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EARTH  作者: デベ
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一つ目の試練 (11)

すいません。遅くなりました。

「あと少しで出口だな」


地図を確認しながら迷宮を走り抜ける。

ミノタウロスとはかなりの距離が開いている。

追いつかれることはないだろう。

偶に火球が飛んでくるが、遠距離からの直線攻撃に当たってやるほど僕のPSは低くない。


「よし!あとは直線だけだ!」


『コ』の字型の折り返し地点を過ぎたら後は直線だけになる。

つまり火球にさえ気を付けてさえいれば追いつかれることはないということだ。


『これで逃げ切れたな』


安堵と共に折り返し地点にたどり着いた。

後ろを振り返る。しかし、そこに先ほどまでいたはずのミノタウロスは見えない。


『諦めたのか?』


疑問に思いながらも立ち止まることはしない。

そんなことをしていて追いつかれたのでは笑い話にもならない。


「まあ、来ない分には構わないか」


あんなのと一々やりあってられないしな。などと思考を放棄した。


「ん?今、何か聞こえたような……」


ふと、BGMに混ざって、何か違う音が聞こえたような気がした。

『気のせいか?』そう考えるのだが、何か嫌な予感がしている。前に進むにつれ、背筋に走る悪寒が酷くなっていく。変な汗まで噴き出してくる始末だ。

音は前へ進むほど大きくなっており、それが断続的に響いているものだとわかる。

そう、例えるなら、何か大きな生き物が、体当たりでもしているような……。

その時、前方5m程の壁が爆撃でも食らったかのように吹き飛んだ。

勢いが付き過ぎたらしく、反対側の壁に激突した。壁が大きく窪み、粉塵の中からこの事態を引き起こした張本人が姿を見せる。

それはもちろん後ろから追いかけていたはずのミノタウロスだった。


「……嘘だろ?」


あまりの出来事に思考停止に陥っていた僕は、ミノタウロスから火球が放たれるまで動きが止まってしまった。


「っ!」


迫る火球を体を捻ることで回避する。

追撃の火球はなかったが、お約束ともいえる突進の態勢をとっている。それに対して、僕は無理な回避で完全にバランスを崩してしまっている。

避けるのは不可能と判断する。それならばと、敵を凝視する。どうせ当たれば即死なのだ。


「同じ死ぬなら足掻けるだけ足掻く!」


覚悟を決めると、場の状況を冷静に見れるようになった。

正面でミノタウロスが地面を蹴る。爆発音と共に足元に砂塵が舞う。

まだ体勢は崩れたままだ。

ミノタウロスが高速で突っ込んでくる。距離はすでに半分ほどまで詰められている。

ここまでで約3秒。

ここに来てやっと体勢を立て直すが、すでに回避が間に合わない。袋小路で使ったすり抜けも、近すぎて無理な距離だ。動きが遅い魔法使いじゃなければ出来たかもしれないが……。

ミノタウロスと接触する直前、背後に向かって跳躍する。勢いを殺す為の最終手段で、ダメージは免れない挙句、効果があるのかもわからない大博打だった。

ついでとばかりに、ミノタウロスが接触する直前、杖を思い切り振りおろす。

狙いは肉の付きようがない目だ。

眼球を抉るつもりで杖の先端を打ち込んでやる。開き直ったのが幸いしたのか、完璧なタイミングで目に突き刺さった。直後、体当たりの衝撃を受け後方に吹き飛ばされる。死も覚悟していたのだが、半分程度減っただけで済んでいた。


「……いくらなんでもダメージ少なすぎじゃないか?」


とりあえず回復アイテムを使いつつ起き上がる。

前方ではミノタウロスが咆哮をあげている。

目を突き刺した時、痙攣したような動きがあったのでおそらくそのせいだろうと適当に考え、それ以上は思考を放棄した。

ミノタウロスは未だに攻撃体勢を取っていない。

このタイミングを逃したら次の攻撃する機会はいつになるか……。


「あの牛野郎はここで沈める!」


魔法の選択を開始。

相手の属性は常用魔法から火属性と仮定、火に対して最も効率のいい属性は水だ。現在覚えている魔法の中で最強の水魔法を指定、詠唱時間は5秒、魔法の詠唱を開始する。

正面でミノタウロスがこちらを視認した。どうやら痛みから立ち直ったらしい。

魔法の詠唱を確認、なんとかの一つ覚えのように火球が出現する。魔法の完成はもちろんあちらの方が早い。

普通のゲームだったらここで詠唱妨害されて負けてしまっただろう。しかし、ここはアースという『普通』とはかけ離れたクオリティのゲームだ。

アースでは傷ついた場所によって様々なマイナス効果が付いてしまう。そして、正面の牛野郎は先ほど目を負傷した。

目を負傷すると視界が狭くなり、遠距離攻撃(物理・魔法問わず)の命中率が大幅に下がる。それどころか掠りもしなくなる。

下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるというが、アースでは決して当たらない。マイナス補正の効果があまりにも鬼畜なのだ。

