噂
「おはよう」
「あきちゃんおはよー」
「ようあきら。今日は普通だな」
教室に到着すると河藤兄妹が近づいてきた。
他二人はまだ来ていないようだった。
「普通って……。衛と真樹はまだ来てないの?」
「真樹ちゃんは来てないみたいだよー」
「衛のやつは何かを嗅ぎつけてどっか行ったぞ」
「え、衛がそういう行動とるときって……」
「ああ、何で感知してるのか知らんが変な噂拾ってくるよな」
「今度は何かなー?」
衛はなぜか2ヶ月に一回の周期で朝教室におらず、どこからともなく噂話を拾ってくるのだ。
しかも衛の持ってくる噂は、証拠や根拠がないというのに今のところ全て事実だった。
噂話が好きという訳でもないのに。
「そういえば、前校長の痴漢で逮捕とかあったね」
「あー、そんなこともあったな」
「あの誠実そうな外見からは想像できないよねー」
「外面がいいからこそ中身はってやつじゃない?」
「なるほど。つまりあきらも……」
「ええー!あきちゃん痴漢してるのー!」
「しないよ!大助も誤解生むようなこと言わないでよ!」
「わからんぞ……。もしかしたらあきらなら……」
「あきちゃん……」
「あー!もー!大助そろそろ怒るよ!」
「もう怒ってんじゃねえか」
「あははは。あきちゃんこわーい」
いつものように馬鹿なやり取りをしていると、廊下から騒がしい足音が響いてきた。そしてそのまま教室に飛び込んでくる。
「お!いるいる!」
「おはよう衛。今日も朝から元気だね。疲れない?」
「いつもこれだとそろそろ鬱陶しいよな」
「衛ちゃん近所迷惑だよー」
「ええーい!うるさい!面白い情報を仕入れてきてが教えてやらないぞ!」
「ごめんごめん。それで面白い情報って何?」
「よくぞ聞いてくれました!」
「別に俺らは聞いてねえよな」
「そうだねー」
河藤兄妹が冷たい対応をする。
大助の対応はいつも通りだが、今回は茜まで加勢したせいか衛は教室の隅で『の』の字を書いている。相変わらず見ていて飽きない人物だ。
「ちょっと二人とも」
「冗談だよ衛。戻って来いよ」
「そうだよー。冗談だよー」
「……聞きたいか?」
「あー聞きたい聞きたい」
「聞きたいよー」
「とっても聞きたいか!?」
「はいはい。聞きたい聞きたい」
「聞きたいよー」
「どうしても聞きたいか!?」
「いや、別に」
「そこまでじゃないかもー」
衛は再び『の』の字を書き始める。気配だけなら床にめりこんでいるように見える。
「衛!僕はどうしても聞きたいよ!」
こうなったときのフォロー役はいつも僕だ。
「よろしい!ならば晃には教えよう!」
「立ち直りはええ!」
「私びっくりしたよー」
「お前らには教えてやらん!」
「まあいいけどな。あきらから聞けばいいんだし」
「うんうん」
「そんなことはさせん!」
「まあいいじゃない。教えてよ衛」
「ふん。お前たち二人は寛大な俺に感謝しろ」
そういうと偉そうに腕を組んでふんぞり返る。そろそろうざい。
「さっき職員室で聞いたんだが、どうやらこのクラスに転校生が来るらしいぞ」
「へー。こんな時期に転校なんて珍しいね」
「偉そうな割に大した情報じゃねえんだな」
「すごーい。転校生来るんだー」
反応は三者三様だった。
衛はなぜか両手を組んだまま頷く。
「そうだな。ここまでなら大した情報じゃないんだが、俺の情報はそれだけじゃないんだぜ!」
「まだ何かあるの?」
「ていうかテンション高すぎてうぜえ」
「何々ー?」
「いいかよく聞け!どうやらその転校生は日本人じゃないらしいぞ!」
「「へー……」」
「そうなんだー。外人さんかー」
僕と大助は気の抜けた返事をした。唯一茜だけは純粋に驚いているようだった。
「そこの二人。リアクションが薄いぞ」
「うん……。まあ……」
「引っ張るほどの情報じゃなかったな……。少し期待した俺が馬鹿だったわ……」
「えー?そうかなー?」
茜は不思議そうだが、茜はなんというか、あれなのでスルーした。
そうこうしている内に真樹が教室に入ってきた。
「あら?晃君と大助君どうしたの?」
真樹はこっちを見るなり二人のテンションに疑問を抱いたらしい。大助は語るのも億劫そうだ。
「いや、あのね……」
僕は真樹にことの成り行きを教えた。
キャラが暴走して長くなってしまった・・・。