよくないのにご無理をなさってはいけません! 貴方様に何かあったら、(萌を失って)どれだけ嘆き悲しむか! 私にとって貴方様は大事な御方なんですのよ! 反抗するようでしたら今から貴方の素晴らしいところ熱く永遠と語りますわよ!」
強めに注意すると、彼はもう言い返してこず、静かに布団の中に入った。
拗ねたように鼻まで覆うようにシーツを被るエド。なんじゃこりゃ、可愛いすぎるでしょ。ねこちゃんか。──凄い推せる。
キラキラおめめが宝石のようだと見つめていると顔を逸らされる。あら、残念。
「では、寝たまま話をする。……君が手配してくれたメイドのリリアナ、とても優秀だ。母も気に入っていて助かっている」
「えぇ、あのメイドはうちで一番優秀で意地悪な方ですからね」
なんてったって、リリアナは同じように王族争いに巻き込まれた王子を意地悪で守った過去がある。でも、多勢無勢の罠にハマって王の献上品を壊した罪を着せられ、やめさせられた。
無職となった彼女を拾ったのが、私。
話を聞いて面白いと思ったのよね。
だから、今回の件はリリアナ以上の適任者はいなかった。
「お気に召したなら、メイドの契約更新致しましょう。彼女の一族は忠誠心が強くて信頼できます」
「お願いする。……ソフィアは同じ年とは思えないね。正直怖い」
同じ年でもこっちは人間2度目だ。
怖いか……。前世の私も萌トークすると止まらなくて、それを見ていた男子に怖がられたっけ。私の情熱が人を怖がらせる。
「怖くないように……研究をいたします? ですが、エド様の前だと情熱を隠すのが難しいです。それに私の希望と致しましては、出来れば近くで(萌を)感じたいのです」
すると、エドの顔がみるみるうちに赤くなってしまう。話し込み過ぎて熱が上がってきたのかも。
「ソフィア、まさかとは思っていたんだけど……そんなに私のことを?」
「私の情熱を聞けば、怖がらせてしまいますので自重しても?」
萌トークになるとつい興奮してブレスを忘れる程、早口になる癖がある。ここでドン引きさせてしまったら、相談役になれない。
「っ、へ、へ、変な奴だ!」
「……あ」
既に気持ち悪さが表情に出て、遅かったのかもしれない。エドはくるりと反対方向を向いてしまった。
早速やってしまった。