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番外編1.婚約者はとても不気味で優しい子でした

ご感想、評価ありがとうございます!とても嬉しく励みになります。

エド視点になります。

 

 ◇◇◇エド視点◇◇◇



 病弱な自分の世界は、自室と母の部屋だけ。


 遊びたいのに外で遊べないから、部屋の中だけで許される読書をした。

 私の世界は小さいけれど、本の中はとても広い世界があり、私はそれに夢中になった。夢中になればなるほど外が知りたくなる。



 外に出てはいけません! 

 さぁ、さぁ! 部屋に戻りましょう。



 その言葉がとても嫌いだった。


 皆いつもそう言って、私を部屋に押し込めようとする。外に出ることを許されるのは、たまに王族の務めとして式典などに参加する時。


 本で読むような面白い冒険はそこにはなく、冷たい視線だけ。 

 他の兄や従兄弟は、まるで私がそこにいないかのように無視をする。

 悲しいと思うより先に、母が心配だった。

 優しい母は、社交の場に出ると真っ青になるのだ。いわれのない言葉で非難され蔑まれる。


「メイジア様が王にどれだけ寵愛を受けていても、第四王子が病弱(アレ)だから、この程度で許されているのよ」


 誰かの囁き声を聞いた直後、母が食事中に倒れた。全身真っ赤になって苦しんでいる姿は本当に死ぬのではないかと恐ろしかった。



 ────私は目立ってはいけない。


 男児でも病弱であるから、か弱い母はまだ生きていけるのだ。子供心に悟った。母が辛い想いをするくらいなら、今のままが丁度いい。


 その後、母の命に別条はなかったが、全身の発赤は残ったままだった。王宮医師の処方する薬はどれも肌に合わず、美しい母は毎日悲しみに暮れていた。


 母が苦しむと彼女を溺愛する父も嘆く。すると、母の体調不良を聞きつけた商人たちが、王宮に薬を持ってきたのだ。


 父は“薬が効果なくまがい物だったら国外追放する”と言い放った。

 父の迫力に商人達は薬を母に渡すことを諦め、自信なさげに去っていった。しかし、一人の商人だけは自信満々に言った。


「メイジア様に会わせてください。この私、アーナルドは医師の資格はございませんが、様々な国の薬と知識を持っております。必ず治しましょう!」


 必ずメイジアに会わせて欲しいと商人が頼み込んだため、王は、寝込む母に商人を会わせることにした。

 商人は言った通り、母の症状に合わせた薬を選んだ。


 そして────……商人アーナルドは父と母に気に入られた。





「エド、貴方の婚約者を紹介するわ」


 母が嬉しそうに私を部屋から広場へと連れて行った。そこにいたのは、中肉中背、左右の髭を整えた中年男、アーナルド・フローレンス。

 身長は私の母よりも低いからか物語に出てくるドワーフみたいに思った。 



 ドワーフの後ろには少女がいた。私を見て、嫌そうに眉をひそめて……そして固まった。


 拒絶? ……きっと、いやいや連れて来られたのだろう。

 互いに興味がないから挨拶だけして早めに場を離れようと思った。


「はじめまして。エドワルド・グリュリオです」


 固まっていた少女が二、三回瞬きをした後、焦点が合う。くるり大きなモカブラウンの瞳がキラキラと光り、口元をうにゅっ────……と緩めた。



「はじめまして。エドワルド様。ソフィア・フローレンスです」


 先程の嫌そうな顔はなんだったのか、にまにまと私を見て微笑んでいる。今の笑顔も嘘には見えないけれど、先程の嫌そうな顔だって嘘には見えなかった。


 なんだか、信用出来ない子だな。


 そう思い、早く彼女から離れたかった。いつもなら早く私を自室に戻らせたがる母だが、アーナルドがよほど気に入っているのか、彼女と二人でテラス席に移動するのが許された。



