第51話 覚悟と危機…
ネロは、勝ち誇ったかのように嬉しそうに笑みを浮かべていた。
ユキヒロが球に両手を入れた。
(これで完全にインゲンの国は我らの…。魔王様のモノになった。後は、邪魔な奴等を片付けてこの国の民を支配すれば問題ない…ククククク…)
ネロは、口を大きく開けて舌を出していた。
ユキヒロの左手が光っていた。
しかし、全く何も変化がなかった。
「?!あの球に白虎の力を契約した者が入れれば動くはずだが…。時間が掛かるのか…」
ネロは、一瞬真顔になり笑いを止めた。
「まあ…簡単に直ぐには動かないか。暫く待つか…。」
ユキヒロは、青白い顔をしながらネロに手を伸ばす。。
「あ…あ…く、く、薬…。薬を…」
「もう少し待て。そうすればいくらでも薬をくれてやる。」
ユキヒロは、ネロにそう言われてニヤリと笑った。
ユキヒロの身体に装着された白虎の鎧。
白虎は、鎧を通してネロとユキヒロのやり取りを静かに見ていた。
〈ふぅ…奴等はまだ気づかない。我の力を得ても1人だけでは何も変化は起きぬ…。ただ、時間の問題だ。気づいた時がどうなるか…。今は、ユキヒロの身に宿りどうすることもできぬ。サスケ、何とかここまで来れぬか…>
白虎は、サスケの到着をひたすら願っていた。
「だ、駄目だ。城の中から上がれない。」
サスケは、城から出てきた。
天守閣まで登ろうとしたが見えない壁の様な物に塞がれて進むことが出来なかった。
「屋根から行くしかないな~。」
サスケは、瓦屋根をよじ登っていた。
「うわっ。滑るし手が痛いな~。でも、頑張って登るしかないや。」
サスケは、ゆっくりと登っていた。
手は、真っ赤になり痺れてきた。
「う…あ…、ま、待たれよ…」
「えっ?!誰…」
サスケは、辺りを見回す。
サスケの足首が強く掴まれた。
「うわっ!!」
サスケは、思わず叫び声を上げる。
それは、ネロと戦い破れ屋根に叩き落とされたイズモの手だった。
片腕を切断され、頭や身体から血が出ていた。
それでもイズモは、サスケを見上げて足首に力を入れていた。
「あっ、イズモさん!だ、大丈夫?!ちょ、ちょっと。痛い。足首強く掴まないで~。」
サスケは、イズモに駆け寄る。
イズモは、斬られた腕の止血を布でしていた。
「な、何とか。辛うじて生きているでござる…」
イズモは、額から大量の汗を掻いていた。
「そ、それよりも天守閣に行きあの悪魔を止めるのが先決でござる。わ、私の事よりも
そちらが優先。今はとても戦えないのでサスケ殿に使っていただければ…。も、持って言ってくだされ…」
イズモは、自分の腰に巻いてある袋に目をやる。
「わ、私は、や、役立たずだから、た、戦えません…。さ、サスケ殿の役に立つはず…」
イズモの息が次第に荒くなる。
「ぼ、僕にはそんな力ないよ~。厳しい、無理だよ…。天守閣まで行けるかどうかわからないし。」
サスケは、イズモに頼まれたが浮かない顔をしていた。
するとサスケの手首が強い力で掴まれる。
イズモが握っていた。
「サスケ殿…。いやサスケ様。貴方は、この国の将になる器。ユキヒロ様が今、あの悪魔と一緒にいる以上、簡単にユキヒロ様の眼を覚ます事はできません。このインゲンの国を守れるのは貴方様しかいません!私は、口に出すのは苦手な人間です…。でも一つだけ言えることがある…」
「え?!」
イズモは、サスケを真剣な眼差しで見る。
「私は、このインゲンの国が…大好きです。この国の民の平和や幸せが守れるならこの命惜しくない…。長年、様々な任務を熟してきました。ひ、人に言えないような事もしてきました…。グホッ…」
イズモは、呼吸が荒くなり苦しそうしていた。
口から血を流していた。
唇の辺りが真っ赤に染まっていた。
「ウラー様に言われたからではない…。この小さな国を。平和なインゲンの国を…す、救いたい。それだけです。今、片腕を失いまともに立ち上がれもしない。情けない…。だから、サスケ殿に託すしかないのです。」
「………。僕が、兄上を止められるの?」
サスケは、真剣な顔をしていた。
「あ。貴方様なら必ずできます。行動力、知識もある…。そ、そして、人を思いやる大事な心がある…。私利私欲の為でなく、きっとこの国の事をしっかり考えてくれる将に相応しい器です。」
サスケは、しゃがんでイズモの顔を見る。
「…やるよ。僕、やるよ。この国を救う為に。インゲンの国に住む人々を守る為に兄上と…戦うよ!」
サスケは、イズモの残っている手を握った。
イズモは、ゆっくりと無言で頷く。
サスケは、天守閣を見上げ拳を握る。
「よし!行ってきます!!」
サスケは、屋根を登り始めた。
一方、勇都は、息が上がっていた。
(勇都!息を整えて落ち着け。正確に相手を倒していけ。)
魔剣グランベリーに変化した毒の女神サマエルが勇都に呼び掛ける。
「わ、わかっています…」
天守閣に行くために、赤い蕾の化け物を弱らせようと挑戦しているが、上空に次々とガーゴイルと呼ばれるモンスターが集まってくる。
ハザンやアミナも勇都を行かせるために奮戦していたが、次第に疲労の色が濃くなってきた。
「お、親方。ま、まだですか。どんどん鳥野郎が増えてきます。流石の俺も疲れてきましたよ!」
ジミーは、大鎌を振るいガーゴイルを斬り裂いて行く。
フューリーの真上にやってくるガーゴイルを次々と近づけさせない様に撃退していた。
「もう少し待て!これは、組み立てに非常に時間が掛かる。俺も教わったばかりだ。こ、この棒をここに挿入して、そこから…」
フューリーは、額に汗を掻きながら何かを準備していた。
勇都は、グランベリーを影切を一緒に動かし、右腰の辺りに付ける。
「ポイズン…スラッシュ!!!」
グランベリーと影切から紫色の液体が飛んでいく。
それは、刃の様な形をしていた。
それは、飛んでいたガーゴイル達に当たる。
「ゲオオオオッ!!」
ガーゴイル数匹が地面に叩きつけられて落ちた。
アミナとハザンは、ガーゴイルの喉元を突き刺して止めを刺した。
(何とかガーゴイルを一層できれば、天守閣に登ることが出来るんじゃが。一体どうすれば良いのか。このままだと体力も奪われ行く前に全滅してしまう…)
サマエルは、勇都達の身を心配していた。
ボコッ
突然、地面から大きな音がする。
「な、何だっ?!」
ジミーは、大鎌を力強く握り腰を低くする。
地面から何かが蠢いていた。
「下に何かいるわ!」
アミナは、刀を地面に付き刺す。
すると地面が盛り上がり、何かが飛び出してきた。
「何だ、あれは?!」
ハザンは、居合の構えをして身構える。
「百足だ…」
勇都達の前に、大きな百足が現れた。
足を動かしていて、ゆっくりと伸びて行く。
百足は、勇都達を覆うように下から見下ろしていた。
空には、何処からかガーゴイル達が飛んできて百足の真上の上空に集結していた。
そして、赤い蕾は、全身を震わせるような動きを見せる。
「絶体絶命ってやつか…」
フューリーは、黒い金属の様な物を嵌めこみながらも呟く。
勇都は、黙って静かに息を整え始めていた…。




