第六感
第2章的な部分になります
ホームルーム前の短い時間、教室の一角にいつものメンバーで集まっている。いつものメンバーとはもちろん僕,茜,大助,真樹,衛の5人だ。しかし、その場に流れている空気は決して和やかなものではない。剣呑ともいえる雰囲気だ。
「……それで、衛、どっちだったんだ?」
「さっさと教えなさい」
「あきちゃん……なんかあの2人が怖いよー……」
「黙っていよう茜。巻き添えにされたら嫌だし」
「待て!晃、俺を見捨てないでくれ!」
衛に詰め寄る2人に目を向ける。何か鬼気迫るものがある。とても怖い。
衛が何かにすがるようにこちらを向いている。僕は衛から視線を逸らしながら、眉根を寄せて目を伏せる。
「……ごめん」
「晃ぁぁぁーーー!!!」
衛は絶叫しながらこちらに手を伸ばす。茜は半挙動不審になりながら、僕と伸ばされた衛の手を交互に見ている。茜の肩を叩くと、茜は困ったようにこちらに目を向ける。僕の方が身長が高いので自然と上目使いになっている。……ちょっとかわいい。
内に湧いた雑念を追い払うのも兼ねて、ゆっくりと首を振る。
茜はもう一度助けを求めている衛に目を向けると、顔を伏せて両手で顔を覆った。ついでに、僕も悔しそうな顔をして俯く。
「衛。いい加減諦めたらどうだ」
「あなたに味方はいないのよ」
それを見届けると、真樹と大助が止めの言葉を投げかけた。
衛は絶望を顔に張り付けたまま、伸ばしていた手を下す。僕と茜からの援護はないと悟ったのか、衛はついに顔を伏せる。
「……っしょう。ちくしょーーー!!!」
そして絶叫した。
皆、ノリノリである。
「で、衛。結局どっちなの?」
いい加減に恥ずかしくなってきたので、教室中の視線を欲しいままにしているくだらない寸劇を切り上げる。
僕が切り上げる意思を見せたことで、全員が何事もなかったかのように僕の席に集まってくる。
ことの発端は、衛が本日未明に『職員室で転校生らしき人物を見かけた』というところから始まったのだった。
そこから大助が性別はどっちかと尋ねたところ、衛がはぐらかしたので先ほどの流れになった訳である。
「女だったな。しかも、かなりの美形だったぜ」
その言葉を聞いた大助、それと聞き耳を立てていたクラスの男共が歓声が上がる。
逆に女性陣からの反応はよろしくない。やはり異性が来る方がいいのだろう。恋人がいる者などあからさまに顔をしかめている。
「美人か~。それじゃあきっとアースはやってないだろうなぁ~」
かなりずれた僕の評価を聞いた友人達の反応は様々だった。
「晃!?判断基準そこなのか!?」
「さすがあきら!言うことが違う!」
「茜。良かったじゃない」
「?真樹?良かったって何のことー?」
茜は真樹の発言に首をかしげている。僕もなぜそこでその台詞が出たのか考えを巡らせる。
『……そうか、茜はそっち趣味だったのか』
仲がいい幼馴染の女の子、僕の中でそういう位置づけにいる茜だが、過去に浮いた話の一つも聞いたことがない。
運動するための遺伝子は大助に流れてしまったので仕方がないと思っている。
目は大きくてかわいらしく、手入れの行き届いた絹を思わせるさわり心地の良いブラウンの髪は肩口で切りそろえられており、僕や大助の後を半歩下がって雛鳥のように付いてくる様は大変庇護欲をかりたてられる。容姿も全体的に童顔なので効果抜群だ。個人的には学年どころか学校で1・2を争う綺麗所だと思うのだ。
今までどうしてそういった話題が出ないのだろうと不思議に思っていたが、なるほど、それでは浮いた話など出てこないだろう。
女性からのやっかみも聞こえてこないしな。
僕は変に納得してしまい、腕を組んで頷いている。
◇
「あきちゃん?どうかしたのー?」
「……なあ大助」
「……言うな」
「……あれは勘違いしてるわね」
「俺もそう思うぞ」
「何も言うな。あきらに期待するほうが間違ってる」
「「それもそうだ」」
「皆してどうしたのー?」
3人は俗に言う〝天然〝に当たる茜に目を向ける。
眉根を寄せて頭に疑問符を浮かべ、かわいらしく首を傾げている茜。
3人共に盛大なため息を吐く。そして、未だに現実に戻ってこない〝朴念仁〝に目を向ける。またしても盛大にため息を吐いた。
