隠しクエスト
気がつくと放課後になっていた。
今日一日の記憶は曖昧だ。
先生に何度も注意されたような気もする。はっきりとは覚えていないが……。
「おーい。あきちゃーん。もう放課後ですよー」
「あ、うん。……あれ?皆はもう帰っちゃった?」
「うん。大ちゃんと衛ちゃんは部活に行ったよー。それと真樹ちゃんは『今日は部活休みなんだけど部室に顔を出してから帰るから、晃君と先に帰っていいわよ。』だってー」
「そっか。それじゃあ帰ろうか茜」
「うん。早く帰ろー」
学校に長居する理由もないのでバックに教科書を詰め込むと教室を出た。
二人並んで生徒用の玄関に向かう。
茜は歩くのが他の人に比べてゆっくりなので速度を合わせる。いつもなら少し気になるところだが、今日は急いで帰る理由もないので気にならない。
「あきちゃん今日は一日ぼーっとしてたねー」
「そうかな?」
「そうだよー。話かけても反応なかったし、少し寂しかったよー」
「ごめん。少し考え事してたんだ」
「何考えたのー?」
「ゲーム内でいつも一緒に遊んでる人がしばらく接続できなくなるらしくてさ。それで戻ってくるまでどうしようかなって」
「そうなんだー。仲がいいんだねー」
「アースでは他に知り合いがいないからね」
「どうしていないのー?」
「んー。特に必要じゃなかったからかな。僕はあんまり自分から話かけるようなタイプじゃないしね」
「あきちゃんは根暗さんだねー」
「そうかな?」
「あはは。そうだよー」
何が面白いのかわからないが楽しそうなので良しとしよう。ちょっと傷ついたが・・・。
「ねえ、あきちゃん。あきちゃんはその人のことが好きなのかな?」
笑い声が消えたと思うと、茜は唐突にそんなことを聞いてきた。
「好き……ってキャロルのこと?」
「ふーん。キャロルちゃんっていうんだー」
何故だろう。急に居心地が悪くなった。例えるなら彼女に浮気を言及されていような……。
茜と付き合っている訳でもなければ、キャロルをそういう目で見たこともないというのに。
「好きとかは考えたこともないなあ。何せ顔もみたこともないし……。オンラインゲームならネカマって可能性もあるし……」
「ネカマ?」
茜がかわいらしく首をかしげたりしている。僕は目を逸らして説明する。
「顔が見えないのをいいことに、男が女の振りをしてゲームすることだよ」
「なんでー?」
「ネカマはゲーム内通貨やアイテム目当てだったり、単純に男を騙して楽しんでるんだよ」
「キャロルちゃんもネカマさん?」
「どうかな?性別は聞いたことないからわからないよ」
「そうなんだー。あきちゃん詳しいんだねー」
「あははは!」
まさか他のオンラインゲームで騙されたとは言えない。あの頃は知識もなかったし、若かったな僕。
「あきちゃん?何で遠い目してるのー?」
「いや、なんでもないでありますよ?」
「あはは。変なあきちゃんだー」
動揺して変な言い方になってしまった。あれは僕にとっての黒歴史だからな。
忘れよう。……うん。よし!忘れた!
