第38話 ポイズンコントロール…
「はい。それでは、また始めましょう。休憩中に少しでも訓練することが大事ですよ。勇都君。」
ミネルヴァは、眼鏡を上げながら勇都を見る。
勇都は、地面に胡坐を掻いていた。
「ゆっくりと呼吸をして。吸って吐いて。数回繰り返したら、胸の中に球体を思い浮かべて…」
ミネルヴァの指示に従い、勇都は呼吸を始める。
勇都達は、バラキ達の住む草の一族の棲家から出て5日が過ぎていた。
勇都とサマエル、アミナ、ジミー、ハザン、イズモ。
そして、インゲンの国の将スケナオの次男であるサスケとサマエルと天界で過ごしたことのあるミネルヴァ、青き鬼ミロクも同行していた。
インゲンの国に向かう道中で、勇都一行は休憩を取っていた。
「球体の色は、紫色を思い浮かべて。そこに向かってゆっくり呼吸をして行って…。気持ちを落ち着けたらそれを少しでもいいから動かすイメージで…」
ミネルヴァは、勇都に丁寧に教えていく。
少し離れた場所には、人の姿に変身したサマエルが居た。
隣にはジミーが石の上に座っていた。
「ユウトの奴。出発してからずっとミネルヴァの姉ちゃんと何やってんだ?あんな事して強くなれるとでも思っているのかよ。」
ジミーは、呆れ顔で勇都達を見ていた。
サマエルは、ジミーに向かって溜息を吐く。
「ジミーよ。わかっておらぬな。あれは、大事な訓練じゃ。わしの強大な毒の力に耐える為に大事な事。勇都が更に強くなるためには、ああやってミネルヴァの指導を受けねばならん。」
サマエルは、腕組みをしてじっと勇都を見ていた。
勇都は、草の一族の棲家に乗り込んだ際に、全身紫色に染まり倒れた。
運よくミネルヴァの処方した薬で回復をした。
その現象は、サマエルの毒による影響だった。
冒険者だった勇都は、奇跡的に毒の女神サマエルと出会った。
サマエルの変化した毒の力を帯びた魔剣グランベリー。
サマエルの力もあり、毒のスキルを使い次々と敵を倒し成長していった。
しかし、毒の影響は、勇都の体を蝕んでいた。
今までは運よく出ていなかった。
少しずつの蓄積で発症した。
ミネルヴァは、サマエルから今までの経緯を聞いていた。
「先輩。勇都君。今まで生きてこれたの奇跡ですよ!」
ミネルヴァは、驚いてサマエルに詰め寄っていた。
勇都は、扱う武器は神が変化したもの。
それは、普通の人間が使うには強大なものであった。
熟練し、身体を鍛えている冒険者なら耐えられる。
しかし、勇都は、違った。
現実の世界で死に、異世界にやって来た。
特に訓練もせずにいきなりの冒険者稼業。
そんな人間がサマエルの変化した武器を軽々と扱えることがミネルヴァは信じられなかった。
ミネルヴァが言うには、身体の神経や細胞に少しずつ毒がまわり、破壊される直前だった。
いつ死んでもおかしくない状態であった。
サマエルは、ミネルヴァに今後勇都と冒険の旅に出て生きていくにはどうしたらよいか話し合った。
ミネルヴァは、サマエルの毒の力を利用するには毒の耐性を身に付けることが必要だと訴えた。
それさえ身に着ければ勇都の体にダメージは無くなる。
その為には、毒のコントロールを自分で出来る様になる訓練が必要だとミネルヴァは言った。
訓練を繰り返せば、身体も丈夫になり、更にポイズンウィップ等の毒のスキルの技の威力も増す。
勇都は、サマエルとミネルヴァからその話を聞き自ら訓練を願い出た。
草の一族の根城から出てからずっと休憩中に幾つかの訓練をしていた。
「わしは、直感的に判断したり教え方が正直得意な方ではない。でもミネルヴァは違う。メリハリもあり指導するのが上手じゃ。」
サマエルは、目を細めて勇都とミネルヴァを見ていた。
「呼吸の訓練が一番大事です。勇都君。焦らずしっかりやって行きましょう。」
「はい。」
勇都は、目を瞑り呼吸に集中していた。
「じゃあ。これから1分間。胸にイメージした球体を弾けさせて全身に行き渡る様に呼吸をしながら力を入れてみて。」
ミネルヴァは、勇都に指示した。
勇都は、呼吸を数回繰り返した。
拳を握り全身に力を入れる。
ミネルヴァの言った通りに胸の中にイメージした紫色に染まった球体を爆発させるように思い浮かべた。
「ふっ、はっ、はーっ!!」
すると勇都の全身から紫色のオーラが噴き出した。
紫色のオーラは、小さかったが勇都の全身を覆っていた。
オーラは、揺らめいて動いていた。
勇都は、呼吸を1分間繰り返した。
紫色のオーラは、更に激しく動いて揺らめいていた。
「は、はい。ストップ!休憩していいよ勇都君。」
ミネルヴァは、勇都に呼吸を止める様に言った。
「うわぁ~。つ、疲れたぁ。」
勇都は、全身から汗を拭き出していた。
ミネルヴァは、そんな勇都を黙って見ていた。
(やっぱり凄い。流石先輩が見込んだ子。中々時間が掛かるのにこの短期間でオーラを揺らめかせることが出来るなんて。凄い素質あるわ。どこまで成長できるのか楽しみになってきた。次、どんなことしようかしら?)
ミネルヴァは、にやけていた。
口から少し涎を流し、興味深そうに勇都をじっと見つめるミネルヴァ。
「あやつは、楽しいと感じたらとことん没頭し追及する癖がある。良い面もあり悪い所でもある。頼むから我が弟子を壊すなよー。」
サマエルは、勇都の訓練を見守る事しかできなかった…。




