都落ち
また1人また1人と離れてゆく。
人がどんどん消えていくような気がした。
決して世の中から浮いている訳ではない。
しかし周りの人間が離れていく感覚がする。
私の周りだけ人が消える感覚がする。
自分の人生に満足していない訳ではない。
どちらかと言えば順風満帆、人並みの苦労や幸せを経ているはずだ。
しかし自分の居場所がないような気がして、なんだか私は消えたくなった。
2017年・春
私はお笑い養成所の入学式に参加している。
「お前らの半分以上が養成所も卒業できんと夏には消える」
「ほんで、お前らのほぼ全員が視聴者のまま終わるんじゃ!!」
あの消えたくなった日から気づけばここに座っていた。
いや、私は消えたのかもしれない。
あの順風満帆な私はもう消えた。
自分で言うのもなんだが、そこそこのレベルの国立大学に合格していた。が、それを蹴ってここにいる。
今までの努力や常識を蹴ってしまうほどの場所なのか。
私は親不孝者だ。
だが驚くほどに何も後悔はしていない。
「お笑いというのは・・・」
入学式では、全く名前も知らないババアが嬉しそうにお笑いについて語っている。
どうやら芸人ではないらしい。
芸人でもないのにあそこまで語れる自信に拍手を贈りたい。
入学式が終わると少し自由解散の時間があり、そのあとガイダンスがあった。
SNSとやらで事前に知り合っていた同期たちがこの自由時間に張り切ってたむろしている。
そういうやつらほど夏には辞めてるのだろうと心の中で毒を吐き出し、私は一人でアリを見つめていた。
ガイダンスに向かうと無名の先輩たちが偉そうに立っていた。
挨拶の方法が違う、お前らは視聴者になる、どうせ辞める、売れてないのに調子に乗るな、と。
お前らにも当てはまるだろうという気持ちを押し込んで先輩の都合のいい返事を繰り返した。