相方がいない時
「――――っていう学校知ってる?」
停止から戻ると同時に色々質問していたのだが、キャロルという呼び名からウチの学校に来た転校生を思い出した。そして自分のことをキャロルと名乗っていたのでもしかしたらと思ったのだ。
「知らないわ」
ちょっとそっけないがあまりにも早い即答だったので、本当に知らないのだろう。
「そっか。僕と同じクラスに転校生が来たからもしかしたらと思ったけど」
「え!?同じクラス!?」
「うん。凄い偶然だよね」
「……そうね」
「美人だし性格もいいから、いつも周りに人がいるみたいだよ」
「みたいって……」
「いや~、僕、なんだかんだで話をしたことないんだよね~」
「……同じクラスなのに?」
「うん」
「……薄情じゃない?」
キャロルが顔をしかめてそんなことを言ってくる。
「と言われてもね。いつも誰かしらと話てるから絡みにくいんだよね」
「そうかもしれないけど……」
「まあ機会があったら話くらいするよ。残念ながらないと思うけど」
「機会って、例えば?」
「ありえないけど、向こうから話かけてくるとか?」
「ありえないんだ……」
「うん。だって僕は自慢できることなんか全くないからね」
「それもどうなの?」
「仕方ないよ。事実だし」
自慢(?)出来ることといえば、せいぜい両極端な兄妹との腐れ縁が続いていることくらいだろう。そして絶対に言えないが、その妹と中学1年まで一緒に風呂に入っていたことだろうか。その兄妹の家族と、我が家の家族には、『この事を人に告げたら自決する』と真剣な表情で口止めしてあるから大丈夫だろう。入浴時にはもっと人に言えないようなやりとりがあったのだが、これは断固として墓に持っていくと決めてある。妹の方にもこれを誰かに言ったら二度と会えなくなると散々脅し……説得してあるので大丈夫だと思いたい。
若かった!あの頃は若かったんだよ!!
「コウ?どうしたの急に真っ白になったけど」
「大丈夫。なんでもないよ」
「目が死んでるわよ?」
「あははは……。ただ……無知は罪だと、噛み締めていたんだ」
「突然どうしたの!?キャラが違うわよ!?」
「本当に大丈夫だよ。軽く死にたくなっただけだから……」
「どこが大丈夫なの!?全然大丈夫そうじゃないんだけど!?」
「大丈夫だよ。昔の自分に会えたらまず間違いなくスプラッタ映画も真っ青の現場が出来上がるだけだからさ」
「全然大丈夫じゃないよね!?」
「あははは。キャロルは面白いなあ」
「私!?おかしいの私なの!?」
キャロルをからかい、黒歴史を思い出して下がったテンションの回復に成功する。キャロルは若干振りきれたようだが、まあ高い分には問題ないだろう。
「さて、キャロルがおかしいのは置いておくとして」
「おかしいって断定された!しかも置いておかれた!!」
「今日はどこに行ってみようか?」
「……問い詰めたいところだけど、日付が変わりそうだからいいわ」
「どこか行きたいところとかってある?僕としては、そろそろ装備関連のクエストで装備を新調したんだけど」
「それでいいわ。私もそろそろ装備を変えたいしね」
「わかった。じゃあどのクエストにするかなんだけど……」
「そうね。同じ場所で私たち2人とも出来るクエストがいいかな?」
「そうだね。となるとだいぶ限られてくる訳だけど」
「それに2人で行ける範囲であることね」
「組めるようなら他の人と組んでもいいよ?」
「駄目ね。私たちって、コウが思っているよりPSが高いのよ?他の人がいても足手まといでしかないわよ」
「そうなの?皆こんなもんだと思ってたんだけど」
「一度組んでみればわかるわ。……うんざりするわよ」
「そうなんだ……」
「そんな大振り耐えようとせずに避けなさいよ!とか、なんで今のところで反撃しないの!?とかね。普段と段違いで忙しかったわ。ポーションの消費が会得アイテムより上回ったのもあの時が初めてだったわ」
「ポーションなんて早々使うもんじゃなくない?」
「垂れ流し状態だったわよ。コウとなら5分の1で済むのに……」
「たまたま下手な人と当たっただけじゃないの?」
「いいえ。コウがいないときは別キャラでいろんな人と組んだけど、だいたいの人がそういう感じだったわ。消費が凄くて、最終的に一人で落ち着いたくらいよ」
「そうなんだ。僕はキャロルいないときはずっと一人だしなあ」
「コウは私以外の人と組んだことないの?」
「ないよ」
「……これはオンラインゲームよ?」
「言われなくてもわかってるよ?」
「他の人と組むのがオンラインゲームの醍醐味じゃない?」
「そうだね。だからキャロルと組んでるんだよ。僕はキャロルがいればいいから」
「……」
「キャロル?どうかしたの?」
「……なんでもない」
「そう?なんか怒ってるみたいに見えるんだけど」
「気のせいよ!」
何やら不機嫌になった(?)キャロルが「準備してくる!」と告げて走っていくのを眺めながら、さっきキャロルが言っていた台詞を思い返していた。
「僕がいないときは、か」
自意識過剰化もしれないが、キャロルも僕と遊ぶのを特別に感じてくれていると思うと、とても嬉しくなった。
ちなみにこの後、キャロルの絶叫が響き渡るのだが、これについては想像した通りだと思うので割愛します。
なんで絶叫したかだって?それは特大級の黒い悪魔を見たからさ!!
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最後に、更新不定・1話が短い私の作品ですが、今後もよろしくお願いします。