第46話 兄と弟…
「おっ、お待ちくだされ。サスケ様!!」
ハザンが駆け出して行ったサスケを呼び止める。
サスケは、体を黒い煙に巻かれて苦しそうにしていた。
上空から次々とガーゴイルが鋭い爪を突き出して、白虎目掛けて急降下してきた。
「白虎!!」
サスケは、白虎の近くにやって来た。
『サスケ!伏せい!!!』
白虎は、サスケに向かって大声で叫ぶ。
サスケは、その場にしゃがむ。
白虎は、両手の爪でガーゴイルを引き裂いた。
「馬鹿者!命が惜しくないのか!!我は、今自分の事で手一杯だ…」
白虎は、サスケの上に覆い被さる様に身を低くする。
「良かった~。無事で。」
サスケは、白虎が健在で嬉しそうにしていた。
「お前も無事で何より…。それよりもここを離れよ。危険だ。」
「ねぇ、白虎。一体何があったの?」
サスケは、白虎に質問をする。
『突然、庭の地中からあれが生えてきた…。すると我の体にこんな煙の様なものが纏わり始めた。動きにくくて体が重い。今度は、上から鳥の様な獣が我に襲い掛かってきた…。』
白虎は、サスケに詳細を教えた。
そして、上を見上げる。
それは、地中より出てきた赤い蕾だった。
『…嫌な予感がしてならぬ…。それに何か強大な威圧感が近づいてきている…。』
「父上や兄上は見かけたの。」
サスケの質問に、白虎は無言だった。
「サスケ様!」
ハザンとアミナがガーゴイルを斬り捨てながら近づいてきた。
その後ろには、ジミーやイズモ、フューリー、勇都が続いていた。
「何か、あの赤い蕾不気味だね。」
サスケは、白虎の顔を覗き込むように見ていた。
そして、サスケは、白虎の体に取り巻く黒い煙に右手で触れる。
「うっ!」
サスケの手に電流の様な衝撃が走る。
『サスケよ…。止めよ。お前の身が心配だ…。この煙は我が何とかして見せる。』
白虎は、サスケに止める様に言う。
「い、嫌だよ。ぼ、僕は白虎を助けたいんだよ。今までこの国を守ってくれていたんだ。草の一族とも戦ったりしてくれた。で、でもね。草の一族は悪い奴じゃないんだよ。僕は、彼らが君の血を少し分けてもらい救いを求めているだけなんだよ。」
サスケは、両手で煙に手を付ける。
サスケの両手が真っ赤になる。
『何…。どういう事だ。サスケよ…。』
「ぬっ、ぬ、ぬああああああっ!!」
サスケの両手から小さな光が放たれた。
すると白虎の体の黒い煙が消えた。
「へ、へへっ。や、やった。」
サスケは、尻餅を付きながら笑っていた。
額に大量の汗を掻き、両手から湯気の様なものが出ていた。
『無茶をしよって…。お前と言う奴は…。』
白虎は、一瞬目を瞑った。
「こ、これでも僕は一応君と契約しているんだから。君の力も使える。兄上の様に上手く使いこなせないかもしれないけど今回は役に立ちたい。こんな僕でもこの国の為に何かしたい。白虎を助けるのも当たり前だよ。」
『サスケ…』
白虎は、目を細めてサスケを見る。
「君の力。久しぶりに僕、使ってみようかな…。」
すると白虎の背後に大きな音がした。
白虎は、音の方向に振り向く。
「何だ。あの感覚は?!」
勇都は、その場に止まる。
(勇都よ。強大な邪悪な気を感じる…。気を付けるのじゃ。)
魔剣グランベリーに変身した毒の女神サマエルは、勇都に警告する。
「え、あ、兄上?!」
サスケは、固まっていた。
城の階段を降りて城門に出てきたのは、サスケの兄のユキヒロだった。
サスケは、穏やかで強く凛々しい尊敬するユキヒロが出てきたと思っていた。
しかし、ユキヒロはいつもと違う雰囲気だった。
刀を持ち、ふらふらとゆっくり歩いていた。
目が虚ろで、顔色は青白く、口から涎を出しながらこちらに向かってきていた。
「いつもの兄上ではない!一体何があったの?」
サスケは、言葉に表せなかったが、ユキヒロがとても危険だと肌で感じ取っていた。
「お・お・お…。わ、我が弟…さ、サスケではないか…」
ユキヒロは、立ち止まりサスケを見る。
そして、ニヤリとサスケを見てユキヒロは怪しい笑みを浮かべた。
「………!!」
サスケの体に鳥肌が立った。
背筋に寒気を覚えた。
ユキヒロが自分に向けた笑みに殺意が籠っていると本能的に反応していた。
「兄上!い、一体何があったの?!父上は何処。大丈夫なの?!」
サスケは、ユキヒロに向かって叫ぶ。
『ユキヒロ…。お主…。』
白虎は、サスケの身を守る様により低く体を屈めて少し前のめりになる。
「サスケぇ…。無事…父上は……無事!だ、大丈夫だよ、ハハッ…」
ユキヒロは、上空を見てゲラゲラ笑い始めた。
「鳥も飛んでいる…。ぐるぐる回っていて多い…。今日は、よ、良い日だ…。」
上空で旋回したり、留まっているガーゴイルを見て更に笑う。
「び、白虎。こ、こ、今度、こ、この国の将…。ち、父上からきょ、きょ…。許可を頂いたぞ…。私がこの国の将だ…。め、めでたいだろう…。」
白虎は、唸り声を上げてユキヒロを見る。
「将として…。こ、この国を仕切る…。そ、その為にはて、天守閣のあ、あれが必要…。お、お前のち、力が必要だ…。」
ユキヒロは、掌を白虎に向ける。
『ユキヒロよ…。お前、薬に身を委ねたか…』
白虎は、鋭い眼差しでユキヒロを睨みつけていた。
「このくに…この国の将は、わ・だ・し・だ…。過去からの契約だ…。し、従え。」
ユキヒロの掌が光り始める。
『う…ぬ…ぬぅぅ…や、止めよ…。今、我の力を取り込めばお主の身が…』
白虎の体中の毛が逆立つ。
ユキヒロの手に吸い込まれるように白虎の体が少しずつ引き寄せられる。
「兄上!いつもの兄上じゃないよ!!白虎嫌がっているじゃないか。止めてよ!!!」
サスケは、ユキヒロに向かって掌を向けた…