「駄目ね」
「ああ、駄目だな」
「我が妹ながら情けない……」
「むー。なんか馬鹿にされてるよー」
「これは進展しそうにないぞ?」
「無理矢理にでもくっつけてみる?」
「無駄だな。その程度で済むなら俺が手を打ってる」
「ねー!なんのことー?」
「はいはい。茜はあそこでトリップしてる晃君を連れ戻してきてねー」
3人に適当にあしらわれ、茜はふくれっ面で晃の元へと向かった。
茜が晃に声をかけると、晃は茜の肩に手を置きうんうんと頷いている。もちろん茜は疑問符を浮かべて首を傾げている。
「……素直ないい子なんだけどねぇ」
「兄である俺が言うのもなんだが、かなりの美形だしな」
「しかし、2人とも鈍いな」
「本人もわかってないってのもねぇ」
「何気にスタイルもいいんだぜ?」
「晃は妹だと思ってる節もあるしなぁ」
3人は揃って視線を移す。
「「「……」」」
視線の先には、仲睦まじくずれたコントを始めた2人がいる。
「やっぱり駄目ね」
「そうだな」
「これで転校生に晃が惚れたりしてな」
「晃君に限って、それはないわね」
「そうだな。あきらにはないな」
「いやいや、転校生がアースやってたらわからないぜ?」
「「……」」
「……すまん。俺が悪かった」
大助と真樹から責めるような視線を向けられ、即座に謝る衛。
「……否定出来ないところが怖いわね」
「むしろあきらなら……とさえ思うな」
「そういえば、ちょっと前にアースで遊んでる人がどうとか……」
「「……」」
「……いや、すまん。本当に俺が悪かった」
大助と真樹から汚物を見るような視線を向けられ、低頭して謝る衛。
茜と晃はバカップルも真青のスキンシップを取っている。言葉にするのも憚られるレベルだ。
「……あれで付き合ってないのよね」
「……ああ、少なくとも本人達にそのつもりはない」
「あれで付き合ってないなら、そこらのカップルなんて肩を叩いたようなもんじゃ……」
「「……」」
「……私が悪かったと、反省しております」
大助と真樹から汚物に巣食う親が蝿である幼虫を見るような視線を向けられ、土下座して謝る衛。
茜と晃にはすでに視線を向けられない。クラスの中には惚気られて教室から逃げ出す者までいる。
「……空間がピンク色なんだけど」
「……安心しろ。気のせいだ」
「これで転校生と付き合い始めたら浮気じゃ……」
「「……」」
大助と真樹から殺気混じりの視線を向けられ、土下座を飛び越え土下寝に移行する衛。
一周して落ち着いたらしい2人は和やかに会話している。
「「「……」」」
無言で視線を2人に向ける。
どこか幸せそうな茜と、至って普通の顔をしている晃。ついでに茜は頬を薄らと桃色に染めている。
「なんで気がつかないのかしらね?」
「あきらと、茜だからだろ?」
「俺は晃が転校生に惚れないことを祈ってる……」
「大丈夫でしょう?……例の相方の人じゃなければ」
「そうだな。あきらに限ってそれはねぇよ。……この前言ってた人じゃなければ」
「俺は嫌な予感が肌に突き刺さってるんだけど……」
「「……」」
「いたっ!ちょ!叩かないでくれよ!いや、だからって蹴りは!」
大助と真樹は無言で暴力を振るい始める。目にはなんの感情も移していない。衛は蹲るように暴力に耐える。
茜と晃は不思議そうにその光景を見ている。
「俺の記憶が正しければ、お前の第六感は的中率がかなり高いんだがな?」
「私の中では的中率十割なんだけど?」
「あいたっ!っていうかそれ俺のせい!?俺のせいになるの!?」
「真樹、どうする?」
「埋めるわ」
「埋められるの!?」
「でも転校生はもう来てるんだよな……」
「大丈夫よ。ただの腹いせだから」
「俺は何にも大丈夫じゃないですよね!?」
「どうする?もういつチャイムがなってもおかしくないぞ」
「……さすがにもう無理ね。違うことを祈るしかないわよ」
「俺のせいじゃないないのに……」
焦りを顔に浮かべる大助と真樹、しかし、無情にもチャイムが鳴り響いた。
衛は先生が教室に入ってくるまで打ちひしがれていたという。
日常会話なら結構さくさく進むのですが……。
更新頻度を少し上げるように頑張ります。