 テラス席は、太陽の光が照りくらくら眩しい。

 外の空気や風が気になり、彼女の話をほとんど聞いていなかった。


「気が乗らなくてもよいですわ。エド様が私のことを人間だと思う必要はありませんもの」


「は?」


 突然、彼女が突拍子もないことを言うので、意識が彼女に集中する。


 私の不躾な態度に拗ねてもいいはずなのに、とても穏やかな表情をしていた。話を聞いていない奴に向ける表情じゃない。


「ふふふ。自分の事を卑下している訳ではありませんのよ。ただ、私は貴方の壁となり~、カーテンとなり~、そういう無害な存在になりたいのですわ」


 ……言っていることもよく分からない。

 さらに彼女は何を思ったのか、意味深に商会のメイドを勧めてきた。ふふふふふふ……と。


 う。

 ソフィアって言ったっけ。────……不気味だ。

 変なことを言うし、ずっと笑顔で怖い。


 婚約者の第一印象は怪しくて近づきたくない人だったけれど、自分から彼女に連絡を取るのはこのすぐ後だった。




 ────……毒。

 母と一緒にお茶をしていると、目の前で倒れたのだ。

 すぐに母の口に手を突っ込んで紅茶を吐き出させた。召使いは何故かその場にいなくて、叫ぶと様子を伺うように後からやってきた。

 自分も慌てたせいで過呼吸を起こし、母の横で倒れた。


 倒れる瞬間見たのは、微笑みだった。

 このままではいけない。自分が母を守らなくちゃ。でも何も出来ない。父に頼れば僻みと妬みで益々状況が悪化するかもしれない。


『商会を思い出して』


 倒れて、目覚めた時、ソフィアの声が脳裏に浮かんだ。

 信じるにはあまりに不気味だけど、脳裏に浮かんだその声は優しかったから、彼女に手紙を書く手が進んだ。


  そうして、商会から三人のメイドが派遣された。

  王宮に入る者は厳しい審査がある。しかし、アーナルドは父にも一目置かれており、メイド達は滞りなく働き始めたのだ。



「初めまして、エドワルド様。リリアナと申します。ソフィアから頼まれて参りました」


 商会から派遣されたメイドのうち、僕ら親子の事情を知るのは彼女一人だと言う。


 黒い髪の毛、褐色の肌の異人だった。グラディ王国に馴染みない色で初めは戸惑った。けれど、ソフィアが用意した彼女がどういう人なのか興味があった。


「ソフィアから意地悪が出来る人だと伺っているよ」


「はい。メイジア様とエド王子をお守りするように命じられております。やられる前にやります、もしやられたら倍以上で返します」


「……」



 リリアナは有言実行だった。

 それから、一か月、母の具合が悪くなることはなかった。

 そして、次々とメイド達が『故郷に帰ります』などと理由とつけて辞めていくのだ。


「君が裏で何かしているのかい?」

「えぇ、仕事ですので」


 彼女に問えば、相手が誰かを伏せた上で、何がどうで何をしたかを教えてくれた。敵は大勢いるらしいが、決して相手の名は教えてくれなかった。

 何故、相手を教えないのかと聞けば、それはソフィアに止められているからだと。


「ソフィアが?」


「はい。ソフィアはエド王子が復讐に燃えるのではなく、貴方が苦しまないことを望んでいます」


 ソフィアはリリアナに、王族争いに自分を巻き込ませないこと。そして怨みではなく穏やかに暮らせるように指示を出したそうだ。

 母の命を狙う相手を聞けば、その相手を恨みたくなるだろう。



「……私は、引きこもってばかりいるから、こんなに幼い考えしか出来ないのだろうか」


 そんな指示、きっと私は出来ないだろう。

 引きこもってばかりで外を知らない。そのことがとても恥ずかしい。

 知りたい。外を……、でも、その前に彼女を知りたい。


「ソフィアに会えるだろうか」


 外に出たことなどほとんどなかったけれど、リリアナは頷いた。


「お会いになられるのでしたら、お手伝いいたしましょう」



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