第39話 笑うユキヒロ…
朝、インゲンの国の城から数十人の黒き着物の役人達が集まっていた。
武器や鎧を纏い準備をしていた。
そこに、インゲンの国の現在の将であるスケナオが現れた。
赤い鎧を身に纏い、槍を持っていた。
「皆の者。よう集まった!これから、我が国に害をなす者を捕らえる。気を引き締めよ!!」
「おう!!!」
スケナオは、槍を高く上げて叫ぶと役人達も叫ぶ。
スケナオの両隣りには、中年の黒き着物を着た家老のゲンシンと、お抱えの僧侶のリキュウが居た。
「将よ。本気で行くのですか?」
「拙僧も間違いであると信じたいです。」
ゲンシンとリキュウは、スケナオの様子を伺いながら言葉を掛ける。
スケナオの表情は、とても険しく表情を崩していなかった。
「…ゲンシン、リキュウ。…これが真実なのだ…」
スケナオは、絞り出すような声で二人に告げた。
スケナオを先頭にゲンシン達は続く。
スケナオ達は、城内の離れにあるとある屋敷に向かっていた。
屋敷に居た役人や女中達は、驚いていた。
「い、如何なされましたか。将よ?!」
屋敷の者達は、突然のスケナオ達の訪問に驚いていた。
「この奥に用があるだけだ…。」
スケナオ達は、屋敷の長い板張りの廊下を歩いて行く。
進むと大きな部屋の扉が見えてきた。
役人達が扉に手を掛ける。
「ユキヒロよ…。入るぞ…。」
扉が開かれスケナオ達は、部屋に入っていった。
スケナオ達が訪れた屋敷は、長男のユキヒロの住む屋敷であった。
「むっ…。」
スケナオは、持っていた槍を目の前に向けて腰を低くして構える。
大きな部屋の中央には、人が2人居た。
1人は、膝を付き項垂れている着物の男がいた。
もう1人は、項垂れている男の後ろに立っていた。
絵帽子を被り、太っていて派手で豪華な着物を着ていた。
「お主は、ジソン。何故商人風情が勝手に出入りしてここに居る?!」
ゲンシンは、ジソンの姿を見て驚いていた。
「ぬぅ。将よ。この一帯が臭いですぞ。邪気が漂うております。妖の気が充満しておりまする。」
リキュウは、首にぶら下げていた巨大な数珠を取り前に突き出していた。
「ふおーっふほふぉ。スケナオ様おはようございます。私は、ユキヒロ様の命でここに居るのです。」
扇子を扇ぎ、ジソンは笑っていた。
しかし、その目は鋭く静かにスケナオ達を睨んでいた。
「わしは、信じたくなかった…。この国は、ずっと草の一族に狙われていると信じていた。色々と調べていた…。城にある国の為に使う金子の現象。町の者達や城の家臣達の謎の死や消息不明が続き、その元凶がわかった。ユキヒロ…、お前達の仕業だったとは!!」
スケナオは、顔を真っ赤にして怒りを膝を付いて座っているユキヒロに見せる。
ユキヒロは、スケナオの問いに答えなかった。
全く動かないユキヒロの肩をジソンは叩いていた。
「スケナオ様。とんだ御冗談を。私は、ユキヒロ様が欲しいと言う事でずっと商売を続けさせて頂きましただけです。手前は何もそんな悪事に加担をしておりません。ふぉふぉ。」
ジソンは、不気味な笑いを浮かべていた。
するとスケナオは、ユキヒロ達の前に何かを投げつける。
それは、白い粉薬が入った袋だった。
「この薬は、我が国に存在しない成分が入っていた。異国の国の薬品だ。飲むことで人の気持ちを高揚させて、脳に幻覚を見させて正常な判断をできなくさせる。それと同時に人間が普段使う事の出来ない肉体に眠っている潜在能力を引き出して高め超人的な動きをさせる作用もある。この薬が出回り、国の犯罪や違法な取引も増えた。薬を使い捕らえた者達が白状をしたぞ。ジソンが扱う薬だと。」
スケナオ達の後ろに居た役人達も、武器を取りゆっくりと広がりジソンとユキヒロを囲んで行く。
中央にいたユキヒロの体が小刻みに動き始めた。
「ふ、ふふっ…。は、はは、はははははっ!!!」
ユキヒロは、顔を上げて立ち上がった。
「ユ、ユキヒロ。お、お前…」
スケナオは、ユキヒロの顔を見て驚いていた。
ユキヒロの目が真っ赤に染まり、鼻水や口から涎を出して笑っていた。
「ち、父上。ここに居るジソンのくれる薬は最高なんですよ…。父上の子供としてわ、私に掛かる重圧はとても重い。父上の様に強く偉大ではない…。胃がキリキリして毎日吐きそうでした。そんな最中、母上の病死。あ、あれは辛かったな。一番落ち込んだ…」
ユキヒロは、ゆっくりと立ち上がった。
「そんな時に、ジソンと会い勧められた薬を飲んだら…ハマっちゃったんだよね。これ最高ですよ。嫌な事を忘れて、身体の疲れを取ってくれる。薬飲むと自分がやらなきゃいけない事がはかどるんだ。白虎の力もさ、使うと体中に痛みが走り苦しいんだよ。でも、ジソンのくれる薬がそれを無くしてくれるんだよね…。」
ユキヒロは、にやりとスケナオ達に笑っていた…。




