人類(わたしたち)の愛しい愛娘
こちらの作品は【枯れた世界で過去を詠うオートマタ ―10109―
作者:炎天下系女子@市み先生】のお話のオマージュになります。
『━━━━寝てましたか?』
……………………ん……?
優しい声が聴こえて微睡みの中から意識が醒める。
『……ああ……みたいだね』
『━━━━お目覚めにどうぞ。マイマザー』
ソファーに座ってうたた寝をしていた私に彼女は暖かいコーヒーの入ったカップを差し出す。
その湯気の立つ香り高い液体を一口飲む。
とても熱い。ゆっくり飲まないと舌が火傷しそうになる。それと同時に眠気も少しずつ薄れていく。
『ありがとう。トドクは気が利くね』
『マイマザーがいつも寝起きにコーヒーを飲んでいるのを見ていたので作り方を覚えてみました』
そう言いながら、はにかんだ笑顔をする彼女はとても可愛いらしい。とても機械だなんて思えないだろう。
━━人間よりも人間らしい機械人形
自律思考AI搭載。
人型人形SAKI-A10109。
個体識別名━━━”先絵さきえトドク”
それが私が与えた彼女への名前。
━━それは過去から未来へ━━そしてその先へと続く私の人類への希望を込めて…………そんな意味を含めて付けた名だ。
『ねぇ、トドク。そのマイマザーって呼ぶのはちょっとやめてくれないかな? 呼ばれるほうが恥ずかしいから、せめて博士って呼んでよ』
『いいえ。マイマザーはマイマザーです』
彼女は言い━━━
『たくさんの便りを読んで学びました。母。そしてマイマザーは私を産んでくれた母なんですから。この呼び方は譲れません!』
『どうしてもかしら?』
『はい。 どうしてもです! マイマザー。あなたが私を育ててくれたのですよ。そして色々なことを教わりました』
この変なところで頑固な性格は誰に似たのやら…………。
『ねぇ、トドク。君を優しく成長させたのは私なんかじゃないよ。タイムカプセルの中に入っていた沢山の便り(手紙)を読んで、君は君自身で自分の視野を広げて優しさを学んだんだよ』
この元ラジオステーションを工房に選んで正解だったと私は思う。地下の地中に埋められた沢山の手紙が収められた巨大なカプセル。
保存状態のいい、そのおかげで手紙は黄ばんだり、シミができたり、退色したり、紙がもろくなって破れてしまったりなどの劣化が進むこともなく、綺麗な状態で保たれていた。
━━━それは過去の人類が遺してくれた想いの営み。
彼女はその手紙から文字を学び、本を読むようにその便りを夢中になって読み耽っていたのだから。
いまでは手紙を読まなくても、そらで暗唱することもできるエピソードもたくさんあるだろう。
━━━と、その時。いきなりトドクが私の唇に人差し指の先を押し当ててきた。
『『━━私なんか』……じゃありません!!そんな言い方はやめてください!あなたのおかげで私が存るのです。マイマザーの全てが私なんですよ!だから…………』
トドクは満面の笑みを私に向けて━━━━
『そんな自分を卑下する言い方はダメですよ!!』
(━━━トドク……君は本当に優しい子だね
人類の愛しい………愛娘 ━━━━)
炎天下系女子@市み先生
掲載の許可ありがとうございます。
そしてこれからも素敵な物語を楽しみにしております。お身体など無理なさらない程度に頑張ってくださいね。
応援してます!!