第12話 勇都とマキャー…
勇都は、マキャーを見て不愉快な気持ちになっていた。
それと同時に、マキャーの得体の知れない雰囲気と実力に恐怖もしていた。
勇都は、無意識の内に、サマエルが変身した魔剣グランベリーの柄に手を掛ける。
「おいおい。ちょっと待てよ!砂漠では確かに色々あったかもしれないが、俺は、ここでお前と戦う気はない。何もしない!!」
マキャーは、両手を挙げて薄ら笑いを浮かべる。
周りにいた冒険者の一部が、勇都とマキャーの様子をじっと見ていた。
(頭を冷やせ馬鹿者。ここで殺し合いをするつもりか?衛兵に捕まるぞ。あの狐に殺意はない。わしから手を放せ!!)
サマエルが勇都を叱る。
「あ…う…、はい…」
勇都は、少し項垂れてグランベリーから手を放す。
「そうだよ。せっかくの稼ぎ場所だ。お前とは戦わない。約束する。俺は、ここに金を稼ぎに来ただけだ。お前もそうだろ?ヒヒッ。」
マキャーは、闘技場を指差して笑う。
「俺はさ、お前よりもレベルが高いんだよ。中級か、上手くマッチすれば上級にエントリーしてモンスターと戦ってお金を手に入れたい。お前とは関わらないよ。安心しな。どうせお前は初級の方だろ?」
マキャーは、長身の体をくるりと回転させ指を鳴らす。
勇都は、マキャーに当てられ図星だった。
言葉を発することが出来なかった。
「それにこの街では、喧嘩や殺人は御法度だ。そんな事したら捕まるし、そんなのは俺も嫌だね。リスクが高いだけだ。今、お前と戦う理由もないしな♪」
マキャーは、口笛を吹きながら勇都を見る。
「ま、砂漠の事は忘れてさ。お互い食い扶持の為に稼ごうや。ま、検討を祈る。エントリーするから行くわ。じゃ。」
マキャーは、勇都に手を振り去っていく。
マキャーは、独り言を小さく呟く。
「ま、ここ以外の場所で会えばわからんがな。フフッ…」
マキャーは、そう言いながら列に並び姿を消した。
勇都は、黙ってマキャーを見送ることしかできなかった。
マキャーに倒された悔しさがあった。
そして、マキャーの強さにも恐怖していた。
自分よりもレベルが高く強かった。
ここで戦っても勝てる自信は無かった。
マキャーと戦わずに済んで安堵している自分も居た。
情けなく泣きたい気分だった。
(勇都よ。気持ちを切り替えろ!これから初級の受付をするんじゃろ。あの狐の事は忘れ、これからの事に集中せい!!)
サマエルは、勇都に喝を入れる。
「…そうですね。本来の目的を忘れてました。ありがとうございます師匠!」
勇都は、いつもの明るさを取り戻していた。
(よし、受付を済ませるぞ。初級の所に行くぞ。)
勇都は、頷き受付へと向かって行った…




