Day3《親父の自殺》
ピロンピロンピロン
こういう目覚めが一番嫌いだ。大体こんな起き方をして楽しいなんて思う奴いないだろう。そもそもこんなに通知がくるのなんて中学生ぶりだった。重い身体を起こして枕元で鳴っていたスマホの方を見ると、重いと思っていた自分の身体がヘリウムガスが入った風船の様に立ち上がった。
浩生「お、親父が死んだ…!?!?」
親戚1「話によると自殺らしいですよ…」
親戚2「女性関係で、凄い借金に追われていたとか…」
葬式は意外にも早めに終わった。それもそうだ。親父は浮気をしていて、俺達とは親子の縁を切ったんだ。相手は20歳くらいだとか。何年も育ててくれた親父には感謝をしている、だが不思議にも涙は出なかった。葬式の帰り道に近所のコンビニに寄り、いつも飲んでいるモン◯ターエナジーを手に取った。いつものルーティンではモン◯ターエナジーを買ったら近くの公園に行き、ノスタルジーに浸る(言いたいだけ)のだが、今の自分にはそこまで行く体力も気力もなかった。意外にもコンビニのベンチは冷たかった。それもそうか、今は12月25日11時49分クリスマスだ。クリスマスなんて良い思い出がない、あるとしても新作のFPSが出てやるくらいだ。そんな事だからいつまで経っても彼女が出来ないんだよ、なんてよく親に言われてた事を今でも覚えている。そうしていると目の前のバス停から見慣れた服装をしている人が来た。
大樹「やっぱり此処に居たか浩生!」
浩生「なんで大樹が此処に居るんだよ(笑)」
大樹「いやなんかね~、冬狐が連れて来いみたいなぁー」
浩生「ヤベッッ!!今日同じ科目受けようって約束してたんだった。」
俺は続けて話そうとする大樹を遮って、足早に大樹が乗って来たバスに乗ると大学に向かった。大学の前に着くと、講義室に向かおうとしたが講義室の窓からこっちを見ている冬狐が居た。ヤバイと心の中で思いながら講義室に入った。冬狐の横に座った途端ヒソヒソ声で何か聞こえてきた。
冬狐「2K(2000円)な?」
浩生「今金欠だからマジ勘弁。」
冬狐「無理。」
冬狐「てか、お前筆箱どうした?」
浩生「あ……貸して下さい。。」
冬狐「はい、2Kプラスで。」
授業を終え、家に着く頃には重りが吊るされている様に身体が重くなり、風呂に入るのがやっとだった。
浩生「ホントに災難な日だった。」
そう呟くと、何故か井下さんが頭に浮かんだ。昨日ゲームに負けていたがどうなったのか内心気になっていた。風呂を出ると、倒れるように布団に横になった。横には飲みかけのモン◯ターが溢れていたが、そんな事気にせずに寝てしまった。
目覚めるとやはり知らない天井だった。一日の疲れはこっちの世界に影響されていないようだが、気分は最悪で部屋を出る気分じゃなかった。出る気分じゃないなぁと言いながら周りを見渡した。部屋は正方形でベッドの横には机があり、その詩に写真立てが置いてある。少し歳のいった人と俺くらいであろう女子が横になって写っている。写真の質からして最近の物だろう。部屋を見回すのを飽きると、ドアノブに手をかけた。部屋を出ると井下さんが横を通ったのだが、少し微笑んでいる様に見えた事に俺は不快感を覚えた。
皆んなと合流すると、アナウンスが流れた。
主催者「ご機嫌よう!皆さん、元気でしたか~?私はとっても元気ですよ!!!」
こいつは何の話をしてやがるんだ?俺たちをこんな状況にしといて、元気ですよ!なんて発言ができる時点で常軌を逸してやがる。俺はそう思うと同時に周りを見たが、皆もそう思っているようだった。
主催者「さてさて、本題に入りましょう!今回やってもらうゲームは...」
主催者「かくれんぼです!」
かくれんぼなんていつぶりだろうか、小学校の頃はよく好んで昼休みに校庭でやっていたけど、謎のバリアっていう能力が追加されたせいでクソほどつまんなくなったから、小5の頃にはもうやらなくなったんだっけかな。
