転校生
視線が集まる中、教壇側の扉が開き、その人物が姿を現した。
金髪碧眼、交じりっけ無しの眩いばかりの金色、腰まで伸びる髪の毛は枝毛などとは無縁に見える。スカイブルーの瞳は、その瞳を見た者全てを魅了しかねないほどに澄んでいる。
容姿に至っては100人見れば100人とも、美人だと間違いなく答えるはずだ。女神の生まれ変わりと言われても信じるだろう。
身長は160cm前半くらい。すらりとした体型だが、決して痩せているとは思わせない。出るところはしっかりと出ており、かといって大きすぎるという訳でもない。手足も長く、その肌は陶器のような白さをしているが、不健康などと言う訳ではない。一部は薄らと桃色に染まっている。それが倒錯的な美しさを生み出し、異性だけでなく同性さえも魅了している。
見知らぬ集団の前だというのに足取りはしっかりとしており気品すら窺わせる。上品な仕草は時に、周囲を威嚇することもあるが、目の前の女性からはそういったことは感じられない。それどころかどこか親しみやすい雰囲気がある。同年代でありながら女の子というより女性と言ったほうがしっくりくるのだから不思議だ。
クラス中が魅了されてしまったかのように静まり返る中、教壇に立った女性は自己紹介の為に口を開く。
「初めまして、キャロライン・レクシアと言います。呼びにくいと思うのでキャロルと読んでください。日本に来て日が浅いので、友達もおりません。どうか仲良くしてくださいね?よろしくお願いします」
歌わせたらすぐに歌姫と呼ばれそうな、凛とした美声で自己紹介をした。話すペースや大きさが非常に聞き取りやすく、日本語の発音まで完璧だった。ここまで来ると一種の芸術だ。
最後の『よろしくお願いします』の所では、完璧な角度で一礼までしてみせた。その際に長く綺麗な髪が前に流れてきたのだが、それを見た数人が感動のためか失神するという事態にまで至った。まあ、鼻血を噴いてしまったやつよりはマシと言えるだろう。
キャロルが自己紹介を終えると、一拍置いて教室内に怒号が響き渡った。『結婚してください!』だの『惚れました!付き合ってください!』だの『お姉様って呼んでいいですか!?』だの、キャロルが姿を見せた辺りから、こうなることをある程度予想していた僕は、安眠用マル秘アイテム【耳栓】を装着したのだが、それすらも貫通して音の暴力に晒されていた。
思わず顔をしかめてしまう。
キャロルはこの爆音に晒されながらも、笑顔で手を振ったりしている。
現学園のアイドルともいえる茜も例に漏れず、うっとりとした表情でキャロルに熱い視線(晃主観)を注いでいる。
周囲を見渡すと少し離れた場所で、衛が立ち上がって何かを叫んでいたが、隣に座っている真樹に打ちのめされていた。大方、スリーサイズがどうとか言ったのだろう。こういうことに関しては恐ろしく勇者な友人に溜息を吐くと教壇で微笑んでいるキャロルに目を向けた。
とんでもなく綺麗だと思う。ただ、僕としては綺麗過ぎて逆にドン引きである。あんな美人に隣を歩かれたらいたたまれずに逃走してしまうだろ。
ヘタレは大人しく無関係を装うことにしよう。
もしかしたらアースの相方であるキャロルかもしれないが、向こうは僕に気が付くことはないと思うので黙っていることにする。僕はゲームの中でだけキャロルと遊べればいいのだ。
落ち着く気配のない教室をしり目に、1時間目は寝ても平気だったなあと睡眠を取ることにした。
寝る態勢に入る直前、キャロルと視線が合ったような気がするが、自意識過剰から来る勘違いだろうと思い、そのまま睡眠学習へと移行した。耳栓が刺さったままなので、授業中は何も聞こえなくなるのだろう。『睡眠学習にならなくね?』とか聞こえないのである。
「茜ー。1時間目が終わったら起こしてー」
恐らく聞こえていないだろうが、まあ何も言わなくても起こしてもらえる。
真面目な茜はずっと起きているし、僕が寝る授業を心得ている。運動はからっきしだが、こういう時には役に立つ幼馴染である。
そのまま、僕の意識はシャットダウンした。
女性をうまく表現するの『も』苦手なので変な部分があれば教えてください。