クエストスタート
直帰。
これは帰宅部に許された特権だ。
……帰宅部万歳!
僕は早々に帰り支度を済ませる。
「僕はすぐに帰るけど、大助と茜はどうする?」
同じ帰宅部仲間の二人に声をかける。
「俺は今日も衛んとこで運動してから帰るわ」
「私は帰るよー」
「そっか、部活動頑張ってね」
「おう。じゃあなあきら」
「さてと、帰ろうか茜」
「わかったー」
最近は大助が部活に行くためお馴染みとなった二人で帰る。
茜は何かいいことでもあったのか機嫌が良さそうだ。
「何か機嫌がいいね」
「えー?そうかなー?」
「うん。だらしなく頬が緩んでるよ」
「うぇ!?」
「嘘だよ」
茜が自分の顔を押さえた後、拗ねたように顔をしかめた。僕はその顔を見て噴き出してしまった。
「むー……。あきちゃんの馬鹿ー!」
文句を言うと怒って先に行ってしまった。
ここで放置すると後がめんどうだということが今までの経験でわかっているため、機嫌を取るために走って追いかける。
「待ってよ茜。僕が悪かったからさ」
「謝って済むなら警察はいらないんだよー!」
「この程度のことで呼ばれてたら警察は大忙しだろうね……」
「あきちゃんには謝罪の意思が感じられないもん!」
「・・・僕にどうしろと?」
「ジュース飲みたいなー」
茜は笑顔でそんなことを言い出した。
あまりの豹変ぶりに一瞬焦る。そして思わず財布の中身を確認する。
残金160円。
「あのですね茜さん」
「なーに?」
「僕は現在、160円しか持っていないんですよ」
「ジュースは買えるよー?」
かわいらしく首を傾げて見せる。つまり、知ったことか、という訳ですね。
「出来れば勘弁してはもらえないでしょうか?」
「あー。自動販売機見つけー」
自動販売機に向かって小走りで近づいて行く。
目的地に着くとこちらに向かって手を振ってくる。
普段は弱気なのだが……。
『どうして君はこういうときだけ強気なんだい?』
僕はそう思わずにはいられなかった。
仕方ないので諦めてお金を渡してやる。喜々としてお金を受け取ると、自動販売機とにらめっこを始めた。
お茶にするか清涼飲料水にするかで悩んでいるようだ。
少しは遠慮して120円のジュースにする。
という選択肢はないらしい。
結局お茶にしたらしく、両手で大事そうに抱えて戻ってきた。
「あきちゃんに奢ってもらっちゃったー」
「……奢る?」
あれは奢ると言っていいのだろうか?
脅し取るが正しいような気がするんだが……。
「あきちゃん。ありがとねー」
「……どういたしまして」
屈託なく笑う茜を見ていると、些細なことは気にならなくなった。
そうこうしていると、いつもの分かれ道に到着した。
「さて、じゃあここでお別れだね」
「そんなー。まだ付き合ってもいないのにー」
「……」
「……」
二人の間に沈黙が流れる。
額を押さえながら茜に尋ねる。
「……茜」
「なーにあきちゃん?」
「それ、誰に入れ知恵されたの?」
「えっとねー。真樹ちゃんだったかなー?」
「へぇー。そっかー」
「あきちゃん怖いよー。笑ってるなのに目が笑ってないよー」
真樹……明日、必ず問い詰める。僕は、固く心に誓った。
「はあ、まあいいや。茜、また明日ね」
「ばいばいあきちゃん。また明日ねー」
言いようのない疲労感を抱えたまま家に向かう。
家に着くと、着替えを済ませアースを起動する。
剣士でログインするがキャロルの姿はない。溜息を吐くと、ログアウトして魔法使いを始める。
アイテム覧には悪魔とも言える装備が目に付いた。どうやら夢や幻の類ではなかったらしい。
「だとすると、次は富士の樹海か……」
クエストが始まる前に渡されたということは、これを装備しなければクエストをクリアすることが出来ないんだろう。
あまり気が乗らなかったが、発見されてすらいないクエストへの興味が勝った。
支給された装備品を身につける。
「クエスト:EARTHの説明を致します」
すると、どこからか声が聞こえてきた。
高校生にもなって「もん!」はな(以下略