日常的な問題
また1月超えてしまい、申し訳ないです……。
「……コウ」
「……何かな?」
「……なんでもないわ」
「途中で止められると気になるんだけど?」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
沈黙をやぶるようにキャロルが溜息を吐く。そしてこちらと目線を合わせないまま、聞こえるか聞こえないかという小声で呟く。
「……コウと一緒にいると、飽きなくていいわ」
「それは、どういう意味かな?」
「……どういう意味だと思う?」
「質問を質問で返さないで欲しいかな?」
「細かいことを気にすると異性に好かれないわよ?」
「……」
「……」
「……キャロルさん」
「何?コウ」
「つまりあなたは僕のせいだと言いたいんですか?」
「……そんなつもりはないわよ?」
「本当に?」
「ええ。ただ、コウといるときは他の人といるときに比べて色々起こるなと思っただけよ」
「……」
「……」
「……キャロルさん」
「何?コウ」
「それは言外に僕のせいだと言っているように聞こえるんですよ?」
「気のせいよ。そういう被害妄想はどうかと思うわ」
「……そうですか」
「ええ」
「……」
「……」
「……キャロルさん」
「何?コウ」
「普通はこんなにイベントが立て続けに起こったりしないんでしょうか?」
「そうね。普通は起こらないわね」
「…………」
「…………」
なんで僕は相方から無言のプレッシャーを感じなければいけないのだろう。僕にはなんの責任もない。……はず、なのに。
どうしてこうなったのか……。キャロルが冒険の準備を始めて、例の黒光りした物体Xに遭遇したあたりまで遡ってみる。
◇
例の黒い核兵器を目の当たりにしたキャロルが絶叫した。すでに僕の中ではお約束認定されている。
準備に必要なアイテムは購入できたのだが、問題は目に見えてキャロルの機嫌が悪くなったことだろう。
移動中は僕が話かけてもそっけない返事しかくれず、道中ずっと眉間にシワを寄せて仏頂面をしているのだ。さすがに戦闘行為に支障が出るようなことはなかったが……。
「やっと半分くらいかな?」
「そうね」
「そういえば、さっきの敵は強かったね」
「そうね」
「これからもっと強いの出るんだよねー」
「そうね」
「たどり着けるかな?」
「そうね」
「……キャロルさん」
「そうね」
「……」
先ほどからずっとこれである。街を出てから『そうね』以外の言葉を聞いてない……。いい加減……泣いてもいいよね……。
「コウ」
「何かな!?」
「さっきからうるさい」
「……」
久しぶりに『そうね』以外の言葉を聞いたと思ったらこれだよ!! 今ここで僕が泣いたとて責められる人はいないはずである。いや、いない!!
「コウ」
「……なんでしょう?」
「鬱陶しい」
「いくらなんでもそれは酷いよ!!」
「うるさい」
「……はい」
情けないって?言われなくてもわかってるよ……。でも、仕方ないだろ!!今のキャロルはとてつもなく怖いんだよ!!
「……コウ」
「……何かな?」
剣呑な表情はそのままに、キャロルの雰囲気が変わる。視線は正面を向いたまま、足を止め得物を構えている。
「……どうする?」
「どうしようか……」
「こんなところにドラゴンが湧くなんて聞いたことない」
「僕も聞いたことないな」
「……プレイヤーかしら」
「そうだろうね。こんなところに上級モンスターが湧くわけないし」
「勝てる?」
「……かなり厳しいと思う。相手がド素人なら勝てるかなって程度」
「逃げるわよ」
「了解」
「大きく迂回して行きましょう」
「それなら西から行こう。敵の遭遇率や平均レベルが低い」
「わかった」
さすがに上級モンスター相手に無策で突っ込める勇者様ではないので、僕もキャロルも尻尾を巻いて逃げ出す。
こんな状況になればさすがのキャロルでも僕で遊ぶのを続ける余裕はないようだ。こんな状況じゃなくても僕をからかって遊ぶのはやめて欲しいのだけれども……。
……僕が乗るからいけないんだろうか?