主催者「皆さん既に知っていると思いますが、改めてルールを説明したいと思います。まず、最初に鬼を決めます。決めたら鬼は10分数その場で待機し探しに行きます。制限時間は120分です。見つかったらアウトで指定された場所まで移動してください。」
磨人「別に普通のかくれんぼじゃねぇか!そんなルール知らない奴なんて、カサカサくらいだぞ?」
飛龍「俺を比較の対象にすんな!?」
響「お前達もうちょっと緊張感をもてよ。」
主催者「ですが、普通のかくれんぼと違う点が2つあります。一つ目は、鬼は捕まえた数×100万円を渡します。これは現実にも影響されるお金です。ですが、半数を捕まえられなかったら、鬼にも罰を受けてもらいます。二つ目、当たり前ですが捕まった人には罰ゲームをうけてもらいますので、気をつけて。」
罰ゲームと言ってそこから詳細な情報を言わない事から考えて、今回の罰は今までよりキツいのかもしれない。自分の冷や汗を拭うと、続きのアナウンスが流れた。
主催者「それでは、第3回ナイトメアゲームを開始します」
ラム「てきとーにジャンケンで決めればいいっしょ?」
大樹「僕もそれでいいと思うけど、皆はー?」
正直言って俺はジャンケンで決めたくはない。女子組はともかく、男子組は直感が良い奴が多い。暁和や大樹、ましてや磨人になったりしたら全員捕まって色々と終わるかもしれない。ここは、国語成績3の俺が意見を変えるしかないか。
浩生「もうちょっとしん......」
暁和「慎重に考えよう」
響「そうだね。すぐに決めようとすると、判断が鈍るし違う案も出して行こう」
暁和の奴、アレわざとだろ(笑)、俺の言葉に被せて意見を出してきやがった。まぁそれは良いとして意見が変わったのは好都合だ。
ラム「じゃあどうすんの?他になくね?」
響「僕がやるよ。色んなことに関して僕は平均だから公平だし。」
俺は響をぶん殴りたくなったが、俺の考えたことが勝手になってくれてよかった。響は運動面や勉強面では好成績を残しているが、それ以外はダメな所が目立つ、意外とおっちょこちょいなのだ。女子以外では一番の適正人物と言えるだろう。
響「じゃあ10分数えるね。」
だが困ったことに、俺自体かくれんぼは得意じゃない、小学生の頃は、かくれんぼが下手すぎて瞬殺王なんて言われてたな。さてどこへ隠れようか?こんな事を考えていると、背後から声が聞こえた。
???「お前わざと響が鬼になる様にしただろ?」
浩生「へぇアッっ!?な、なんだよ磨人かよびっくりしたな!!」
磨人「あんま大きい声出すんじゃねぇよ。で、どうなんだよ?」
浩生「まぁ、そうだよ。お前なんかになったら1発で終わるからな」
磨人「そうだな、お前ら雑魚だしな」
浩生「.........黙れゴキブリ」
磨人「おいなんて言ったコラ!?!?」
浩生「早く隠れないと見つかるぞ~(笑)」
後ろから磨人がキレてる声が聞こえたが、そんなこと気にせずに二階に行きゲームエリアに入った。以外にもゲームエリアも大きく、クレーンゲームから音楽ゲーム、シューティングゲーム、コインゲームなど色々あった。俺は中に入る用のシューティングゲームの中で身を潜めることにした。
磨人「あの野郎、次会ったらしばく!...で、どこに隠れるか、まぁ鬼の後ろついてくのが無難と言ったところか。」
最初のとこにいんのか?だかここで下手に動くとバレる可能性が高ぇ。一回どっか隠れて、作戦立て直すしかねぇな。そんな事を考えながら、磨人は洋服エリアに入った。洋服エリアは大きく開けていて、二階が吹き抜けになっている。
磨人「吹き抜けか、使い方によっては利点になるかもな」
磨人は洋服エリアの一つの服屋に入り、取り出したガラスのコップを地面に叩きつけた。音は地面を滑るように、全フロアに響き渡った。
響「なんの音だ?」
その音と同時に磨人は走り出し、家電量販店エリアに移動した。
磨人「これで自然に響は、音に食いついてあの場所に行くはずだ...」
磨人「ッッ!?!?」
ガシャンッッ!!
