日常
僕の名前は佐藤晃県立の普通科に通う高校二年生で、学校での成績は中の上、運動神経は中の下、ルックスは並の至って平凡な生徒だ。
今は夏休みが終わり一月ぶりの学校へ向かっている。
「おーい。あきちゃーん」
「待てよあきらー!」
背後から声をかけられ振り向く。
「わー。凄い顔だー」
「うおっ!どんだけ不景気な面してんだ!」
声をかけてきたこの二人の名前は河藤茜と河藤大助の兄妹だ。学年は僕と同じ二年生で二卵性の双子だ。
「おはよう二人とも。朝から元気だね」
「あきちゃんが元気ないだけじゃないかなー?」
「あきらが死にそうなだけだと思うぜ……」
力のない笑みで答えると二人揃って突っ込んでくる。
この兄妹とは幼馴染というやつで、幼稚園からずっと同じ学校に通っている。兄の大助は勉強はいまいちだがスポーツ万能。妹の茜はスポーツは絶望的だが、勉強は通っている学校では常にトップ3にいる秀才だ。(僕らの通っている学校は上の下くらいだ)
「いや~、夏休み前に始めたオンラインゲームで夜更かししたんだ」
「あきちゃんは廃人だねー」
「あはは……。そうかな?」
「そうだろ。学校があるってのに夜更かしするなんて……」
「時差の関係で友達が接続するの遅いからね。向こうに合わせるとどうしても寝不足になっちゃうんだよ。」
「ふーん。それって相手は女の子なのー?」
「性別は聞いてないからわからないよ。まあ聞いたところで本当かどうかわからないけどね」
俗に言うネカマプレイというやつだ。
実際に会う訳ではないので、キャラクターを見ただけでは、現実の性別を見分けるのは不可能に近い。
オンラインゲームで何を期待しているのか、男性プレイヤーの中には言い寄って行く勘違いもいる。そういった勘違い君からレアアイテムやお金を譲ってもらう人も中にはいる。この行為は姫プレイとも呼ばれる。
まあお互いが楽しんでるならそんなことはどうでもいい。騙されているなら騙されるやつが悪いのだ。
「とりあえず今日が半日授業で助かったよ。始業式万歳だね」
「だな。授業なんてつまらんものが早く終わるのはいいことだ」
「全く二人ともそんなことばっかり言ってー。成績落ちるぞー」
「妹よ。安心しろ」
大助がニヤリと笑って茜の肩を叩き、それは堂々と言い切った。
「俺はこれ以上下がらない!!」
そう、大助の成績は学年最下位を記録しているのだ。
本当によく進学できたものだといつも思う。
「もー!そんなの堂々と言うことじゃないでしょー!」
「そうだよ大助。赤点ばっかりで夏休みの半分くらい補習だったんでしょ?」
「いや、補習はめんどくさかったが部活に乱入してたから逆に楽しかったぜ?補習なかったら休みに学校なんぞ行こうとも思わないしな」
「確かに」
それについては激しく同意だ。禿同というやつだ。……いや、なんでもない。
用もないのにわざわざ学校に行きたい生徒はいないだろう。
「そうかなー?友達とあんまり会えなくて寂しかったよー」
「茜は勉強ができるからだろ。俺は生憎と出来がよくないんでな」
「まあまあ、大助は運動神経がいいじゃん。今でもいろんな部活連中に誘われてるんでしょ?」
「そりゃあ体を動かすのは好きだけどな。どれか一つっていうのは駄目なんだよな」
「私は運動できるのがうらやましいけどなー。体育で長距離走するといつも最後だもん」
相変わらず両極端な兄妹だった。二人合わされば非の打ちどころがないだろうに……。
「お、校門が見えてきたな。校門まで競争するか?」
「いやだよー。私どうせ最後だもん」
「大助の一人勝ちに決まってるから僕もパス」
「相変わらずノリの悪いやつらだぜ」
「この暑い中よく走ろうと思えるね。僕には理解できないよ」
「暑いからこそだろう。お前らはわかってないな」
そんな感じで他愛もない話をしながら校門を抜け教室まで行く。
教室には3分の2程度のクラスメイトが集まっていた。適当に挨拶をしながら自分の席に荷物を置く。時間を見るとまだ始業式まで時間がある。
そうなるとお約束のように僕の席にいつものメンバーが集まる。
河藤兄妹・小泉真樹・それに浜野衛だ。
「おはよう。相変わらず仲良く出勤ね」
「いよう! 夏休みの宿題は終わってるかー?」
「二人ともおはよう。相変わらず元気そうだね」
「おう。夫婦揃って元気そうだな」
「おはよー。二人は仲良しさんだからねー」
「「誰が夫婦だ!!」」
二人が声を揃えて言った為に、クラス中から笑い声が上がる。
「笑うな!」「笑うんじゃねぇ!」
ここでも二人揃えて言ったものだからそこかしこから野次が飛んでいる。
「まったく! そこの兄妹が余計なことを言うから!!」
小泉真樹はクラス委員長で文芸部に所属している。
真樹は茜と仲がいいため、いつの間にかこの輪の中に入っていた。
「まったくだ。朝から疲れちまったよ」
浜野衛はバスケ部員で2年生でありながらレギュラーに入っている。
衛は大助をしつこく勧誘しているうちにこのメンバーに加わるようになった。
「あはは。新学期早々から災難だったね」
「晃~。笑いごとじゃないぜ~」
「本当よ」
「夫婦だから仕方ねぇよ」
「仲良しなのはいいことだよー?」
「なあ、茜は本当にわかってるのか?」
「全くわかってない。兄である俺が保障しよう」
「その保障はできればないほうがよかったわ……」
「えー。わかってるよー」
「わかってないと思う」「いや、わかってねぇ」「わかってないわよ」「わかってないだろ」
「もー、あきちゃんまでそういうこと言うのー。」
休み前と同じような会話を繰り返していると、始業式の始まる時間になったようでクラスメイトたちがぞろぞろと移動を始めた。
僕らも無駄話をしながら体育館に向かった。