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I'm Fine And You?

作者: 真浦塚真也

「えっ?」

携帯の通話画面に映し出された名前を見て、僕は思わず声を出した。驚きというよりも、なんというか、いやはっきり言って、困惑だ。

電話をかけてきたあいつは、小学校時代の友人だ。一緒にいた頃は文字通り毎日遊んだ。野球、サッカー、鬼ごっこ、缶蹴り、相撲・・・。どれも全部決して上手くはなくてほとんどあいつに負けてばかりだったけれど、どれもこれもが楽しくて、今でも良い思い出として思いの外鮮明に覚えている。でも、そんなあいつとの毎日は、6年生の春に僕が転校したことであっという間に終わってしまった。数年は年賀状のやり取りをしたはずだけど、それもあまり覚えていない。

そんなあいつが僕に急に電話?僕は震える携帯をまじまじと見つめた。

確かにあいつとは今でも繋がっている。3年前にFacebookに急な友達申請がきたからだ。あいつの、ネット越しからでも伝わる「久しぶり!友達よろしく!」というあいつらしい文章と、懐かしさが手伝って友達にはなったのだけれど、それでもお互いの投稿に時たま「いいね」を送り合うくらいで、コメントを残したことも、もちろん電話をしたこともない。今のあいつとの繋がりは、そんな繋がっているのか繋がっていないのかよく分からない状態だ。いや、変に繋がってしまっているからか、逆に遠さすら感じる、そんな変な関係性だ。

なんで、そんな、あいつが?

僕は恐る恐るディスプレイを叩き、携帯をゆっくりと耳に押し当てた。

「よぉ、久しぶり!元気!?」

あいつの声が、僕の耳を弾く。

「あぁ。」

僕は溜め息を吐くような声を出した。

「おいおい、なんだよ。元気なさすぎだろ!」

あいつが、呆れたような声をあげて笑う。

「いや、違うんだって。」

僕は答える。

「何が違うんだよー。」

あいつはまだ笑っていた。

違うのだ、本当に。さっきの「あぁ。」は元気のない挨拶なんかじゃない。

懐かしかったのだ。あいつの変わらないしゃべり方や、携帯電話なのに浮かんでくるあいつの笑顔が、あの頃の僕に一瞬で引き戻してくれて、あの頃のくすぐったい懐かしさに、不意に胸が一杯にさせられてしまったからだ。

「おーい、聞こえてるー!?」

「えっ?あぁ、ごめんごめん。」

あいつの、電話越しのはずなのにまるで遠くの子どもを呼ぶような声にハッとして、僕は思わず謝ってしまった。どうやら、しばらくボーっとしていたらしい。

「お前、相変わらずボーっとしてんのな。」

「うるせぇー。」

あいつのあの頃と変わらない感じに、思わず僕もあの頃のしゃべり方になってしまった。

「ねぇ。」

「ん?」

あの頃のしゃべり方になってしまったのだ、この際全部聞いてしまおう。

「なんで、急に電話してきたの?」

「あぁー、それなぁー。」

僕の質問に、あいつは少し面倒くさそうに、でも少し嬉しそうに、そしてだいぶ照れくさそうにそう答えた。電話越しだから分からないけれど、きっと、いや確実に頭をポリポリと掻いているはずだ。その頭が、あの頃のようにいがぐり頭だったら。嬉しい気がするし、少し気恥ずかしい。

「いや、別にそんなに気にしてたわけじゃないんだけどさ。だけどもしかして、もしかするかもしれないんだけどさ。いや、そんなわけないんだけどさー。」

そんな行ったり来たりの会話を独り言のようにグダグダと続けたあいつは、とうとう電話をしてくれた理由を僕に話してくれた。

「なんか落ち込んでるのかなぁーって思ったわけよ。」

きっかけは、僕がFacebookで投稿した文章を読んだかららしい。その投稿をした夜はひどく疲れていて、仕事やら自分のことやらお金のことやらがひどくごちゃごちゃしていて、その気持ちを吐き出すように文章を殴り書きしたのだ。そうか、確か友達公開にしていた。読める相手を友達に限定だから、単なる愚痴ではあったのだけれど、思えばその時にあいつの顔は全く浮かばなかった。

「それで、電話してくれたの?」

「いや、それでっていうかなんというか。」

僕の驚いた声に、あいつは少し怒ったような声を出した。多分口をニィッと尖らせて。そうだ、あいつはそういう奴だ。忘れていたけど、完璧に思い出した。

そこから、僕とあいつは色々な話をした。お互いの近況、思い出話、仕事のこと、最近の悩み、あの投稿をした理由・・・。どれもひどく断片的で、特に話したからって解決するものは一つもなかったけれど、何故だかそれが心地よく、ポツリポツリと話して聞いてをただただ繰り返した。


「ねぇー、パパー。」

ふと、あいつの携帯の裏側から、幼いコロコロと声が転がってきた。

「あぁ、ごめんごめん。もうすぐだから。」

あいつの声が、あの頃から今のあいつに変わる。

「あぁ、ごめん。子ども?」

僕の声も、あの頃から今の僕に変わった。

「そう、今3歳。」

あいつの声がパパになる。

「そっか、頑張ってるんだな。」

「頑張ってますよー、なんたって愛する娘のシングルファザーですから!」

あいつの声がパパとしてグンと強くなる。

さっきのポツリポツリの会話ではそういう大事なことは話さないんだな。そう思ったけれど、そんな考えはブンブンと頭を振って打ち消した。僕だって、話していないことはだいぶある。話したくないとか、話さないとかそんなことを考えたわけではないけれど、どうやらそういうことは、いつのまにか身についたものらしい。僕もあいつも。

「ねぇ、パパァー。」

あいつの携帯から聞こえる女の子の声が少し湿り始めた。どうやら間もなく寝る時間のようだ。

「悪い、そろそろー。」

「了解。」

あいつの申し出に、僕は即決で言葉を返す。こういう含んだ考えを理解する能力ばかり、いやでも向上しているようだ。

「それじゃあ、また。」

「うん、また。」


久しぶりのあいつとの電話は結局1時間くらいだった。これが長いのか短いのかは分からない。ただ、なんとなくだけど、さっきの「また」はすぐ来そうで、でも意外とずっと先になってしまうような気もする。そのことだけは分かってしまう。

ふと、窓から空を見上げた。暦の上ではもう春のはずなのに、見上げた空は冷たく暗い。ラジオによると明日は雨が降るとのことで、厚手の雲が覆っているようだ。こんな時に星空や三日月が見えたらセンチメンタルになれるのに。そう思ったけれど、そんな上手くはいかないよなぁと思わず苦笑した。センチメンタルってなんだよ、自分で自分でツッコんでみた。

「さてと。」

自分で自分で言うように声に出してみた。


「明日も頑張りますかー。」

思いの外、すんなりということができた。


あいつも頑張ってる。

僕も頑張っている。

僕はなんだかんだで元気。

あいつも元気であってほしい。


I'm Fine

And You?

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