「あきちゃん?どうしてガッツポーズしてるの?」
「なんでもないよ」
「凄くいい笑顔なんだけど、なんだか裏を感じるよー」
こういうときだけ鋭いな茜。普段抜けてるくせに……。
「むっ!今誰かに馬鹿にされたような気がするよー」
「あはは。考え過ぎじゃない?」
「そうかなー……」
唸りながらしきりに首をかしげている。茜。……やるじゃない。
「っと、じゃあ僕はこっちだから、茜また明日」
「うん。また明日ねーあきちゃん」
挨拶して軽く手を振る。
茜が前を向くのを確認して帰路につく。
◇
「ただいまー」
反応がないのはわかっていたが返事がないとやはり寂しい。
自分の部屋に行き制服から着替えるといつものようにパソコンを起動した。
「今日は一日魔法使いか……」
剣士はキャロルと上げると約束したので魔法使いで遊ぶことにした。
「さて、どうしようか」
とりあえず魔法使いでログインし、持ち物の確認をしながら予定を考える。
「そういえば低レベルダンジョンのアイテムがいるんだっけ」
低レベルだと手に入るアイテムもそれ相応になるので、あまり気乗りはしない。
「これと言ってやりたいこともないし、ここからも近いし、たまにはいいか」
場所が場所なのでアイテムの確認もそこそこにしてダンジョンに向かった。ダンジョンと言っても草木の生い茂る山や森の中だが。
入口に到着するとたいして周囲の警戒もせずに進んでいく。囲まれたところでどうとでもできる。
道という物がないので適当に進んでいく。周囲が薄暗いが気にしない。
コンパスがあれば街道に出るのも容易だからだ。
「あれ?」
ここで重大なことに気がついた。そのコンパスを持っていない。
「やばい。買うの完全に忘れてた」
剣士では所持しているのでいつも通り気にせず来てしまった。
「うーん。レベル低い場所だし、適当に行けばそのうち出れるか」
そう楽観視するとまた歩き出した。
◇
およそ一時間後。
「完全に迷子になった……。どこだよここ……」
リアルタイムなので周囲はもう闇の中になっている。さらに、だいぶ適当に進んだので方角もさっぱりだ。
「どうしようか……」
しばらくどうしようか悩んだが、何も思いつかないので再度歩き出した。
「敵のレベルが低すぎて死に戻りもできないしな……。まあ、そのうちどっかに出るだろ」
仕方ないのでひたすら歩くことにした。
「……これじゃあいつになるかわかったもんじゃないな」
愚痴を言いながら操作を続ける。
「あれ?なんだこれ」
進んでいくと目の前に洞窟が出現した。
「このダンジョンこんなのあったか?」
レベルの低いアイテムは頻繁に使うことになるのでよく顔を出しているが、こんな洞窟は初めて見た。
現実だったら絶対に踏み来ないだろう嫌な雰囲気が出ている。
「うーん。ゲーム内なら死んでも痛くないし……」
結局、僕は好奇心に負けて行くことにした。
ただでさえ周囲が暗いというのにさらに洞窟の中だ。周囲は何も見えない。
「コンパスはないのにこんなのはあるんだよな……」
そう呟いてアイテムを使う。
「いつも思うんだけど、松明ってどうなの?」
洞窟内が照らされ周囲が見えるようになる。だいぶ深いようだ。
視界が確保されたのでそのまま奥に進んでいく。
「強いモンスターが飛び出すなんてことはないですよね?」
何故か敬語になったが、そんなこともなく。
そのまま洞窟の一番奥まで着いた。
「何にもないのかよ……」
僕の捜査するキャラが照らしている場所には、進めそうにない大きな壁が立ちはだかっていた。
「こうなると意味もなく周囲探索したくなるよなー。例え何もないとわかっていても!」
そうして壁に近づいた時だった。
「え?」
突然画面が暗転した。そしてすぐにムービーが入った。僕の操作していた魔法使いが台詞を言う。
『これは……魔法文字か?』
そう言って松明を壁に近づける。確かに文字のような物が書かれている。
もちろん僕には読めない。しかし画面内で魔法使いが読み上げる。
『これを見た者にすべてを託す。我等にはどうすることも出来なかった。このままでは……』
「死の間際に書いたなら引っ張るなよ……。そんなことしてるから駄目だったんじゃ……。しかもイベント強制だし……」
僕はどうでもいい突っ込みを入れながらも耳を傾ける。
『我等の身に起こったこと、そしてこの後起こるであろう事態について記した書物は別の場所に保管されている』
「いや、メモしたここに置いとけばいいのに……」
『場所は……』
「また引っ張るのか……」
『げふっ!私も長くは持ちそうにない……』
「だったらそんなこと書かずに要件書こう!?」
『場所は富士の樹海、その奥に祭られている社だ。』
「なんでそんなめんどくさいとこに置いてきたの!?ここ九州だよ!?」
『後は頼ん……。書かれているのはここまでか……』
「余計なとこで引っ張ったから結局最後まで書けてないし!!」
そこでムービーが終わる。
「…………」
僕はなんとも言えない気持ちになりながらもう一度壁を調べる。
ムービーには入らなかったが、『これ以上のことは書かれていない。』と表示された。
何か納得できなかった僕は周囲を調べ回った。
すると壁の右端辺りで何かを見つけた。
『ん?ここにも何か書かれている』
「お、何だろう」
『よしおへ。今夜はカレーです』
「よしおって誰だああああああああ!!!というか製作会社遊び過ぎだろおおおおお!!!!!」
僕の絶叫が響き渡った。
最後の方でギャグに走ってしまった。
だが後悔はしていない。
はい。次からまじめな展開にします。