ユーザーから不満の声が過去に何度も上がったが、『仕様です』の一点張りで変わる気配はない。

僕も掠っただけで戦況がひっくり返るこの仕様は好きじゃなかった側だが、今回はその仕様に助けられる形となった。

ミノタウロスが火球を放つ。もちろん鬼畜補正のおかげで火球は見当違いの場所に飛んでいく。ミノタウロスは再度火球の詠唱を始めるが、その詠唱が終わるより先にこちらの詠唱が完了する。

突如として通路を覆い隠すほどの水が出現、大量の水は激流となってミノタウロスに襲いかかる。ミノタウロスから火球放たれるが、川に松明を放り込むようなもので、火球は一瞬でかき消されてしまう。ミノタウロスはどうすることも出来ず、そのまま激流に飲み込まれた。


「……はぁ。かなりきつかったな」


体中から嫌な汗が噴き出している。

当たらないとわかっていても、火球が放たれる直前は心臓が止まるかと思った。

ミノタウロスとの戦闘振り返ると、色々と思うところはあるが……。


「……結果オーライってことで」


人生前向きが一番と気を取り直して迷宮の出口へと足を運んだ。



大きな扉の前で歩みを止める。

扉には鍵がかかっており、扉の中央に鍵穴が付いている。

僕は先ほどミノタウロスを撃破した場所で拾った鍵を差し込む。どうやらミノタウロスを撃破するとその場に落ちたようだった。

拾った鍵は引っかかることなく、すんなりと解錠することができた。


『最初からミノタウロスを避けたら進めなかったという訳か……』


正直なところ全く倒せる気がしなかったので、なんとかここまで逃げてしまっていたら、恐らく取り乱して負けてしまっていただろう。

扉を開ける。

薄ぼんやりとしか見えないが、通路ではなくどこぞの球場並みの開けた空間に出たようだ。

罠の心配もしたが、これほどの空間なら罠よりモンスターの群れだろうと開き直る。

ほとんど警戒もせずに歩みを進める。

広大な空間を3分の1程進んだところで〝それ〝は起こった。


「なんだっ!?」


なんの前触れもなく、地響きと共に中央の地面が隆起し始めたのだ。

突然の地響きに立っていることが出来ず地面に伏せる。そうしていると、地面が割れ、そこから植物の根が飛び出してくる。根は天井に向かって伸び、そこからある形を紡ぎだしていく。


「……龍」


地響きが止まると、そこには空間の半分を占める巨大な龍が鎮座していた。

根から変化したにも関わらず、その体は透き通ったエメラルドのような輝きを放っている。

予想外の出来ごとに、立ち上がることも忘れ、現れた龍を見つめることしか出来ない。


『強き者よ』

「っ!?」


咄嗟に飛び起きると、いつでも魔法を放てる状態で待機する。

いつ戦闘が始まってもおかしくない状況だったというのに、動きを止めてしまったことが恥ずかしくなる。

僕は緊張状態を維持しながら龍の言葉に耳を傾ける。


『汝、我を持ちて西へ向かえ』


それだけ言うと、龍の体が発光しだした。途轍もない光量に目を開けていられず手で遮る。

少し経って光が収まると、そこに龍はおらず、静寂だけが残されていた。


「なんだったんだ?」


戦闘にならず若干拍子抜けした。

何か変わったことがないかと周囲を探すが、奥に出口と思しき光源が見えるだけだ。


「??」


これだけなのかとため息を吐いた時、それに気が付いた。

右手の薬指、そこには緑色の龍が描かれた指輪が嵌められていた。材質は鉄だろうか。鈍く輝いている。


「よくわからないけど、これを持って西に行けばいいの?」


情報が足りずわからないことだらけだが、なるようにしかならないかと開き直り、出口らしき光源へと歩き出した。

最後が変になったような気がします……。

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