第13話 毒の女神…
女性は、サマエルと名乗った。
20代の女性にしか見えなかった。
しかし、発言に威厳がある。
勇都は、このダンジョンに鎖に繋がれていたサマエルをただの女性ではないと何となく察していた。
「お主、名は何という…この世界の住人でないような気がする…」
サマエルに名前を聞かれる勇都。
勇都は、名前を名乗り、自分がこの世界に来た詳細を簡単にサマエルに話していった。
「ふむ。そうか、転生者か。ゴブリンに襲われここまで落下してきたか。」
サマエルは、勇都の話を納得したようだった。
「あ、あのサマエルさんは、何故、ここに居たのですか?」
勇都は、サマエルに質問する。
するとサマエルの穏やかそうな顔が険しくなる。
眉が上がり、少し鬼の様な形相になり勇都は驚いた。
(やばい!この質問、地雷だったか?!あ、謝らないと…)
するとサマエルは、大きな溜息を吐く。
「はぁ~。実はな、好きでここにずっといたわけではなかったんだよ…」
サマエルの目が潤んでいた。
「私は、天界にいた。毒の女神サマエルと呼ばれていた…。女神なんて言っても大層な身分ではない…」
サマエルの話はこうだった。
天界には、様々な神々が居て生活をしていた。
サマエルは、毒を扱うのに長けていた。
毒を使う事は、殆どなかった。
その知識を活用し、薬草や薬の調合をしていた。
穏やかな生活を過ごしていた。
しかし、数千年前。
とある1人の神が、天界を乗っ取る為戦争を引き起こした。
勢力が2つに分かれ戦いを始めた。
激しい戦いになり多数の死傷者が出た。
サマエルは、どちらの陣営にも突かなかった。
代わりに、戦い傷付き負傷した神々を手当てしていた。
やがて、反乱を起こした神は打ち取られ敗北をした。
勝利したある神々陣営。
その中に、負傷し手当てをした神がいた。
その神は、勝利した代表の神の弟だった。
が、弟は、サマエルの手当ても虚しく亡くなってしまった。
弟が亡くなり悲しみに暮れた代表の神。
弟を救えなかった怒りをサマエルにぶつけた。
事情を説明するサマエル。
しかし、サマエルを快く思わない数名の神が毒殺したのではないかと吹聴した。
サマエルを弁護した神々も居た。
代表の神は、サマエルに厳しい処分を下した。
それは、天界追放…
サマエルは、2度と天界に戻ることは許されない。
地上で数千年の封印という刑を下された。
サマエル自身も戦いで、身内や仲間も失い、悲しみ反論する気力すらわかなかった。
地上に落とされずっと眠っていた…
その落とされた所がベルムダンジョンであったと…
「と、まあこんな所だ。ずっと封じられ眠っていた。意識はあったが、封印の鎖で全く動けなかったよ。そんな所に勇都、お前がやって来たんだ…自由にしてくれて礼を言う…」
サマエルは、勇都に頭を下げた。
「い、いや謝らないでくださいよ。当然の事をしたまでです。」
勇都は、サマエルに礼を言われ照れていた。
サマエルのような美人に言われ悪い気がしない勇都。
「ふむ。お主に助けられたのも何かの縁だ。お礼に勇都の助けになるようなことがしたい。これからどうするのだ?」
サマエルに聞かれ、勇都は、地上に出たいと答える。
「ギルドのミッションもクリアしたし、速く地上の世界に出たいです。階層も6階なんで、何とか」
サマエルは、眉をひそめる。
「ん?6階層。何のことだ。お前、この階層がどの位置にいるのかわかっているのか?」
「え?!」
勇都は、固まってしまった。
ベルムダンジョンは、地下6階の層までと聞いていた。
サマエルの話しぶりから、それが違うような言い方。
勇都は、恐る恐る話す。
「あ、あの。さ、サマエルさん。こ、ここは地下でいうと何階層ぐらいになるんですかねぇ…」
サマエルは、ニコリと笑い勇都に答える。
「うむ。ここは、最下層。地下の30階だ!」
「えーっ!!!」
勇都は驚いた。
自分が落ちた場所は地下30階。
ベルムダンジョンは、地下6階というのは嘘だったという事に気づいた。
「世間的には6階と言っているのだろう。わしのような神を封印するぐらいの場所は深い所でないとな。」
勇都は、毒の女神サマエルの笑い顔を見ながらしばらく呆然としていたのだった…




