一つ目の試練 (4)
十字路に辿り着く直前、視界の端に何かが映った。思わず足を止めてそちらに目を向ける。
周囲とほとんど同じで見分けが付きにくいが、そこには石版が設置されていた。
背後から岩が迫っているので時間はないが、これは設置位置からも十字路に関することだろうとあたりを付け、石版の文字を追って行く。
『勇気と無謀をはき違えるな 誤ればそれは死に直結する 戻ることは許されない 道はすでに黒に染まっている しかし恐れることなかれ 正しき道へは龍が導いてくれるだろう その龍は案内人であり執行人 龍はその者を見極める 欲深き者は龍に見捨てられる 冷酷な者はその爪に 愚か者はその牙に 認められし者は辿り着く 龍の住処へと』
石版にはそれだけが書かれている。
「なるほど……」
謎かけか。
それにしても……。
「龍ね……」
これ以上情報がないようなので十字路へと向かう。
岩はだいぶ近くに来てしまっている。どうやら思った以上に時間を食っていたらしい。
十字路を見る。
石版いわく、導いてくれるという龍は周囲に見えない。壁や地面に目を走らせるがどこにも見えない。
そうしている内に十字路へと到着する。
『石版に書いてある通りなら……』
「こっちだ!!」
迷わず左の道へ走りこむ。
数秒挟んで、岩が十字路を塞ぐようにその動きを止めた。道を選びなおすことが出来ないようにするためだろう。
『なんだ正面でも追いかけっこが続く訳じゃないのか』
選んだ訳ではないが安堵してしまう。
「……まあ関係ないか。先へ進もう」
僕は前へと歩きだす。
◇
しばらく進むと目の前に扉が現れた。
扉には龍の絵が書かれている。どうやら正解の道を選んだようだ。
「おめでとうございます!」
突如アース君が空中に出現した。
急に出てきたので思わず魔法をぶっ放してしまったが、効果はないらしく魔法はすり抜けてしまった。すり抜けたのが、何故か腹が立ったので魔法を乱射してみる。やはり効果はなかった。
「石版に書かれていたヒントを見逃さずよく辿りつけました!」
そう言いながら不気味顔が至近距離で笑っている。
気持ち悪いので離れてほしい。
「あなたにはわかりきったことでしょうが、『戻ることは許されない 道は黒に染まっている』というのは五行説でいうところの北を表します。そして『龍』とは五行説で東方を表します。つまり進んで来た道を北としたときの東の道ですから、左、今あなたが居られるこの道が正解という訳です」
アース君はどうやら解説のためだけに現れたらしい。いらなくないか?と考えずにはいられない。
「もちろんあなたにはわかっていられたことでしょう。ええ、私にはわかっております。感などでこの場所に立っている訳がありません」
どうやら感を頼りにこの場所に辿り着いた人への嫌味のようだ。
……製作者、歪んでるな。
言うだけ言うとアース君は姿を消した。
特に新しい情報があったりする訳ではないようだ。
「これは茜に感謝しないといけないかな……」
これを解くことが出来たのは茜が占いに夢中だった時に、うんざりするほど聞かされた後遺症のようなものだった。
おかげですんなり思い出すことが出来た訳だ。
「いいか、茜はどうせ覚えてないだろうし……」
それより今の問題はこの先だろう。
石版を信じるなら、この先に最低でもあと3つは何か罠があると考えられる。
「はあ……。僕も茜みたいにお気楽だったらなあ……」
とても失礼なことを口走りながら目の前の扉を開け放った。