第52話 援軍
勇都達の前に巨大な百足が蠢いていた。
口や脚が細かく動き、その場にいる者達に不快感を与えていく。
百足の上空には、多くのガーゴイル達が叫び声を上げていた。
その眼差しは、険しく勇都達に向けられていた。
「お、親方。本当にもうヤバいです。何とかしないと…」
ジミーは、大鎌を百足達に向けてながらも背後にいたヒューリーに呼び掛ける。
彼の顔は、青褪めていた。
「……」
ヒューリーは、無言を貫く。
額には、大量の汗を掻いていた。
ひたすら、鉄の棒を組み立てて何かの形を作っておりその作業に没頭していた。
「我らが道を切り開くしかないでござる…」
「インゲンの国の為に命を賭けるわ。」
ハザンとアミナは、刀を眼前の怪物達に向ける。
彼らは、死を覚悟して攻撃する準備をしていた。
勇都は、息を整えて城の天守閣を見る。
「何とかあそこに到達しないと行けないんだ。そうすれば、この状況が打開できる気がする。」
勇都は、城を見上げて考えていた。
(そうじゃ。あそこに只ならぬ黒い気配がわしにも感じる。そこに国を乱す元凶が必ず居る。)
魔剣グランベリーに姿を変えている毒の女神サマエルは、勇都の心に呼び掛ける。
(勇都、ここは犠牲を払っても我らは行かねばならぬぞ。)
勇都は、サマエルの言葉を聞いて全身が固まる。
「し、師匠。僕は、ここで誰も死なせたくない。自分だけ上がりここを皆に任せるのは…」
(馬鹿者!!)
「?!」
突然、サマエルが勇都を叱った。
勇都は、驚いて言葉が発せない。
(よいか。よく聞け。誰かがやらねばならぬのだ。ここで一番速く城に上がれるのは、お主しかおらんのだ。攻撃力もここにいる者達の中で誰よりも高い。奮戦しても、お前の体力やわしの能力もいずれ尽きる…)
サマエルは、先程と違い声のトーンが柔らかくなっていた。
「で、でも…」
「あぶねえ!!!」
勇都目掛けてガーゴイルが2匹急降下してきた。
ジミーの大鎌が大きく振られる。
アミナは、高く跳躍してガーゴイル目掛けて斬りつけていく。
「グエエエエエエッ!!」
ガーゴイルは、身体を聞き裂かれて絶叫しながら地に倒れた。
ジミーとアミナは、勇都の前に出ていた。
「行けよ。俺達なら何とか耐えられるからよ。」
「勇都殿!貴方しか頼めない事です。我等に構わず上へ。」
ジミーとアミナの前に、百足がゆっくり迫って来た。
「ああ気持ち悪ぃ。俺様の鎌であの化物斬らないといけないのが不快過ぎる。」
ジミーは、腰を落として大鎌を脇に構える。
ガーゴイル達は、勇都の上空を旋回し始めた。
(むっ、この気配は?!)
サマエルが何かを感じ取り呟く。
何かが凄い勢いで走って来た。
何体かのガーゴイルは、それに反応して叫びながら急襲を掛けた。
大きな鉈の様なものが、勢い良く振られる。
一瞬で、ガーゴイルの身体が吹き飛び辺りに散らばる。
それは、大きく黒い姿をしていた。
更に、百足に近づいて行き鉈が大きな音を立てていく。
「〇×△■…」
百足は、足が数本上空に吹き飛ばされていた。
意味不明な叫び声を上げていた。
苦しむ百足の前で、黒い何かが停止した。
(お、お前達は…)
サマエルは、ようやく気付いた。
それは、大きな黒い鬼だった。
その鬼の背中には、1人の眼鏡を掛けた女性がしがみついていた。
「はー、やっと着いた。お待たせしました。先輩!」
女性は、グランベリーとなったサマエルに向かって手を振る。
その顔は、明るく笑顔だった。