Day2《浩生とカジノ》
翌日、昨日の様な頭痛に襲われる事はなかったもののの、やはり目覚めの悪い朝だった。どうやら2日が1日分の様なシステムになっているらしく、あの心スポに行った次の日の日付だった。平日の真昼間から大学の授業にも出席せず、家でFPSゲームをしていた。今は大学なんてどうだっていい。ゲームで全て忘れよう。なんて思ってもいたが、そうもいかない。皆んなはどうなっているのだろう?特に翔龍、そんなに仲良くもないし普段はあまり連絡はしないが、緊急の用なのでしょうがない。もし翔龍が「何の話?」とでも言ってきたらあれは本当にただの悪夢だった事になる。だが内心俺も薄々気づいていたと思う。夢にしては感覚がリアルすぎるからだ。俺の手は既に翔龍の通話ボタンを押していた。
プルルルルップルルルルッツー
繋がらない。何かあったのだろうか?その日は1時間ごとに翔龍に連絡をしたが、翔龍に連絡が繋がる事は1度もなかった。俺はそのままFPSゲームに丸1日没頭し、そのまま寝た。
目覚めると天井にはディスコボールが付いていた。とても光輝いていて起きたばかりにしては眩し過ぎるくらいだ。昨日も同じ事があったからか前回の様に気が動転する事はなかった。早速個室の扉を開け、探索を始めた。バカラ、ポーカー、ブラックジャック、ルーレットなどここはカジノだった。俺はカジノはやった事は1度もないが、ドラマで観た事ならあるのですぐに分かった。皆んなも同じ様に探索をしにきてロビーに集合した。昨日と同じ様な声が聞こえてきた。
主催者「君達、1日ぶりですね〜まぁこちらの世界では殆ど時間が経ってはいないのですが、早速第2ミニゲームの説明をさせていただこうと思います。」
大体こうなる事は皆分かっていたので焦る事はなかった。
主催者「今回の説明は手短に終わらさせていただきます。君達にはここカジノで罰ゲーム付き鬼ごっこをしてもらいます。まずこの後用意する100万円を全員に配布します。その後最初に鬼になる人をルーレットで決め、その鬼が逃亡者を捕まえたら鬼は+50万円を獲得し、逆に捕まった逃亡者は−50万円奪われます。それを2時間続けてもらいます。フロアの何処かにトランプも落ちているので拾っておくといいですよ。最後に1番持ってる金が少なかった人は罰ゲームを受けてもらいます。因みに前回の様なふざけた罰ではなくしっかりとした罰を与えるので気を引き締めた方がいいでしょう。私からアドバイスが1つだけあります。自分のお金は大切に!!!それだけです。」
主催者「それでは第2ミニゲーム開始!!」
磨人「おいおいおい!ちーと説明が雑過ぎねぇか主催者さんよぉ。」
磨人の問いかけを無視してアナウンスは終わった。
でも今回は磨人の言っている事は正しいと思う。罰ゲームの内容も知らされてないし、参加者の不安を煽る様な言動が目立った。それに磨人の言う通り説明が前回より少し雑だった様な気もする。主催者は俺達を混乱させようとでもしているのだろうか?ロビーの大型テレビには俺達1人ずつの名前とその真横に所持金が書かれており、ルーレットを今すぐやるよう指示が書いてあった。
響「ここは命令に従った方が良いだろう。従わなければ何されるか分かったもんじゃないしな。」
ルーレットにより今回の鬼は暁和に決まった。暁和はいつもぼんやりしているが運動神経が良いし、パルクールを習っていたから色々な物が設置されているここでは1番最強と言っても過言ではない。鬼が決まった瞬間タイマーの音が鳴りだして、カウントダウンが始まった。翔龍には色々聞きたい事も山程あるが、それはこのゲームが終わってからにしよう。これが地獄の幕開けだった。
最初に暁和が狙いを定めたのは足がお世辞にも速いとはいえない井下さん、俺は部屋の角の自動販売機の裏に隠れていた。暁和に足の速さでは敵わないからな。俺なりの作戦だ。暁和は10秒も経たずに50m以上離れた井下さんを捕まえた。タッチした瞬間、井下さんが満面の笑みを浮かべていたのは見間違いだろうか?井下さんは暁和の元カノで暁和はスゴい重かったから別れたと言っていた。大学内でも悪い噂が後を絶たない。俺もたまに井下さんが暁和を観察してる事があるから直接的な関係は全くないのにいつの間にか俺の間では知り合いの様なものだ。井下さんには悪いが俺は井下さんが捕まったと同時に2Fに続く階段を登り、新たな隠れる場所を考えていた。