浩生「!?!?、なんだ今の音!?」
かくれんぼでこんなにガラスの割れたような音なんてするのか?音の正体を探っていると、次にアナウンスが流れた。
主催者「一人目の脱落者が出ました!一人目は、田外磨人君で〜す!!」
俺はそのアナウンスを嘘だと思った。たしかに磨人はどっからどう見ても、ガサツな不良だ。だが実際は違う、実際はとても器用でテストなんかでは毎回満点を取るなんてしょっちゅうあった。だからこそ信じられなかった。このゲームの中で、一番と言っていい程頭が切れて尚且つ運動神経も良い磨人が、捕まるなんて想像がつかなかったからだ。そんな事を考えていると、急に鳥肌がだった。そりゃそうだ。今までおっちょこちょいで不器用だと思ってた奴が、無敗の神だったことに気づいたら誰だって、鳥肌が立つし恐怖を覚える。俺は選択を完全に間違えてしまったようだ。これからどうする?見つかるのは時間の問題だ、誰かに任せるか?いやダメだ!!俺の欠点は最終局面で自分じゃ何も出来ないところだ。冷静になれ、まだ60分もある、このゲームの打開策を!!
「ゲーム……?」
そうだ、これはゲームだ。何を深く考えていたんだ?ゲームに関して、勝ちを目標にする事自体が間違ってるんだ。ゲームに勝利をしたいのみ思ってる時点で成長はしない、現状維持だ。とすれば、今の俺の目標は…
浩生「なぜ勝てないかの分析だ!」
そう決断すると、ゲームエリアを後にした。
響「ここは、さっき通ったな。だけど、段ボールはこんな場所に無かった。」
響が移動した段ボールをめくると、ラムの姿があった。
響「見ーつっけた。」
ラム「まじかよ、ぜってぇ見つかりっこねぇって思ったんだけどなぁ~」
響「俺も見落とすとこだったよ(笑)」
見落とすわけねぇだろ。
響「捕まった人は、最初の所に戻るんだって。」
ラム「段ボールの中入ってたからめっちゃ腰痛いわぁ~行くの手伝ってよ〜」
響「ハイハイ了解しましたよー(笑)」
触るなクソビッチが。
響「さてと、後は90分か。ほかの人達見つけに行きますかー。」
アナウンス「二人目の脱落者が出ました!!二人目は、杉木ラムちゃんです!」
その時、鼓膜が痛くなるほどに警報の音が響き渡った。
うるせぇな、また囮の警報か?
響「俺がまだ鈍感な良い子ちゃんだって思ってんのか?さっきはガラスの音で今回は警報の音、音の大きさで勝敗が決まる程甘くねぇんだよ低脳共が。」
歩くスピードは変えず、警報が鳴ったゲームエリアの近くのスポーツエリア当たりを探すが周りには人の影すらも無い。居ない理由が分からない事に対して、焦りを覚える。ここで見つからなければ、重大な事になる気がするからだ。
急いで警報がなっているスポーツエリアに行くと、奥に行く誰かの人影があった。奥に行くとそこに居たのは浩生だった。
響「やっとみつけ......」
その時アナウンスが流れた。
主催者「ゲーム終了です!!皆さまロビーに戻ってください。」
響「え?!う、嘘だよな(笑)だって時間はまだ45分程残ってるはずだろ!?」
浩生「ゲームは確かに今終わったよ、俺の時計を見てくれ。」
響「ゲームが終わってる......だと…?」
浩生「ここの施設の時計を45分前にしたんだよ、結構大変だったんだよ(笑)?」
響はその後は何も話さなかった。というより話せなかったのだろう、主催者の話によると罰は次回のゲームの初めに受けてもらうそうだ。俺は今日のことを振り返り、響という人間について考えながら冷たい毛布にくるまり、眠りについた。