第36話 一触即発…
「え~っと。サマエルさんだっけ?もう一回その話詳しく教えて~。」
サスケは、ボサボサの頭を掻きながらサマエルに話しかける。
サマエルは、白虎の具合が悪い話を再びサスケに話した。
「…ん。白虎の具合が悪いなんて。僕が確か城を出る時話したんだけどあまり具合が悪いという話聞かなかったんだよね~。力は昔より落ちてきたとは聞いたけど。」
サスケは、首を傾げて考え込んでいた。
「サスケ様。私も剣術の指導で城に行く事がありますが、白虎様は以前よりも眠ったりしていることが多かったです。サマエル殿の話は嘘ではありませぬ。」
ハザンもサスケに白虎の状況を話す。
「先輩。私もサスケ様と同じくその話に疑問あります!聖獣の白虎がこの地に降りてきたとはいえ、寿命は我々よりも遥き長き年月があるはずです。白虎の寿命が尽きると言う事はまだまだです。具合が悪いと言う事は、白虎の体に何かが起きていると言う事。お侍さん。白虎はそちらの国ではどの様な事をしているの?」
ミネルヴァは、ハザンに質問する。
ハザンは、白虎の力を借りて攻めてくる草の一族を撃退している。
サスケの兄、ユキヒロが白虎を変化させて白き鎧を着て国を守っていると教えた。
「確かに兄上がこの国を守ってくれているし、父上の命でそうしてると思うけど。ただ、白虎の力はとても強大で人間が身を纏うにはとてつもないもの。僕も白虎の力を使ったことあるけど耐えられないな~。」
サスケが苦笑いする中、隣のミネルヴァは黙って目を瞑り考え込んでいた。
「むっ。さっきから何を考えておるのじゃ。ミネルヴァよ。」
サマエルがミネルヴァに話しかけた。
「…先輩。白虎の力を使ってサスケ様のお兄様が戦っていると聞きましたけど、そのお兄様は特にお体とか異常はないのですか?」
ミネルヴァは、真顔でサマエルに質問してきた。
「それはわからぬ。ユキヒロは特に体の具合が悪いようには見えなかったぞ。」
サマエルの答えに、ミネルヴァは顔を顰める。
「…以前、天界に居た時でした。とある神が聖獣の力を身に纏うことを試そうとしていました。しかし、その神は、その時体調が悪かった。聖獣の力をその神は数分間だけ発揮できた。その後、聖獣の体調が崩れ調子が戻るまで時間が掛かったことがありました。身に纏う者に異変があれば白虎にもダメージを受ける可能性があるかもしれませんね。」
ミネルヴァの問いに、ハザンは言う。
「特にユキヒロ様は、身体も丈夫で具合の悪い所はないです。何か別の原因があるのでは。」
ハザンは、ミネルヴァとサスケを見て言う。
「ん~。ちょっと白虎の調子が変なのが気になるな。そう聞くと僕もちょっと城に戻って確かめたくなってきたよ。久しぶりに父上や兄上にも会いたいし~。バラキ、少しだけ戻っていい?」
サスケは、草の一族の族長バラキの顔を見て言う。
バラキは、無言で黙ったままだった。
「先輩。私も白虎の不調の原因が気になります!インゲンの国に行って見てみたい。それがわかれば治療も出来るし、許されるのならば白虎の血を少し貰って草の一族の方々の土地を救いたいです。この土地は、何故か次第に荒れ果てていく。彷徨っていた私を何も言わずに受け入れてくれた。草の一族の皆さんに感謝しています。少しでも恩返しがしたいんです!!」
ミネルヴァも白虎を見てみたいという思いを打ち明けた。
「サスケ、ミネルヴァ。それはならんぞ。俺が認めない!!」
サスケとミネルヴァの前にミロクが立ちはだかった。
「俺は、最初はお前達が草の一族に害を及ぼす者と疑っていた。変な事をすれば即殺そうと思っていた。が、この土地や民を考え、万金丹の栽培や病気の者を幾度となく救ってくれた。見に行きたいという気持ちはわかるが、お前らがここを離れればもう二度とは戻らないだろう。それにお前らを信頼している者達は多い。」
ミロクは、狼狽えた表情で二人を見ていた。
「おいおい。あの鬼、今までと違って偉く弱気じゃねえかよ。」
ジミーは、凶悪で強さを誇っていた青鬼ミロクの違う一面を見て内心驚いていた。
「ミロク~。大丈夫だよ。僕は、跡継ぎでもないし次男坊だからさ。また戻ってくるよ。」
「私も草の一族の皆さんと離れるつもりはありません。万金丹は、私の永遠の研究のテーマ。まだわからないことだらけです。もっと調べたいし理解したい。少しだけここを離れるだけ。わかったら戻ってきます。」
サスケとミネルヴァは、ミロクに再びここに戻ると約束する。
「だが、草の一族とインゲンの国は今争っている。向こうに戻ればお前達を閉じ込めるかもしれない。二度と戻れる保証もない。サスケ、お前に申し訳ないがあの国の連中は平気で汚い事をする。我が多くの同胞も殺された。とても信じられない。」
するとアミナが立ち上がった。
「何を言う!それは、お前ら草の一族も一緒だ!!我が国の者達もお前達に多数殺された。私の父も…」
アミナは、唇を嚙みしめてミロクを睨む。
ミロクは、鉈を掴みアミナの下に向かおうとする。
ハザンが日本刀に手を掛けてアミナの前に出る。
「おい。お主達。止めぬか。ここで殺し合いはするな!」
サマエルがミロクとアミナ達を止めようとする。
ドンッ
座っていたバラキが、足を踏み鳴らした。
その場に居た者達は、全て黙る。
バラキは、そこにいる者達を見る。
全員、体が固まり動けなくなっていた。
(この威圧感…。とても強烈じゃ。)
サマエルは、バラキの圧に押し潰されそうになるのを何とか堪えていた…。




