盗賊
えー……またしても半年近い間を開けてしまいました……。本当に申し訳ありません……。
未だに見捨てないでいてくださる方々、本当にありがとうございます。
最後まで書くつもりではいるので、本当に申し訳ないですが気長にお待ちください……。
こんな森の中でもちょっと視線を彷徨わせたら……。ほら。可憐な花や可愛らしい小動物が視界に入る。物騒な場所でも周囲を見渡せばいろんな発見がある。心に余裕を持つのは大切なことだよね~。
「現実逃避してる場合?」
こちらを非難するような目で、苛立ちを含ませた声が僕の耳に届く。
「だってねぇ?」
そう言いながら正面に視線を移す。……厳つい顔したおっさんの集団が物騒な獲物を手に持ち、徐々にこちらへの包囲網を狭めている。しっかりと先ほどより近くなっているおっさんの顔を確認する。
「……ねぇ?」
「そんな泣きそうな顔しても現実は変わらないわよ」
僕の態度を見てさらに苛立ちを募らせたらしいキャロルが、厳しい口調で現実を突き付けてくる。
「はぁ……。どうしようか?」
「どうするもこうするも突破するしかないじゃない」
「……ですよねぇ~」
嫌々、本当に嫌々だが仕方なく武器を構える。山賊は一人一人の戦力は大したことがない。それどころか非常に弱い。数も多くて50程度だ。動きもさほど早くない上に攻撃は大振りになる。しかし、気をつけなければならないのは連中の持っている武器でどいつもこいつも必ず毒・麻痺・睡眠といった状態異常が付与されている。これが非常に厄介で、油断していると熟練者と言われる人ですらライフをあらかた持っていかれるような代物なのだ。
「まったく!めんどくさいわね!!」
「……周囲はすでに罠だらけなんだろうなぁ」
「まぁ、そうでしょうね」
さらに厄介なことに、人間型の敵は罠を設置してくる。しかも盗賊団によって罠の精度が完全に別物になるため、かなり注意しないといけなくなる。わかりやすい落とし穴を飛び越えたら、その先に精巧に作られた剣山付きの落とし穴が待ち構えていることだってあるのだ。本当にわかりやすい罠だけの盗賊団もあるが……。
とにかく、出会った直後にわかる訳ではないので即撤退がしにくい。『逃げた先には罠のオンパレードでした』では間違いなく全滅する。
「正面突破が一番安全とか……」
「そういう敵なんだからしょうがないでしょう」
溜息を吐きながら獲物を構える。背後に敵が配置されていないことから罠の山でもあるのだろう。
「特攻してくる。サポートよろしく」
「後はまかせなさい」
頼もしい言葉を聞くと同時に、正面の盗賊に突撃する。居合で切り伏せると血のエフェクトと共に地面に倒れて行く。その光景を最後まで見届けず、近くにいた盗賊に切りかかる。その盗賊は咄嗟に防御の姿勢を取るが、お粗末なうえに遅かった。防御態勢を取られる前に上段からの袈裟切りで2人目を倒す。
「掠るのも死活問題とかっ!」
背後に近づいた盗賊を、振り向きざま横一閃で蹴散らす。僕の脇を抜け、キャロルの方へ行こうとした者を背後から切り捨て、バクッステップで背後にいた盗賊の懐に潜り込むと鳩尾へ肘を叩き込む。
「キャロル! ボスを探して!」
「さっきから探してるわよ!」
キャロルの方へ敵が流れないように立ち回りながら、視線を巡らせボスらしき盗賊を探す。
「それっぽいのいなくない!?」
「私が探すからコウは目の前の敵に集中しなさい!」
「はい!」
とは言ったが蹴散らしながらも探すのはやめない。
「……おかしい」
いくら探してもそれらしき盗賊が見当たらない。盗賊には必ずボスがおり、そいつを倒すと盗賊団は撤退していく。正面から戦うときは、できるだけ早くボスを見つけて倒すのが重要になってくる。普通は視界に必ず入る位置に居るのだが……。
「……どこだ」
嫌な予感がする。
「背後にも気を付けて!」
「言われなくても探してるわよ!」
いくら力量差があっても物量が違い過ぎる為、キャロルの方へも少なからず敵が流れてしまう。まぁ職が職だが、こんな雑魚に後れを取ることはない程度には強いのでその点は心配していない。しかし、ボスになると他の雑魚とは違い、多少できるようになるため、キャロルには少し荷が重い。だからボスだけは早々に見つけて僕が蹴散らすことになっている。
いくら探しても視界に映らないことに、嫌な予感が膨れ上がっていく。一番近くにいる盗賊の首を刎ね、キャロルの状態を確認する。
自分で思っていた以上に距離が離れていた。そして、キャロルの頭上、木の枝にボスが得物を振り上げている姿が見えた。
「っ!!」
目の前から襲ってくる盗賊を無視し、キャロルとの距離を一足飛びに縮めていく。視界の端で膝を曲げ、飛び降りる体勢になってボスがいる。
「キャロル! 上だ!!」
「え?」
僕の声が届いたようだが、キャロルの周囲にはまだ数人の盗賊がいる。上を確認していられる余裕はないようだった。だが、僕の焦った様子から察したのだろう、僕側にいる盗賊を倒しにかかる。
視界の端ではボスの足と、木が離れていた。急速に縮まっていくキャロルとボスの距離。目の前で背を向けて突っ立ている盗賊を切る。生死も確認せずその脇をすり抜ける。さらにもう一人切り伏せた時点で、ボスの影がキャロルに重なった。
「はぁあああ!!!!」
咄嗟に、目の前にいる盗賊をキャロルに向かって思い切り蹴り飛ばす。
「うえぇ!!?」
キャロルから何とも言えない悲鳴らしきものが聞こえ、僕の蹴り飛ばした盗賊と縺れるように吹っ飛んでいく。直後、キャロルの居た位置にボスが武器を振りおろした。ボスの一撃が地面を抉り、土を巻き上げる。
ボスの視線が直前まで狙っていた獲物の方へ流れた。僕はそこでようやくボスの元へ辿り着き、そのまま、僕から視線をはずしているボスの首を刎ねた。
「……はぁ」
僕は撤退していく盗賊団を見ながら溜息を吐く。ボスが倒されたことで散り散りに逃げていく盗賊たち。それを見送りながらキャロルの方を見る。
「うっ!!」
そこには、僕が蹴り飛ばした盗賊に、組み伏せられるように倒れているキャロルがいた。さらに言うなれば、目元が吊り上っており、無言で、僕を射殺さんばかりに睨みつけている。ついでに、ドラゴンがかわいらしく見えるほどの殺気も一緒に……。