クエスト名「EARTH」 3
「東京方面に行く船はどれだ?」
たくさんの人が行き交う間を縫う様に目的の船を探す。
船はこれと行って整頓されている訳ではないので大変だ。
「うっ!」
露店の開かれている区画を抜けようとしたとき、そいつが目に入ってきた。
キャロルといるときに見かけた例の黒い物体だ。
品揃えは良いのだが妙にリアルなアレなので、周囲に近づこうとする勇者はいなかった。
……どうでもいいことだが、アースにも勇者というジョブがある。
攻略サイトいわく自宅警備員のことらしい。
なんでも死なせない用に社会復帰させるゲームになるのだとか……。アースにおいて、最高難易度を誇るゲームでもあるらしい。
はい。どうでもいい話兼、現実逃避終了。
自分の所持しているアイテムを確認する。
ほぼ初期と言っていい状態なので、ろくなアイテムを持っていない。
気持ち悪いので出来れば近づきたくはないのだが……。
チャンスが一回しかないクエストなので、回復アイテムを持ちすぎるということもないだろう。
移動費用を頭で計算しながら、アレをなるべく視界に入れないように近づいて行く。
「やあ、いらっしゃい」
アレの前で足を止め、露店のアイテムを物色していたところ話かけられた。
「どうも。露店見させてもらいますね」
「どうぞどうぞ。何故か私の周りには客が寄ってこなくてね。ゆっくり見て行くといい」
『この人、本当にわかってないのか?』
それならばその感性を疑ってしまう。
「まあ確信犯だけど」
「……そりゃそうでしょうね」
何かしゃべる度に頭や触角が動いていて気持ちが悪い。
できるなら関わりたくはないだろう。
回復アイテム以外は特に必要な物はないようだった。そのため予定通り回復アイテムを購入すると急いで撤退する。
買い物の途中もずっと話かけられていたが、見えない聞こえないを貫き通した。
「まいどあり」
「それじゃあ僕はここで……」
「あ、そうそう、君さ」
呼びとめられたがもちろん無視である。競歩で距離を開ける。
「そんなんで街中歩かないほうがいいよ。これは善良な一般市民からの警告だ」
最後まで無視を決め込んだが、その一言は頭に残った。……一般市民かどうかは別として。
その足で東京行きの船を探す。
しばらく歩きまわっていると、大きめの客船が東京行きの船だとわかった。
出発はおよそ10分後。
やることはないが、船の上で待機することにする。乗り遅れると次の船は30分待たないといけない。その方がめんどうだ。
船の出発までの待ち時間、意識はまだ行ったことのない樹海に向けられていた。