「コウ!考え事してる場合じゃない!!」
「それもそうだ。全力で振り切ろう」
思考を切り替えると、目の前の敵から逃げ切ることだけを考える。現在の場所は森の奥深くなので、生えている木々を盾にしながら全力で駆け抜ける。相手は結構な図体なので、こちらを追いかけるのは難しいだろうと思う。
「コウ!!」
「そうくるのか」
急に薄暗くなったかと思えば、自分達の頭上に先ほどのドラゴンが飛んでいる。どうやらこの木々の中を走って追いかけてくるほど愚かではないらしい。非常に残念だ。
「どうしようか?」
走りながらも頭上を飛んでいるドラゴンから注意を逸らさない。逸らせば一瞬でお陀仏だろう。
「デスペナは嫌だなぁ」
「余裕あるわねコウ……」
「いや、余裕はないよ?ただ、半ば諦めているというか……」
「あ゛?」
「いえ、なんでもありません!!」
怖かった!今のキャロル怖かったよ!!
隣を走っているキャロルの方が頭上を飛んでいるドラゴンよりよっぽど怖かった。
「このままだと戦闘せずには終われそうにないな……」
僕がそう呟いた時、頭上を飛んでいたドラゴンが口を開いた。おもむろに深呼吸をするような動作をすると、その口内に赤色の発光が見え始める。何かが開かれた口内に集束していく。開かれた口から見え隠れする牙が陽炎のように揺らめいている。徐々に陽炎の範囲が広がっていく。そして溜めが終わったのか、吸い込む動作が一時的に止まる。
「っ!……不味い!!」
「きゃっ!コウ!?」
僕は咄嗟にキャロルを抱えると、丁度よく目の前に現れた段差部分に飛び込む。飛びこむのと同時にドラゴンから灼熱のブレスが放たれた。灼熱のブレスは木々を薙ぎ倒し僕らに迫る。ブレスは僕らに当たらず、頭上スレスレを通り過ぎて行く。どうやら段差に飛び込んだおかげで、ドラゴンがブレスの直前で僕らを見失ったようだ。周囲に生えていた鬱蒼と生い茂る木々も味方してくれた。
「危機一髪にも程があるね……」
「……」
その場でドラゴンの様子を窺う。頭上を旋回しているが下りてくる様子はなく、追撃が来る気配もない。どうやら僕らを完全に見失ったようだ。しばらく旋回して獲物を探していたが、そのうち諦めたのかどこかへ飛んでいく。
「はぁ……。寿命が5年は縮んだよ……」
何故5年かって?なんとなくだよ!!
「キャロル。大丈夫?」
「……ええ、大丈夫よ」
「キャロル?顔が赤いけど、本当に大丈夫?」
先ほどのブレスは直撃は避けられたはずなのだが、余波があるらしく、僕のライフゲージもだいぶ持っていかれていた。直撃したら即死だっただろう。キャロルも僕が壁になったのだが、半分近く持って行かれたようだ。
「大丈夫よ。ちょっと暑かっただけ。というかいい加減どいて欲しいんだけど?」
「あ、ごめん」
謝罪すると共に手を引いて立ち上がらせる。
「全く、とんだ災難だったわ」
「本当にね……」
「……どっかの誰かさんは変なところ触るし」
「あれ?キャロルまた顔が赤くなってるよ?」
「なんでもない!!」
こちらに向かって舌を出すとそっぽを向いてしまう。
段差に飛び込む直前にキャロルを抱えた上げた際、胸を鷲掴みにしていたのは忘れることにする。着痩せするタイプだったんだな。などとは口が裂けても言えない。その発言は俗に言う死亡フラグである。
「さて、ドラゴンもどっか行ったしさっさと行きましょう」
「そうだね。余計な時間も食ったことだし」
まだ顔が赤いがこれ以上からかうと鉄拳制裁が飛んでくるので自重する。地図を開き目的地の道のりだけ確認すると、ペースを少し上げて歩き始める。目的地まで、もう何事も起こらないことを祈る。
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