人類最強の敵
サブタイは独断と偏見に満ちています。
「死ぬかと思った……」
僕らはウルフの群れから逃れて村に辿り着くことができた。キャロルが途中で魔法を誤爆した時は死を覚悟した。そんなこともあってか、僕は精神的に疲れきった。そのキャロルが平気に見えるのが僕の疲労を悪化させているかもしれない。
「そう?」
「いや、キャロルの方が危ないじゃん。ライフゲージ真っ黒だよ?」
「錯覚」
「どこがだ……」
「回復する」
「お願いします」
回復魔法をかけてもらい一息つく。
回復アイテムはあらかた使ってしまった。
「アイテム補充しないとなぁ」
「うん。もうない」
「ないの!?じゃあギリギリだったの!?」
「気のせい」
「気のせいじゃ……いや、いいや」
「大丈夫?」
からかわれているのだろうか?
とりあえず、僕は突っ込むのを放棄した。今の精神的に参っている僕を責めるような人は相当なドSだろう。
「そうだね。この村の港でも露店が出てるかもしれないし、行ってみようよ」
「わかった」
「お金は大丈夫?」
「うん」
お互いの資金を確認すると港に向かって歩き出した。
◇
港には何隻もの船が接岸おり、相当な賑わいを見せていた。所詮はNPCだろ?という突っ込みは無しで。
プレイヤーが開いている露店を探す。露店で探すのは、村にある店だといいアイテムが売っていないからだ。
そんな訳で、どこかの掲示板で「そんなにリアルにしたいなら薬局作れよ」という文を見た時は同意してしまった。
「いい回復アイテム置いてないね」
「貴重」
「まあね。仕方ないかな」
オンラインゲーム「アース」では他のゲームと違い、回復アイテムが非常に貴重だったりする。
「アース」では回復アイテムも特定のNPCに素材を渡して作ってもらうのだが、その素材のレア度が高く、作成するのに時間がかかるのだ。そんなこともあって僕らは買い溜めていたのだが、先ほどの戦闘、というか逃走でその大半を失ってしまったのだ。
「誰かまとめて置いてないかな~」
「難しい」
「そうなんだけどね。ってキャロル?どうかした?」
突然キャロルが立ち止まった。
何も反応を返してくれないので、キャロルの向いている方に目を向ける。
「うっ!」
思わず喉の奥から声を出してしまった。
〝それ〝はあまりにも異質だった。
僕とキャロルの視線の先には黒く光沢の放つ生き物が露店を開いていた。
『なんだって等身大のゴキ○リが露店開いてるんだ!?』
何故かとてもリアルだった。
製作会社何やってるんだと思わずにはいられなかった。
「うっぷ!気持ち悪くなってきた……」
「コウ。回復アイテム見つけた」
コウとは僕のキャラクターネームだ。晃だからコウ。音読みにしただけだ。
ええ、ネーミングセンスなんかありませんよ。
「出来れば聞きたくないんだけど……」
「どうした?」
「いや、なんでもない。で、回復アイテムどこに置いてる?」
「あそこ」
キャロルの示した先は、やはりあの黒い物体の方だった。もちろん誰も近づこうとするキャラはいない。なぜかNPCすら避けているように見えるから不思議だ。
「キャロルは平気そうだね……」
「?」
「うん。わからないならいいんだ……」
歩き出したキャロルに付いて黒い物体に近づいて行く。そして黒い物体の前で立ち止まって物色を始める。
「品揃え、凄い」
「確かに……」
そう、品揃えは確かに凄い。
貴重な回復アイテムから始まり、レア度の高い素材、作るのが難しい上級の装備、難易度の高いクエストでしか手に入らないアイテムなど、とんでもない品揃えだった。
『でも、やっぱり見た目が……』
「これ20個とこれ1個ください」
僕は声を出さずに呻くが、キャロルは気にせず目当ての物を購入している。
「コウ?買わない?」
「買うよ」
出来るだけ視界に入らないように回復アイテムを数個購入した。
買い物が終わるとすぐに視界から除外し、キャロルを連れて歩き出した。
「これだけあればしばらく大丈夫かな」
「うん」
「それにしても、キャロルはあれを見てよく平気だったね」
「?」
「あのプレイヤーだよ」
「何?」
キャロルはそう言うと後ろを振り返った。
直後、港内にキャロル絶叫が響き渡った。