一つ目の試練 (8)
「まあ使えないんだろうけど……」
取り出したのはコンパスだった。
やはり使えないのか針が回ってしまっている。溜息を吐き、それでもとコンパスを持ったまま1周してみることにした。
目印のある場所をスタートとして歩き出す。しかし、なんの反応もないままアイテムの見える位置まで来てしまった。
「やっぱり駄目か……」
最初から駄目で元々と割り切っていたのでさほど落胆はしなかった。
だが、アイテムを置いた場所から数歩下がった場所、そこで異変は起こった。
「あれ?コンパスが動いてない」
コンパスが動きを止めていた。矢印が北を指している。
その場所から、龍の方角、つまり東となる右側の壁を調べてみる。
見た目には他の壁と大差なかったが、よくよく見ると壁の上の方で不自然に苔が切れている部分があった。
あまりにも変化が小さすぎて気が付けなかったようだ。
「どうにかすれば壁が動くのか?」
とりあえず押してみるかと壁に手をかける。否、かけようと思った。
手に壁を触るような手ごたえはなく、体がそのまますり抜けてしまった。体がすり抜けた先には、人が一人やっと通れる程度の小さな横道が続いていた。
僕はコンパスをしまうと、その狭い道を進んでいく。
移動しながらふと思った。
今更だが、こんな現状における最強装備はなんの為に用意されたのだろうかと……。試験的な問題ばかり出されているのに、装備が関わってくるようなものがなかった。
「そろそろ何か出そうだよね。」
なんとなく、そんなことを呟いた。そして、その呟きは見事に的中してしまった。
しばらく歩くと狭い道を抜け、バスケットコート程度の大きさの空間に出た。僕の正面には2足歩行の半人半牛の化け物が斧を持って待ち構えていた。
俗に言うミノタウロスというやつだ。
見た目がやたらリアルで恐ろしい雰囲気を纏っているが、それ以上に……。
「なんか、臭そう」
僕の呟きに激怒した訳ではないのだろうが、目の前の化け物は咆哮を上げるとこちらに向かって突進してきた。
咄嗟に横に跳んで回避する。モーションがわかりやすかったので避けることができた。
「動きが速いな」
遅そうな見た目に反して、ミノタウロスは俊敏な動きを見せた。
魔法の詠唱時間が固定なことを考えると、魔法使いは動きの速いこいつのような相手とは相性が悪い。どうしようかと考えていると、ミノタウロスは思ってもみない行動に出た。
魔方陣の出現、つまり敵が魔法を詠唱しているということだ。
そんな知能があるようには見えないが、咄嗟のことだったので反応が遅れた。
炎系最弱の魔法だった。
追尾才能は皆無だが、詠唱速度が非常に短い魔法だ。
直径1,5mほどの火球を飛ばすだけの簡単なものだが、こちらの視界を奪うのには十分すぎる大きさだった。
僕はミノタウロスの周囲を回るように火球を回避する。
詠唱速度ゆえか、火球は連続で射出され続ける。
火球の大きさがそこそこあり、魔法使いは移動が前衛職に比べ速くないので、近づくことも出来ない。
魔法を詠唱しようにも、火球が切れないので逃げ回るしかない。同じ動きを繰り返すだけなのだが、ここで大きな違いが出た。
相手は機械が動かしているのでミスはないが、こちらはそう言う訳にもいかなかった。しまった!と思った時には手遅れだった。
操作ミスにより火球に当たってしまう。ダメージ自体はほぼないに等しいものだったが、魔法に当たったことでほんの少しの間だが動きが止まってしまう。
その少しの間が、この戦闘においては致命的な隙となってしまった。
先ほどと同じように突進のモーションをする。しかし、こちらは動くことができない。
相手が動き始めた時、ようやく動けるようになったが、遅かった。
横に跳ぶが回避しきれず突進に掠めてしまう。
それだけで、ほぼ根こそぎと言っていいほどライフを持っていかれた。
突進の反動で壁際に吹き飛ばされる。
来る前に回復アイテムは買ったのだが、このままでは底を付くのは時間の問題だった。
「一発が痛すぎる。このふざけた装備でこのダメージって、普通の装備じゃ一撃も耐えられないってことか」
反動で距離が開いたからか、火球が当たったときよりも長時間止まったにも関わらず、突進はされなかった。
恐らくこのままやっても勝ち目はないのだろうと思う。
ミノタウロスの背後に視線をやる。
そこには重そうな扉が鎮座している。
「火球を回避しながらあそこまで行くしかないか」
かなり厳しいことになりそうだが、即座に覚悟を決めて行動を開始した。