再会
「パスワード……入力っと」
帰宅早々、自室に引っこむといつも通りアースを起動する。
パスワード入力画面から切り替わると、キャラクター選択画面へと移る。そこには侍とテンプレっぽい魔法使いが表示されている。
「どうせいないだろうけど……」
僕は侍を選択しゲームを開始する。このキャラはキャロルと一緒にプレイすると決めている為、今の時間帯に繋いでも僕が一人で出来ることなどかなり限られてしまうのだが……。
女々しいと、自分でも思っている。それでも、このゲームを始めた直後に知り合った親友と一緒にプレイしたいんだから仕方ない。
「アイテムの補充でもしておこうかな……」
ログアウトしたのが港の近くだった為、露店を廻ろうとキャラクターを動かそうとして、唐突に呼び出しがかかった。
「あれ?」
呼び出しは、キャロルからだった。
「……なんでこの時間に接続してるんだろ?」
理由はわからなかったが、呼び出しを断る理由はないので返事を返す。僕の夏休みが明け、中々一緒に遊ぶ機会が減ってしまっていたのでとても嬉しかった。
「まぁ一緒に遊べるならそれでいいか」
思わず口元が綻んでしまったが、それを指摘する人はいないので気にしない。パソコンを見ながら一人でニヤニヤしているさまは、横から見ればさぞかし気持ち悪いことだろう。
キャロルの現在位置は同じ港の反対側辺りだった。前にあのゴキ露店商がいた辺りだろう。
「すぐ行く……っと」
僕は返信すると同時にキャロルと待ち合わせした場所に向かう。
◇
「ここら辺のはずだけど……」
全力疾走の結果、待ち合わせ場所の付近に到着した。しかし、周囲は人でごった返しているので目的の人物は中々見つけられない。
そう、目的の人物はだ。
僕はキャロルを探すのも忘れ、その一点を穴が開くほど凝視してしまう。理由は簡単だ。そこだけ何故かぽっかり空間が出来上がっているのだ。さらにその空間には一度見たらトラウマ必須の巨大ゴキ様が鎮座しているのだ。
僕は額から嫌な汗が噴き出しているのを感じた。なんか、徐々にゴキ様が大きくなっていっている気がするのは気のせいだと信じたい。
「こ、これは」
なんだろう何故か前にも似たようなことがあったような……。
「コウ!」
「!?」
ゴキ様に集中していた僕は、突然名前を呼ばれ不覚にも驚いてしまった。
「探しちゃった」
「あ、うん」
そこには再会を待ちわびた友人が立っていた。ほんの数日だというのにしばらく会っていないような錯覚を覚えてしまう。
「それにしても、相変わらず凄い人混みだね」
「そうだね」
「あんまりわらわら多いと消し飛ばしたくならない?」
「え、えらい物騒だね……」
「そう?普通じゃない?」
「それが普通とか洒落にならないんですが……」
久しぶりに会って早々に周囲に毒を撒き始めた相方にあきれると同時に、会えたことによる嬉しさがこみ上げてきた。
「キャロル」
「何?」
「……久しぶり」
この時、僕は画面を見ながら笑っていたと思う。だって、本当に嬉しかったから。
「うん。久しぶりだね。コウ、会えて嬉しいよ。」
そう言われると同時に顔が熱を持ったような気がした。この手の台詞を面と向かって言われると、かなり恥ずかしいものがあるな。
……まぁいい。そんなことはとりあえず置いておくとしよう。そろそろ、そろそろいいだろう。会話を始めた辺りからすごく気になってはいたんだ。だけど、とりあえず久しぶりに会うんだからと、我慢していたんだ。突っ込みたい衝動にかられながらも必死に我慢していたんだよ。
…………ふぅ。よし。言うよ?言うからね?
「……ところでキャロルさん」
「どうしたの?急に改まって。しかも『さん』とか付けてるし」
「まぁまぁ、そんなことはどうでもいいじゃないですか」
「なに?ホントにどうしたの?何か悪いものでも食べた?」
「食べてません。そんなことは置いておいて」
「置いとくんだ」
キャロルの発言はきりがないのでスルー。ちょっと拗ねたような顔をしたが、今はそれどころではない。
「キャロルさん」
「何よ?」
「一つだけ聞きたいことがあるんですよ」
「だから何よ?それとなんで敬語なの?」
またしてもキャロルの発言はスルー。少し拗ねたような顔をしている。……かわいいな。
…………………落ち着け!落ち着くんだ僕!ゲーム内キャラだから!現実は下手したら男かもしれないんだから!
「で、聞きたいことって?」
僕が中々要件を言わない為、痺れを切らしたキャロルが先を促してくる。
まだ少し関係ないことで動揺していたが、これ以上待たせると面倒なことになる予感がするのでさっさと聞くことにする。
「いや、なんかさ」
「うん」
「日本語が流暢になってない?」
そう。キャロルが接続する前は単語だったり片言だったりしたのだが、今は至って普通に日本語で話しをしているのだ。僕としては夏休み中ずっと片言だったりしたので凄い違和感があるのだ。
「ああ、そんなことか」
「結構重要だと思うんだけどな……」
「そう?」
「うん」
「まあいいじゃない。それより、私の日本語が流暢になった理由だけど」
「うん」
「私が翻訳機を使わずに日本語入力してるからだと思うわ」
「そんなことできたんだ」
「ええ。それに私、今日本にいるから」
「そうなんだ。日本にねぇ」
「そうそう」
……………………。
「キャロルさん」
「どうしたの?」
「僕の聞き間違いかもしれないから確認するんだけど」
「うん」
「なんか、日本にいるとかって聞こえたんですが」
「聞き間違いなんかじゃないわよ」
キャロルはそこで一回切ると、聞き分けのない子供に言い聞かすような優しい笑顔を向けて僕に告げた。
「私は今、日本に来ているの」
驚きのあまり画面を凝視している僕は、さぞかし面白い表情になっていたことだろう。
登場人物が片っぱしから暴走していくんだが、どうしたらいいのでしょう……。
おかげでイベントが進まな(ry
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