2Fに着いた俺は階段を登る音が聞こえてきたので急いで隠れ場所を探そうとしていたが、ロッカーの中から手招きが見えたのでもう隠れ場所を見つける時間はないと思い、匿ってもらう事となった。誰かも分からなかったが、助けてもらったので俺は暗闇の中で小声でそっとありがとうと囁くと、可愛らしい女性の声がかえってきた。俺はこの声が誰なのかって事は一瞬で分かった。小野寺さんだ。俺は人生が懸かっているゲームの最中にも関わらず心臓の音が小野寺さんに聞こえてしまう程ドキドキしていた。俺は暗闇の中でロッカーの取っ手を探っていると、何かマシュマロの様な物を握ってしまった。何かも分からなかったので揉みしだくと小野寺さんのアッアッという◯ぎ声が聞こえた。俺だって一応男だ。今まで何を掴んでいたのかが分かると自然と冷や汗が出てきた。俺は小声だが必死に小野寺さんに平謝りすると、小野寺さんは優しいのですぐに許してくれた。しかし、人2人が入るのもかなりキツい場所でこんな事をたから勿論井下さんにバレて、ロッカーを開けられてしまった。手前にいた俺はすぐにタッチされ、井下さんは何処かえ逃げて行った。俺の真横で小野寺さんが身体中をガクガク震わせて怯えている。扉は井下さんに開けられているので周りの光が中に差し込んでくる。俺は小野寺さんの顔を光が照らした瞬間、小野寺さんが泣いている事に漸く気づいた。俺は好きな人を泣かせてしまったのだ。そりゃそうだ、人生の懸かった鬼ごっこで真横に鬼がいるんだから。だが俺はここまで匿ってくれてあんな事をしてもすぐに許してくれた小野寺さんを裏切る事は出来なかった。俺は何も言わずにロッカーの取っ手を掴んで扉を開け、その場を立ち去った。
俺はさっきまで鬼がここにいたとすると逃亡者は1Fにいる可能性が高いのではと予想し、階段を2段飛ばしで下った。案の定俺の予想は的中した様で、1Fに着くと目では確認出来ないが、人の気配が沢山した。因みに俺は既に運動神経が良い暁和と磨人と響を捕まえる事は諦め済みだったので、クズかもしれないが比較的足の遅い女子を狙おうとした。本音を言うと俺だってお金を稼ぎたい。さっきだけは皆んなに猿と呼ばれている俺の猿の恩返しだ。俺が1Fの中心に移動すると、飲食店エリアに居た大樹が2Fに猛ダッシュで消えた。追いかけようかとも思ったが距離的に無理だろう。最も規模の大きいカジノエリアには翔龍と井下さんがいた。どちらを捕まえるべきか…単純に考えれば足の遅い井下さんだが俺とは真反対の位置に居るし階段にもあそこからの方が近い。2Fに逃げられるとかなり面倒だと思った俺は高校で陸上競技部に入っていた翔龍に決めた。今の言葉で翔龍が1番手強いのではと思った人もいるだろうがそれは大きな間違いだ。あいつは1年生の前半で幽霊部員となりほぼ部には出ていない。足の速さは中の下だ!それなら中の中を極めた俺なら捕まえられるんじゃないだろうか?意を決した俺は翔龍を追いかけた。あいつは上手く設置物を利用して井下さんの方へ逃げた。なんとあいつは隅っこで腰が抜けてしまった井下さんを囮にしようとしたのだ。なんてクズなんだ!?さっきの俺よりクズじゃないか。だから女子に嫌われるんだ。だがやはり翔龍はあまり足が速くなく井下さんの方まで行く前に捕まえる事が出来た。俺はいち早くこのエリアから脱出したかった為、ドアを閉めてドア窓から2人の様子を覗く事にした。これなら翔龍が襲ってきても階段が近いので簡単に撒く事が出来る。翔龍は俺に捕まった後、体力がもう限界だったのか息を荒げていた。その息が段々と弱々しい方の息に近づいていく。あいつは腰が抜けてへたりこんだ井下さんを歩いて捕まえた。その後井下さんは足が遅い為、誰も捕まえる事が出来なかった。
所持金も1番低かった為主催者に罰を言い渡された。その罰はあの100万円はどうやら現実世界の俺達の金だったらしい。1番所持金が低かった人だけ現実のリアルマネーに直接影響するそうだ。1人暮らしの井下さんはどうなるのだろう?ともかくこれで1人目の脱落者が決定した。なんだか今日の2時間は今まで生きてきた中で最も長い2時間だった気がする。そういえばトランプが何だとか主催者が言っていたが細かい事は現実世界で考えようと思った。そんな事を考えながら個室に戻り寝た。